Beautiful Dreamer

1.

   〝想い〟は必ず力になるのよ。

   イメージして。

   そして、信じるの――


「お早う、お父さん」

 日曜の朝。自分の部屋がある二階から降りてきながら、石堂由香は言った。

「今朝ね、お母さんの夢を見たわ」

「そうかそうか。何か言ってたか?」

 新聞から顔をあげて、父の利雄が尋ねる。

「いつもと同じよ。想いは必ず力になる」

「イメージして、そして信じるの、か」

 そう言って、父は笑った。「あれは母さんの決まり文句みたいなもんだからなあ」

 食卓に飾られた、一枚の写真。若き日の父と、母の頼子が微笑んでいる。母の腕の中には、まだ幼い三歳の由香の姿。

「不思議なもんで、母さんににっこり笑ってそう言われると、本当にそんな気がしてくるんだ。父さんが、長年の夢だった作家になれたのは、母さんのおかげだよ」

「で、夕べも徹夜? 朝刊読んでから寝るんでしょ、どーせ」

「仕事だよ、仕事。夜のほうが筆が進むんだ」

「去年会社辞めてから、ほんっと夜昼反転しちゃってるんだから」

「すまんすまん」

 利雄が苦笑する。

「私、今日は午後、友達とカラオケだからね。お父さん、ご飯は食べた?」

「あー……いい。もう寝るから」

「っとにもう。身体壊しても知らないわよぉ」

 と言いつつ由香は、てきぱき父の分まで朝食の仕度を始める。そんな由香を見ながら、

「ほんと、母さんに似てきたなあ。由香ももう、十四か」

「まぁね」

 答えて、しばらくして由香が訊く。

「ね、お父さん。お母さんって、どんな人だった?」

 三歳の時に行方不明になった母を、由香はあまり覚えていない。当時父は随分探したそうだが、奇妙なほどこの家には母に関するものが残っておらず、結局未だに何がどうなったのか不明のままだ。残っているのは、ごくわずかな写真と、あの言葉。

「宇宙人みたいな人だったなあ」

「何よ、それ」

「いや、とにかく不思議な人だった」

 遠くを見るように、父は言う。「天から降ってきたみたいに突然、父さんの前に現れて。ほとんど自分のことは喋らなくて、いつも静かに微笑んで……で、あんまりガミガミ口うるさく言わなかったぞ」

「仕方ないでしょ。父親がだらしないと、娘はしっかりせざるを得ないの」

「……うん。そういうところは似てない」

 そう言って、利雄はため息をついた。

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