第3話 魔族と姫、邂逅する
あれから30分ほど経ったところで、王妃ミューズが戻ってきた。
「お待たせしたわね。早速、お話ししましょう」
「お母様、急にそう言われましても。まずは、お紅茶を飲んでくださいな」
ネムリスが言うが早いか、既に侍女が王妃の紅茶とお菓子を用意していた。
「ありがとう」
そう言って、王妃が優雅に紅茶を飲み始める。
「そう言えば、先程仰っておりました、お客様はどうなされたのです?」
一応、話題を振ってみる。
すると、王妃は興味あるのねって言わんばかりに目を輝かせていた。
「実はね、そのお客様って言うのが、魔族の人だったのよ」
「それは、本当ですかお母様!」
「まさか、魔族様がこんな小さな田舎の国に尋ねてくるなんてねぇ」
王妃の言葉に、ネムリスとオルディナが驚いている。
普段冷静沈着な、オルディナが声を荒げるくらいだ。
それにしても、魔族か。
知らない言葉だったが、徐々にイロリ姫の記憶が浮かび上がり、魔族について理解できた。
魔族とは、この世界では高等種族で、魔力が高く聡明な種族だ。
魔族の国自体も、大昔から高度な文明を誇り、文化交流、貿易は人間族の国としては、とても喜ばしいことなのだ。
「凄いですね、魔族の人がこの国に来るだなんて」
俺は、紅茶を飲みながら考える。
大きな国であれば、魔族との交流もあり、たいした事でないのであろうが、この国には魔族との貿易や交流はない。
言うなれば、今回の魔族の急な訪問は、理由はどうであれ、この国にとって途轍もなく好機なのだ。
ただ、その魔族も、この国に対し何か目的があると思うのだが?
「それで、魔族様は何故に国王に謁見を求めたのですか?」
「ん~、それが今ひとつ分からないのよね。なにやら、この国に重大なモノがあると言っていたようだけど」
「重大なモノですか?」
やはりな、でなければ特産物もないような小さな国に見向きもしないだろう。
何か、魔力的な鉱物が埋まっているとか、何か凄い植物が自生しているとか?
なんにしろ、俺には関係ないことだろう。
そんなことを考えながら、アーニャに紅茶のおかわりを頼む。
「姫様方、国王陛下がお呼びです」
そう言って、侍女が俺達を呼びにきた。
「お父様が呼んでいるのですか?」
「もう、謁見は終わったの?」
「いえ、まだ謁見は終わっていませんが、国王陛下からの命です」
「あらあら、何の用でしょうね?」
「なんだか嫌な予感がするわね」
ふむ、俺たちを呼んでどうするんだ?
とにかく、侍女に連れられて謁見室に赴く。
謁見室に入るとそこには、たくさんの大臣達と、中央には国王と魔族がいた。
なぜか、国王の顔は笑顔で溢れている。大臣達も少し興奮しているようだが?
「よくきた、我が娘達よ。紹介しよう、この方は魔族の王子ヴァゼル殿だ」
「この度は姫様方に至っては、ご機嫌麗しゅうございます。お初にお目にかかります、今しがたアヴィレイオル国王陛下に紹介いただいた、ヴァゼルと申します」
ヴァゼルと名乗った魔族は、丁寧なお辞儀をして挨拶をする。
「ご機嫌麗しゅうございます。わたくしは、アヴィレイオル王国第一王女ネムリスと申します」
「ご機嫌麗しゅうございます。同じく、アヴィレイオル王国第二王女オルディナと申します」
2人が挨拶を交わすが、あの魔族の目はこちらをずっと見ている様な気がするのだが。
「ご機嫌麗しゅうございます。アヴィレイオル王国第三王女イロリと申します」
やはり、気のせいじゃないみたいだ。
俺が挨拶をすると、ヴァゼルは一歩踏み出してきた。
「娘達よ、嬉しい知らせじゃ。ヴァゼル殿の国と我が国が貿易を結ぶことになったのじゃ!」
「本当ですか、お父さ、いえ国王陛下!」
「素晴らしい!これで我が国も、大国の仲間入りですね!」
3人が喜んでいる、確かに喜ばしいことだ。
だが、俺は何か嫌な予感がする。
今も、一歩一歩近づいてきている魔族のヴァゼルが見える。
いかん、ヴァゼルの眼を見てから体が動かない。
誰も気づいていない、歓喜に沸いているせいか、魔族の動きが目に入っていないようだ。
ゆっくりと、しかし確実にこちらに近づいてくる。
そして、俺のいる所にあと少しまで来たヴァゼルは、ニヤリと笑い唐突に駆け出した!?
「私と結婚してください!」
謁見室に響き渡るほどの声がこだまする。
「「「「「なんだそりゃ〜」」」」」
俺を含め、その場にいた全員が、ヴァゼルにツッコんだ!
この日から、
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