ペット探偵と謎解きカフェ ~君の影は僕のもの~

片瀬智子

第1話 プロローグ

 水河実梨みずかわみりの指先が微かに震えていたのは、先週、死の宣告をされたと同時に、彼に頼った自分に驚いたからでもあった。

 封筒に書かれている几帳面な字体には覚えがある。この手紙を受け取ったからには読まなければならない。いや、読む義務があると実梨は思った。


 そういえば、あのペット探偵は彼のことを『この世の悪魔』だと言った。

 恐ろしい例え。

 だが確かに彼ほど、敵に回して恐ろしい男はいないだろう。

 実梨は真っ白い便箋を開く。

 それは、悪魔と通じた瞬間だった。


*******


 実梨へ


 久しぶりだね。僕たちが別れてから、随分と時が過ぎた。

 君が別れたいと切り出したときから、ずっと、僕が待っていたのはこの日だったのかもしれない。

 

「何があったとしても、僕は君を手放すつもりはない」

 あの日、僕が言ったこの言葉を覚えていますか。

 これは決して嘘ではない。君は、これからも僕のものだ。


 ところで、DGのリストに載ったらしいね。

 心配はいらないよ。

 何も怖がらなくていい。

 僕を頼る限り、永遠に君を守ってあげるから。


 僕は満足だよ、実梨。

 君がまた戻ってきてくれて本当に嬉しい。

 また楽しい時を一緒に過ごそうじゃないか。

 愛している。


                        無山恭也


*******


 実梨は手紙を読み終わると同時に、安心感というより自己嫌悪に近い心情を覚えた。この時、永遠の自由を失ったと実梨は悟ったのだ。死と引き換えに、囚われたのも同然だった。


 柔らかなキャメル色のレザーバッグに入れてあった携帯の着信音が、突然鳴り響く。実梨は心臓が止まったかというような顔で振り向くと、ゆっくり携帯に手を伸ばした。

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