第二話 彼らこそが海賊《ヨルムンガンド》 -3-
ヒヨリとヴァイルたちは、ある小島に上陸していた。
「ここでメシを作って貰おうか。使って良いのは、俺たちの食材……。いや、それだけじゃ足りないと文句言われたくないから、現地調達したものなら、なんでも使っていいぞ。ただし、掠奪したものは手を出すなよ」
ヴァイルから規則事項を述べられた。
とは言っても、島の端から端まで歩いて五分ほどで辿り着く小さな島。小高い崖がそびえており、木々は無く雑草が生い茂っているだけだった。
「こんな島に食材なんてある訳が無いじゃないのよ、もう!」
ヒヨリは焦りと苛立ちの声を漏らした。
提供された食材は、見たことが無いものばかりだったが、干し肉のようなもの、玉ねぎ、ジャガイモ、人参っぽい乾燥野菜と幸いにも地球産に似ているものだった。あとは赤ワイン的なお酒や飲料水が少量あるだけ。
しかし、これだけの食材で作れるものは限られる。パッと思いついたのはスープなものぐらい。しかし、あの海賊たちが美味しいと言わせる料理ではないだろう。
「それに調味料が無いのがね。醤油とかかが無いのはしょうがないとして、砂糖も無いなんて……」
有ったのは、岩塩や黒コショウらしい調味料だけ。
「うう、どうしよう……。こんなんじゃ、ただの塩っけの味しかならない……」
その場で悩んでも、誰もヒヨリを声をかけたり助けてくれたりしない。
ひとまず気分転換も兼ねて、島内で手に入る食材や、お湯を沸かす燃料を探しに出かけた。
木々が生えていないので薪木は手に入らないと考えられるが、まだそこは不安点ではなかった。
「多分、あるはず……。あっ、やっぱりあった!」
砂浜に流木が打ち上げられているのを見つけた。しかも自分と同じ身長大の大物だ。
島暮らしのヒヨリにとって、砂浜や海岸に流木がよく流れ着くのを知っている。
流木は砂浜の端っこにあり波の影響を受けていないので、湿気っておらずほどよく乾いていた。薪木として充分使える。
乾いているので、引っ張って何とか運べる重さになっていたが、自分と同じ大きさの流木をヴァイルたちが居る場所へ持っていくまでに一苦労だった。
一人綱引きをしていると、メガネをかけている男性がヒヨリの隣にやってきた。
ヴァイルからガウディと呼ばれていた男性だ。鍛え上げられた、たくましい肉体が薄着から垣間見える。
ガウディは何も言わず流木をひょいと持ち上げて、無表情のまま背を向けて去っていく。
「あ、あの……」
「どうせ、この木を全部使わないのだろう? 残りは俺たちの燃料するから、ついでだ」
「あ、ありがとうございます」
燃料問題は解決したので、今度は食材調達を始める。
しかし、ここは異世界。おかしな生物が居てもおかしくない。むしろ居た、しかも襲われた。
魚……ムツゴロウのような生き物だったが、犬や猫の中型サイズの大きさで大きな口に鋭い牙をチラつかせており、武器を持たないヒヨリは逃げるだけしかできなかった。
重要なのは、そんな未知な生物を使って、それが食べられるかどうかも分からないし、美味しいかどうかも分からない。得体の知れないモノは危険だと察する。
「それじゃ、どうすれば良いのよ!」
自問自答の一人ツッコミの声が虚しく響いた。
無力な自分と無情な現状に気が滅入り、力無く砂浜に腰を落とす。
水平線が広がる。海を照らす太陽がうっすらとオレンジ色になりかけていた。
ここから泳いだとしても、他の島や元の世界に辿り着ける気配は無かった。
波の音は、故郷の飛芽島の海岸で聞こえてくるものと同じで、波が寄せてくる度に元の世界を思いだし、孤独感が増して泣きそうになる。
「どうしよう……ん?」
ふとヒヨリは、着ている救命胴衣にポケットが付いているのに気付いた。
この苦境を脱する便利なものが入っていないか、まさぐった。
ポケットに入っていたのは、防水ジップロック。その中には、発煙筒、懐中電灯、絆創膏、水なしで飲める酔い止め薬といった非常用グッズ一式だった。
「流石、茂さん。万が一の為に用意してくれていたんだ……けど……」
現状を解消するほどの道具では無かった。
今在る食材だけで美味しいと思える料理は無理だと実感し、僅かな希望だった現地調達も失敗に終わり、海の泡のように儚くはじけてしまう。
海に入って、そのまま沈んでしまおうかと思った矢先、見慣れた“赤い物体”が打ち寄せられているのを見つけたのである。
「あれ、これって……。なんで、これがここに……?」
それを何気なしに拾い上げると、ヒヨリは「あっ!」と明るい声を出したのだった。
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