タピオカとエッグベネディクト
足の裏太郎
僕は競馬に興味がない
これから書く話には、ちゃんとしたオチや教訓があるわけではない。
ただ単に暇だったからやってみよう、と思っただけだ。
そこんとこ、よろしく。
というわけでまず、興味がないものの代表として、いや、違うな。
嫌いなものの代表として競馬を取り上げたい。
そう、僕はギャンブルが嫌いだ。
だからどうしたと言われてもしかたがない。
嫌いなものは嫌いだし、したいと思った事もない。
ギャンブル嫌いの根底には、父親のパチンコ好きが影響を及ぼしている。
かつて仕事もせずに、3桁万円の借金をパチンコでこさえていた父。
パチンコが禁止になってからも、スーパーファミコンのパチンコゲームに熱中していた父。
ふとした瞬間に、その父がテレビに向かって一心不乱にゲームをしている、物悲しい後ろ姿が頭をよぎることがある。
その風景を思い出すたび、心にすきま風が吹く。
しかし、これからの人生、なにがあるか分からない。
何かのトラブルに巻き込まれて野球賭博をしなければ殺されてしまうような状況に陥るかもしれないし、奥さんの命を守る為に政治家とバカラをしなければならない、となったりするかもしれない。
というわけで、ギャンブルの中でも比較的安全であろう、競馬を好きになってみたいと思う。なぜ比較的安全だと判断したかだけれど、これはもう「公営」という言葉を信用したのと、馬が可愛いからだけである。
馬の目。
その吸い込まれるような漆黒の目を見ていると、ニーチェの言葉を思い出す。
『深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ』
そう、この言葉を馬に当てはめると、こうなる。
『馬を見ているとき、馬もまたこちらをみている』
普通だ。
普通に馬と対面しているだけじゃないか。
とてもいい。やっぱり馬は可愛い。
馬に対してこれだけ可愛さを感じられたなら、競馬に対する嫌悪感も払拭できるはず。
競馬に興味を持ちたいのであれば、とりあえず馬券を買えばいいじゃないか、と思う方がいるかもしれない。
しかし僕には競馬を知らないが故の恐怖感がある。
いかんせん産まれてこのかたギャンブルをしたことがないので、この恐怖はしごく当然だ。と思う。
だれでもした事がないことをするのは恐怖感がつきまとうし、立ち止まってしまうのもしかたがない。
と、ここまでかいておいて、ふと気がついた。
僕がここまでギャンブルを嫌いなのは、自分に運がない事を知っているからじゃないのか、と。
そう、僕は、運がない。
コンビニのクジに当たった事もなければ、商店街のガラガラでもらった事があるのはティッシュのみ、漫画の抽選に応募しても一向に当たらないし、コンサートの先行チケットも抽選ではじかれまくっている。
そんな僕に、どうやってギャンブルを好きになれというのだ。
確かに馬は可愛い。
がしかし、よくよく考えればその可愛い馬に鞭を打って走らせるなんて、かわいそうな事この上ない。
どうせ馬と触れ合うのならば、そんな虐待のような風景を眺めるよりも六甲山牧場で乗馬体験をしたり、ワールド牧場でポニーに人参をあげている方がよっぽどしあわせじゃないか。馬も僕も。
と、ここまで書いたところで、昔奥さんとワールド牧場にいった時の事を思い出した。
牧場内には可愛いポニーがいて、そのポニーに園内で100円で売っていた餌用人参をあげようとした。
もう一頭馬がいたので、その子と半分こやで、と声をかけながら、太ももを使って人参を二つに割ろうとしたそのとき、ボキ、という音がした。
人参が折れた音ではない。その音の発生源は僕の腰だった。
俗にいうぎっくり腰である。
人参は、折れていなかった。
馬に餌をあげようとして、ぎっくり腰になる。しかも人参も折れずに。
これほど情けないことがあるだろうか。いや、ない。
そして僕は、人参をあげることができないまま(見かねた奥さんが折ってあげてくれた)、奥さんに肩をかりて牧場を後にすることとなった。
それほどまでに運のない僕が、なぜギャンブルを好きにならなければいけないのか。
好きになれるはずがない。
しかし、好きなる、と書いてしまったからには好きにならなければいけない。
ではどうするか。
運がないから負ける。すなわち、勝負をしなければ負けない。負けなければ恐怖心におびえる事もない。
よし、競馬をやめよう。
いやだめだ。
競馬をしながら、損をしない。
となると、ゲームしかないじゃないか。
というわけで、近所の古本市場で108円で売っていた、ダービースタリオン3を購入する。
押し入れの奥にしまっていたスーパーファミコンを取り出し、カセットを差す。
すきでもない競馬を最大限楽しもうと頑張ってみる。
が、何度抜き差ししても、画面にはノイズしか映らない。
僕は、やはり運がない。
ギャンブルには手を出さない方がいいんだ。
そう考えながらゲームの抜き差しを繰り返す僕の背中は、奥さんにはどう見えているのだろうか。
僕の心には、すきま風が吹いている。
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