第2話 姫とお茶と姉姫様

とりあえず、曖昧な記憶の他に生きた情報が欲しいので、午前中のうちに城の中をうろつくことにした。


「イロリ姫様、お供致します」


そう言って、一人の侍女が付いてきた。

確か、俺付きの侍女でアーニャという名だったはず。

まずは、2人の姉姫様のところに行くか。

一応、今の記憶の中に城の全体図があったのは助かった。

とりあえず、上姉様のところから行くか。

名前は確か、ネムリスと言ったかな?


「失礼いたします、ネムリスお姉様」


アーニャが扉を軽くノックすると返事がしたので

挨拶をして部屋に入る。


「あら、イロリちゃんだったのね。私に何か用かしら?」


おっとりした口調で、ネムリスが訪ねてくる。

長く真っ直ぐな髪と、少し眠そうな目が特徴で、見た目通りゆったりとした動きでこちらに振り向いた。

ポワポワした雰囲気で、人を和ませてくれる。


「ネムリスお姉様とお話がしたくて」

「そうなのね、それじゃオルディナちゃんも呼んで、ちょっと早いけどお庭でお茶をしましょう」


ネムリスはそう言うと、侍女を呼びお茶の用意を頼んでいた。

どうやら、アーニャもお茶の準備に同行するようだ。

そして、先ほどネムリスが言っていた人物は、下姉様のオルディナだ。

ネムリスとは反対に、元気に溢れているお姉様だ。

体を動かすことが好きで、姫であるにも関わらず髪を短くしており、騎士団と共に武術に励んでいる。

なので、周りからも姫騎士様と呼ばれている。

少し変わり者でもあって、自分の侍女を全て騎士にしている。

これがまた、女性や子供に人気で、憧れの対象になっているらしい。


「なるほど」


城の中庭で、お茶をしながら話をしていると、イロリの記憶が少しずつ浮かび上がってきた。


「今日のお菓子は、特に美味しいわね」

「ネムリスお姉様は、相変わらず甘いものが好きですね」

「そういう、オルディナお姉様も、そんなにお菓子を抱え込んで、はしたないですわよ」


あぁ、紅茶が美味い。

俺は、甘いものが好きではないので、あまり甘くないお菓子を紅茶と共に食べている。


「あらあらあら、3人ともずるいわよ」


そんな声が聞こえたので、視線だけ動かして見やると、お妃様がこちらに向かって歩いてきていた。

この国の王妃、そして俺達の母親、名前はミューズという。


「あら、お母様。今日は、離宮でのんびりするのではなかったのですか?」

「本当なら、そうしていたのですが、なんでも急にお客様が訪問いたしたと言うので」

「急なお客様ですか、珍しいですね」

「それで、お客様とはどの様な方なのです?」


こんな時間に客が来るのか、どうやら約束もしていない様だが、いったい誰なのだろう?


「イロリは興味あるみたいだけど、私達には関係ないことなのだから気にしても仕方ないわよ」

「そうね、大抵はお父様、国王陛下に取り継ぎたい人ばかりなのですから」

「あらあら、私の娘達はつまらないこと言うのね」

「いつものことですから」


まぁ、そう思うのが普通だよな。

少なくとも、自分達に関係ないことだと割り切ってしまっているのだ。


「とにかく、ご挨拶をしなくてはならないので、それが終わったら私もお茶会に参加させてくださいね」


そう言って、ミューズは急ぎ足で立ち去ってしまった。


ただ、その時は、平和だった俺の日常が大変な面倒ごとになるとは、露とも思っていなかったのだ。

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