第30話「ファラオ・パンチ」
「悪い、ガサク。すぐに戻る」
ツタンカーメンは背中のハヤブサの翼をバッと広げて飛び立った。
「ああ。うん。だよな。お前はな」
つぶやいたガサクのトゲが、グニャリといびつな形に曲がった。
アポピスの牙がアテン神に迫る。
「ファラオ・パーーーンチ!!」
ホルス神の光をまとったツタンカーメンの拳が、アポピスのほほをとらえた。
「アテン神! 何であんたがこんなところに!?」
「つーたんとガサクくんを助けに来たんだよォ!」
叫んでいる間にアポピスは長い胴をくねらせて体勢を立て直す。
ツタンカーメンは天に向けて両手を伸ばした。
「来たれ! 我が副葬品よ!」
空中にいくつもの小さな穴が開き、その先が墓所とつながって、納められていたさまざまな武器の
弓。
槍。
儀式用の黄金の剣。
隕鉄で作られた特別な剣。
エジプトでは一般的な青銅の剣。
それらを手に持って戦うのではなく、アポピスの頭上からバラバラと降らせて攻撃して、アポピスの気を引きつける。
その隙にアテン神が、ガサクのもとへと舞い降りた。
「さぁ!!」
アテン神がガサクに触手を伸ばす。
「…………」
ガサクは後退りした。
アテン神がさらに腕を伸ばす。
ガサクはさらに下がり、トゲが地面に引っかかって転び、アテン神の手が空を切る。
「うわあッ!!」
アポピスに弾き飛ばされたツタンカーメンが、アテン神の背中にぶち当たり……
「ぎゃああっ!!」
押されたアテン神がガサクのトゲにブスリと刺さった。
ガサクの口にゆがんだ笑みが浮かんだ。
その三人に目がけてアポピスが突っ込んでくる。
閃光。
雷音。
巨大な稲妻の槍が、アポピスの口からしっぽへ突き抜けた。
槍を投げたのは邪神セトだった。
アポピスは全身をビーンと伸ばして頭から墜落し、まるで天と地をつなぐ一本の柱のような格好になって地面に突き刺さった。
「フン!」
邪神が鼻を鳴らす。
「わーい! セトくん、ありがとう!」
アテン神が無警戒に邪神に飛び寄り、抱きつこうと腕を広げる。
しかし邪神はアテン神の触手をむんずと掴み、ぶんぶん振り回して勢いをつけて、思い切り遠くへ投げ飛ばした。
「あ~~~れ~~~っ!?」
アテン神の悲鳴が遠ざかって消えていって、空の彼方でキランッと光り、地獄の天井にぶち当たったらしき音が響いた。
「セ、セト神!? あんたいったい何がしたいんだ!?」
叫ぶツタンカーメンを一睨みで制し、邪神は痺れて動けなくなっているアポピスを指差す。
「奴の尾は、上の冥界まで届いておる。ガサクとやらよ、
「……え……?」
「這い上がれると思うのならばな!!」
そびえ立つアポピスの胴体は、まるで断崖のようだった。
目の前に居るのは地獄の領主。
それにふさわしい高笑いを上げ、邪神は砂煙とともに姿を消した。
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