3.

 夜になってやっと起きてきた父に、由香は夕方の出来事を話した。

「許せん。いくらウチの由香が可愛いからといって! 父さんがそいつらを探し出してボコボコに」

「お父さんじゃ返り討ちにあうのがオチよ」

 可愛い娘にあっさりと否定され、父はしゅんと肩を落とす。

「しかし……その、片桐くんか。父さんからも礼を言わんとな。あがってもらえばよかったのに」

「あがってもらったって、そのときまだお父さん寝てたでしょ」

 父が再び落ち込んだがそれはともかく、

「私もお茶くらいって誘ったんだけど、断られちゃったの。結局名前しか聞いてないし」

「じゃ、学校もわからないのか」

「まぁね」

 浮かない顔で由香は答えた。「制服も着てなかったし。この近所に住んでる感じでもなかったしね。何にもわかんないの」

「ふうん」

 父が考え込む。「それで、結局そいつらなのか? お前が、ずっと見られていたってのは」

「どうだろ」

 由香の返事はどこか投げやりだ。「ま、片桐くんにあんだけひどくやられたんだから、あいつらがまた何かしてくるとは思えないけど」

 その様子を眺めていた利雄が、何の脈絡もなく

「お前、その片桐くんに惚れたな」

「ななな何よいきなり!」

 由香は慌てまくって否定した。

「どうやったらまた片桐くんに会えるかなーとか、そういうこと考えてただろ。お前を襲ってきた連中のことなんか、もうどうでもよくって」

「どうでもよくは……ない、と思うけど……」

 言い返しながら、由香の声も尻すぼみになっていく。あんな目にあったんだからもっと怯えて然るべきと自分でも思うのだが、あいつらと自分の間に立っていた聖司の後ろ姿や、彼のぶっきらぼうな物言いや、そういうことばかり思い出してしまう。

「会えるさ」

 妙に力強く、利雄が言った。「必ず会えるよ、うん」

「……何よ、その自信は。何の手がかりもないのに」

 ちょっと恨めしそうに由香が呟くと、

「母さんの言葉を忘れたのか?」

 利雄は笑った。「心の中で、必ず会えると信じていれば、きっとそれが力になる。そうだろ?」

「お父さん……」

 驚いたように由香が見返すと、父は笑顔のままで

「父さんもな、母さんにまた会えると今でも信じてるぞ」

 何でもないことのようにさらりと言った。

「ただ何せ、母さんは宇宙人だからな。どうしてもここにいられない事情があって、いったん自分の世界に帰ってるだけなんだよ。でも、いつか必ず戻ってくるさ。父さんと由香が待ってるんだから。もっとも、来るのに時間がかかるけどな。宇宙だから」

 どこまでが本気でどこまでが冗談だかわからないような物言いだったが、それでも父が本気で、今でも母を待っているのだということは、由香にもわかった。

「……そうだね。きっと、会えるね」

 片桐くんにも、それからお母さんにも。

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