第7話「農園の主」
「気をつけろ! こいつはただの照明じゃない! 侵入者を防ぐ罠にもなっているんだ!」
ガサクが自分の体をスイレンとファジュルの間に入れてファジュルを下がらせる。
ファジュルの安全を確かめてから、ガサクがツタンカーメンの様子を見ると……
こやつは平気な顔で水路に両手を突っ込んで、じゃぶじゃぶと杖を洗っていた。
花が発する光を顔に浴び、腕が花びらにガンガン当たっていても何ともない。
「日光はな、邪悪なモノを退けるんだよ。おれ達が邪悪じゃなければ問題ないんだ」
毒蛇は毎年多くの死者を出す。
故に古代エジプトでは、女神ウアジェトの化身であるコブラを除き、邪悪なモノとされている。
いや、地上の毒蛇には悪気はないのかもしれないが、少なくとも冥界にうごめく蛇は、かのアポピスの眷属なのである。
「てことは俺は通れねーな」
「何で?」
「泥棒目的だから」
「ええっ!?」
「何で驚く!? てか、お前だってスイレンにさわれちゃ駄目だろ!? お供え物、どうするんだよ!?」
「だから農園の主に頼むのに失礼がないようにだなぁ……なあ、これ、まだ臭うか?」
杖をガサクの鼻に近づける。
「うおっ!? 臭せッ!!」
「うーん、おれの鼻、マヒしてきちゃったのかも」
「だからって俺に嗅がせるなッ!!」
「つーたん、この辺、もっとちゃんと洗ったほうがいいよ」
「ファジュルは嗅ぐなアッ!!」
などとギャーギャーやっていると……
「何でお前らは、ほんのちょっとの間、行儀良く待っとることもできんのじゃ?」
振り返ると水路の向こうにサルワが立っていた。
サルワの隣では、背が高くてハッとするほど美形の男性が、穏やかそうにニコニコしている。
「ガキども、こちらは農園の管理神のハタプ殿じゃ。お前らが遊んどる間に話をつけておいてやったぞ。今日からしばらくこの農園で働いて、報酬としてお供え物をもらうんじゃ」
「プタハ神?」
「ハタプ神じゃ」
首をかしげるツタンカーメンに、サルワがよいしょっと足を広げて水路をまたいで、ひそひそと耳打ちする。
「言っちゃいかんがこんなところで管理神をしとるのは、プタハ神様に比べるとガクッと位の低い神様じゃよ」
そしてまた、よっこいしょっと農園に戻る。
だけど足の不自由なツタンカーメンがこの水路を渡るのは難しそうだ……と思いきや、ハタプ神があごひげをちょいと引っぱると、スススッとスイレンの葉っぱが集まってきて橋になった。
ツタンカーメンは恐れることなく橋に踏み出した。
神が作った橋は、見た目よりもしっかりしていた。
ためらうガサクの背中にファジュルが手を当てて、二人もそっと歩み出る。
スイレンの花が放つ光は、二人を拒んだりはしなかった。
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