第三話 捕らわれしの王子《シュイット》様 -2-
「で、何があったんだ?」
軍船(ユルルングル号)に乗り込んだヴァイルは、先ほどのルドの話しを聞いてた。
「はい……。無法海賊の討伐に出て、一日前に悪名高きダーグバッド海賊と遭遇し一戦を交えたのですが、情けなくも敗れてしまいました」
「ダーグバッド海賊か……。しかし、おかしな話しだな。確かにダーグバッドの輩たちはそこそこやるが、仮にも王国の兵士団のあんたたちが、ここまでやられるとは思えないが?」
「……我が……殿下を、敵に捕らわれて、しまったのです……」
「殿下を?」
「は、はい……。シュイット殿下を人質に捕られて、なす術もなく……」
他の兵士たちから嗚咽をが漏らし始める。
「シュイットが……。何故、シュイットが同船していたんだ?」
「アーステイオー様の命により、神聖アーステイム王国の王子として武勲を立てるべく、無法海賊の討伐の任をお与えられたのです」
「なるほど。で、お前たちは、それで王子様をほったらかして、敵前逃亡してきたと?」
ヴァイルの瞳が鋭くなった。
王国兵士団ならばアーステイム王家に忠誠を尽くし、忠義を誓ったはず。それなのにわが身の命を欲しさに王子を見捨てて逃げてきたのなら、その首を切り落とそうと斧の柄を握る力を込めた。
だが、それを近くにいたガウディが察して、そっとヴァイルの右腕に触れて、落ち着かせる。
「いいえ、違います!」と、ルドは強く言った。
「我々はシュイット殿下より、至急本国に戻り、援軍を要請しろと命じられて……。本来ならばこの身を挺して、シュイット殿下をお救いしなければならなかったのに……」
生き残った兵士たちは、己のふがいなさに大粒の涙を流した。
「そうか……」
「ヴァイル殿。我が陛下やセシル様の信頼厚き者と存じております。恥を忍んでお願いいたします。私たちの代わりに至急アーステイム王国へ行き、援軍を要請して頂けないだろうか。私たちはこれより引き返し、この命引き換えてもシュイット殿下をお救いいたします」
「ふん、やなこった」
ヨハンの必死な嘆願を、ヴァイルは漂う煙を払うかのように断った。
兵士たちの手当てをしながら、ヴァイルたちの話しに聞き耳を立てていたラトフやロア、そしてヒヨリたちが一斉に手を止めて、二人の方を見た。
「シュイットからの命令は、お前らに援軍を頼んだ。それを反故するのは忠義に反するじゃないのか?」
「そ、それは……」
“だったら、シュイット殿下を誰が救うのか”と兵士たちの悲痛な思いがヒシヒシと伝わってくる。
「俺たちがシュイットを助けてやるよ。今からアーステイム王国に着くのに四日はかかる。援軍を要請している間にバーグバッドたちをみすみす逃がしてしまう。だったら、俺たちヨルムンガンド海賊団がシュイットを救いに行った方が断然良いと思わないか」
「し、しかし!」
部外者に王子の救出を任せるのは、アーステイム王国の兵士としての面子や誇りに傷付くものだが、既に王子を捕らわれてしまう失態を犯してしまっている。王子が助かるのならば面子などは問題ではない。
それにヨルムンガンド海賊団の実績や王族とも信頼があるのは聞き及んでいる。心身ボロボロの王国兵よりも、王子救出の可能性は高かった。
「……承知しました。我らは、一時も早くアーステイム王国に戻り、援軍を要請して参ります。ヴァイル殿、シュイット殿下を宜しくお願いいたします」
ルドは理性と王国兵の誇りを絞り出すように言い、ヴァイルの手をつかみ強く握った。
「ああ、主神アルファズルと九偉神の名に誓って、シュイット殿下をお救いいたします」
ヴァイルもルドの手を強く握り返すと、ルドは初めて安堵したのだった。
「よし! お前たち、話しは聞いていたな。これより、アーステイム王国の第二王子シュイットの救出に向かう!」
ヴァイルが立ち上がって声高々に宣言すると、ラトフたちは一斉に「おう!」と応じた。それに励まされたのか兵士たちの顔に活力が宿ったようだった。
意気がみなぎる船上で、一人茫然としていたヒヨリも周りの雰囲気に彩れたヴァイルの魅力に、不覚にも感銘してしまったのだった。
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