第327話 高等魔術学園での再会

 1限目のロドリゲス先生の授業を筆頭に様々な授業を受けたはずなのだが、頻繁に変わるお尻の下の太股が忙しく、なんだかどの授業も受けた気がしなかった。

 とはいえ、ノートを見ればきちんとメモを取っているのだから、きちんと受けはしたのだろうけれど。


 まあ、シュリのお尻を膝に乗せる権利を競う女達に気後れしたのか、クラスの生徒から一切話しかけられなかった事だけは重畳だった。

 話しかけたそうにしている生徒も中にはいたが、あえて冷たい視線を演じて見返せば、それを押して近づいてくる勇気のある生徒は流石にいなかった。


 昼休み、久々にシュリと昼食をとる時間がとれたとやってきたシルバやファランとアズランには凄く呆れた眼差しを向けられた。

 まあ、シュリの友人という事で、リリシュエーラも愛の奴隷達も感じよく接してくれた事だけが救いといえば救いである。


 なぜか、シュリ以外の9人で、元通りのシュリは最高だが、擬態中のシュリも悪くなかった論が白熱し、みんなとても楽しそうだった。

 シュリだけはその話についていけず、仲間外れ感はんぱなかったが。

 まあ、そんなこんなでどうにか1日の授業を終えて帰路につこうとした時、



 「私はちょっと高等魔術学園に寄って帰るわ。学校の見学を申し込んであるの」



 リリシュエーラがそんなことを言い出した。

 そこに、ならば自分も行く、とシュリも乗っかって。

 じゃあ自分達も、と言い出した愛の奴隷5人衆を、みんなは仕事があるでしょ? 、と言い含め。

 馬車は必要でしょう、と得意そうな顔をするシャイナも、歩いていくからいいよ、と切って捨て、その彼女が御者をする馬車にシュリとリリシュエーラ以外の4人を押し込んだ。


 アガサかフィリアかリメラ、その誰かに捕まる事も想定して、夕食は済ませて帰ると伝えておく。

 もしその誰からもお誘いがなかったら、リリシュエーラとどこかで食べてから帰ればいいだろう。

 遠ざかる馬車を見送ってから、シュリはリリシュエーラと手をつないで歩き出す。

 目指すは高等魔術学園。

 そこで待つ再会を、まだ知ることなく。


◆◇◆


 その日、ジェスは心地よい眠りに浸りきっていた。

 昨日は夜遅くまで団員達と酒盛りをしており、どうやっても起きられなかったのだ。

 そんな彼女に、副団長のフェンリーが声をかける。



 「ジェス、そろそろ起きないと日が暮れるわよ?」


 「んぅ? 日が、暮れる?」


 「ええ。もうお昼は過ぎたわね」


 「お昼が、過ぎた……ぐぅ」


 「別に寝ててもいいけど、確か今日は、依頼の手紙を渡しに行くんじゃなかった? 高等魔術学園の学園長にアポとってたわよね?」


 「こうとうまじゅつがくえん……。がくえんちょうに、アポ……。アポ?」


 「ええ。お昼過ぎくらいに伺うって、約束したわよね?」


 「お昼過ぎに伺う……うん。したな。そんな約束。あれ? 今って……」


 「だから、お昼は過ぎたわよ? 日が暮れるのはもう少し先だけど」


 「約束がお昼過ぎでぇ、今が、お昼過ぎ?」


 「ええ、そうね」



 フェンリーと言葉を交わす内に少しずつ意識が覚醒してくる。

 ジェスは寝ぼけ眼でフェンリーとの会話を反芻し、そして。



 「約束が昼過ぎで今が昼過ぎ!? まずいじゃないか!!」


 「そうね~。よろしくはないわねぇ」


 「ど、どうして起こしてくれなかったんだ!!」


 「人聞きが悪いわねぇ。起こしたわよ、何度も」



 起きなかったのはあんたでしょ、と言われ、己の寝起きの悪さを自覚するジェスはぐむむ、と唸る。



 「とっ、とにかく、急いで向かおう!!」



 ベッドから飛び起き、大慌てで部屋を出ていこうとするジェスに、



 「その格好で? ずいぶんサービス過剰じゃない?」



 のんびりとフェンリーが声をかける。

 言われて己の身を見下ろしたジェスは、ほぼ下着姿という己の格好に絶句し、進路変更をしてクローゼットへ向かう。

 片方ぽろんしていたやんちゃなおっぱいをしまい、急いで身支度を整えながら、



 「随分のんびりしてるが、お前も一緒に行くんだぞ? 怒られるのは一緒だからな?」



 唇を尖らせそう言うと、



 「大丈夫よ。怒られないように、ちゃんと伝令を出しておいたから。前の用事の時間が押して、少し遅れそうだ、って」



 フェンリーはさらっとそう返す。

 ジェスは口をぱくぱくし、それから、



 「それならそうと、早く言え~!!」



 そう叫んだのだった。


◆◇◆


 許可を得て高等魔術学院を見て回り、帰る前に学園長と話をしたいとリリシュエーラが言うので、シュリは彼女と一緒にもう1度受付に戻った。

 来たときに対応してくれた受付のお姉さんがにこにこと応じてくれる。



 「学園長、ですか?」


 「うん。シュリが会いに来たって伝えてくれればきっと会ってくれると思うんだけど」


 「もちろんですよ。学園長からは誰よりも優先するようにって厳命されてます。ただ……」


 「ただ?」


 「今、ちょうどお客様が来ていて」


 「お客様? まだかかるかな? 待ってても平気なら待ってようと思うんだけど」


 「あ、でしたら、応接用のティールームで待っていてもらえますか? あそこでしたら一般の生徒は来ないですし。学園長には君が来ていることを伝えておきますから」


 「はーい。あ、いるのは僕だけじゃないよって一応伝えておいて? 入学希望者が1人、一緒にいるって」


 「わかりました。じゃあ、ちょっと待ってて下さいね」



 受付のお姉さんに見送られ、教えられたティールームへ向かう。

 そこは応接用と言うだけあって、こじんまりとしつつも高級感のある調度で整えられていた。

 調理場は学生用の食堂と共同のようだが、注文の時は備え付けのベルで呼ぶようになっているらしい。

 まあ、応接用の場所なので、従業員が常にいるよりはその方が都合がいいのだろう。



 「リリ、のど渇いてる?」


 「ん~。そうね。まだ、そこまで渇いてないわよ?」


 「そっか。じゃあ、どこかに座って待ってようか。飲み物は、のどが渇いてからでいいもんね」



 言いながら、リリシュエーラを促して適当なイスに腰掛ける。

 高級そうなだけあって、中々の座り心地だ。

 そうして腰を落ち着けて、アガサが来るまでなにをしていようかなぁ、と何気なく周りを見回したその時、扉を叩くノックの音。

 受付のお姉さんかな、と思いながら返事を返すと、



 「シュリ。待たせましたね。入りますよ?」



 上品な学園長仕様のアガサが、扉の向こうからそう言った。

 扉が開き、その向こうから現れた上品な老婦人は、シュリの姿を認めると柔らかく穏やかに微笑んだ。



 「久しぶりですね、シュリ。お待たせしました」



 言いながら、彼女はシュリを優しく抱きしめ、その頬に唇を落とす。

 そして名残惜しそうにシュリの頬を手の平で撫でてから、リリシュエーラの方へ顔を向けると、



 「入学希望者と言うのはあなた? 申し訳ないのだけれど、話をするのはもう少し待ってもらえるかしら。後で必ずその時間を作りますから」



 そう言って申し訳なさそうに眉尻を下げた。



 「かまわないわ。急に押し掛けたのはこっちですもの」


 「アガ……じゃなくて学園長? 忙しいなら、ここでちゃんと待てるから大丈夫だよ? お客様は? ここに来ちゃって平気だったの??」



 リリシュエーラが鷹揚に頷き、シュリはアガサの顔を見上げてそんな質問をぶつける。



 「お客様に関しては問題ないわ。彼女達もすぐにここへ来ますから」


 「お客様がここへ来るなら、僕達は他のところで待ってようか? いたら邪魔でしょ?」


 「いいえ。むしろここにいて貰わないと。申し訳ないけれど、シュリを巻き込む事にしちゃいましたので」


 「巻き込む? 僕を??」



 にっこり笑うアガサに、首を傾げるシュリ。

 巻き込むって一体なにに巻き込むつもりだろう、と疑問を顔いっぱいに張り付けたシュリをなだめるようにその頭を撫で、



 「今日、ある依頼が舞い込みまして。ただ、私1人では少々手に余りそうだったので、助けがあると嬉しいと思っていたところにあなたが来たと連絡が。いいタイミングでしたし、ここはありがたく巻き込ませて貰おうと。依頼を持ってきたお客様ももうすぐここへ来るので、詳しい話はそれからにしましょう」



 そんな説明をしてくれた。

 アガサは今でこそ高等魔術学園の学園長をしているが、元はSランクの冒険者で、全盛期のヴィオラと共に活躍していたメンバーの1人だ。

 まあ、冒険者証を返上した訳じゃないみたいだから、今ももちろんSランクの冒険者ではあるだろうけど、冒険者の活動自体は長いことしていないらしい。


 とはいえ、腐ってもSランクの冒険者。

 並の冒険者が束になってもかなわないほど強いのは今も変わらないだろうし、そんな彼女の手に余る依頼とは、一体どういう依頼なのだろうか。

 気になる依頼の内容について、件のお客様が来るのを待てずに問いかけようとした時、



 「失礼します。お客様をお連れしました」



 そんな受付のお姉さんの言葉と共に扉が開いた。

 そこには受付のお姉さんと……



 「ん? あれ?? もしかして、ジェス?」


 「シュリ!? それにリリシュエーラ?? 2人がどうしてここに??」



 ゴブリン騒動で知り合い、リリシュエーラを助けてくれた人物、ジェスがいた。

 その姿を見てシュリは目を丸くして声を上げ、ジェスもまた、びっくりしたようにシュリとリリシュエーラを交互に見ていた。

 でも、すぐに嬉しそうに破顔して、シュリに歩み寄って片膝を床に着き、まっすぐにシュリを見つめる。



 「シュリ。あの時は本当に世話になった。またこうして会えて嬉しい。元気そうだな? 良かった」


 「うん。僕もジェスに会えて嬉しいよ。リリ……リリシュエーラを助けてくれたんだってね。リリは僕を訪ねてくる途中だったんだ。助けてくれてありがとう」



 頬を染め、再会を喜んでくれるジェスに、シュリも喜びを伝える。

 ついでにリリシュエーラを助けてくれたお礼も付け加えると、ジェスはほんのちょっぴり複雑そうな表情を浮かべた。

 そしてその表情のまま、少々ぎこちなくリリシュエーラにも微笑みかける。



 「いや。当然の事をしたまでだ。リリシュエーラもここで会うとは思っていなかったが、元気そうで安心した。その、ちゃんと想い人に会えたようで良かったな」


 「ほんと、ここでジェスに再会できるなんて思ってなかったわ。落ち着いたら会いに行こうとは思っていたのよ? あなたのおかげでこうしてシュリにも会うことが出来たし、きちんとお礼をしなきゃって」


 「そ、そうか。本当に良かった。そ、それで。2人は、その、どういう関係なんだ? その、もしかして、恋人同士、なのか?」



 ジェスの勇気を振り絞ったその質問に、シュリはきょとんとして目を丸くした。

 そして、頬を染めちょっと期待している風のリリシュエーラを見上げ、まさかそうなの!?、と目をむいたアガサを見上げ。

 シュリは苦笑しつつ、



 「恋人、じゃないよ。仲良しではあるけど。ね、リリ」



 ジェスの言葉を否定し、リリシュエーラにも同意を求める。

 そんなシュリの言葉にリリシュエーラは少々不満そうだったが、嘘をつくつもりもないらしく、



 「……そうね。恋人、ではないわ。まだ。今は私の片思い」



 素直に本当の事を答えた。非常に不本意そうではあったが。

 その返事を聞いて、アガサの表情は通常に戻り、ジェスの顔はぱっと輝いた。



 「そ、そうか。恋人じゃないのか。あ、でも……」



 だがすぐに、その表情は再び沈み込む。



 「ん? なぁに?」


 「リリシュエーラはそうじゃなくとも、他に恋人がいたりするんじゃないか? シュリは、その、魅力的だから」



 促すように問えば、ジェスはそんな質問をぶち込んでくる。

 シュリに恋人はいるか? その答えは簡単である。



 「恋人? いないよ」



 シュリは迷うことなくきっぱり答える。

 婚約者は4人いるし、愛の奴隷は5人いる。

 更に、シュリを熱烈に愛し、その心と貞操をねらう者は更に多い。

 だが、現時点で恋人と呼べる相手はまだいなかった。


 シュリの迷いのない返事を聞いて、今度こそ、ジェスの顔が晴れやかに輝く。

 それと対照的に、アガサとリリシュエーラはちょっぴり唇を尖らせて不満顔だったが。



 「そうか!!」



 嬉しそうなジェスの声に被さるように、



 「ねえ、ジェス。そろそろ私の事も紹介してくれない? どこで知り合ったのかは分からないけど、その子、知り合いなんでしょう?」



 そんな声が割り込んできた。

 声につられてそちらを見ると、ジェスの斜め後ろで腕を組む、これまたかなりの美人さんの姿が見えた。

 背中の半ばまである豊かな金色の髪は緩やかなウェーブを描き、顔立ちは少々きつめだが、アーモンド型の緑の瞳はキラキラして綺麗だった。

 だが、見えている瞳は片方だけ。もう片方は黒い眼帯で隠されている。

 ジェスが傭兵団の団長をしているという事は、お連れの美人さんもきっと傭兵団の一員なんだろう。

 もしかして怪我でもしたのかなぁ、と心配そうに見ていると、そのことに気づいた彼女が口元をゆがめた。



 「あ、そうだったな。こちらは……」


 「私の目が気になる?」



 促され、あわてて紹介を仕様としたジェスの言葉を遮り、フェンリーがシュリに直接話しかける。

 好意の感じられない、やや冷ややかな声音で。

 だが、シュリはその声に臆することなく頷いた。



 「うん。大丈夫? 怪我でもしたの?」



 そして心配そうに問いかける。

 フェンリーは、シュリのそんな素直な言葉に、一瞬毒気を抜かれたような顔をした。

 だが、すぐにその表情を消すと、



 「いいわ。見たいなら見せてあげる」



 そう言ってあっさりと眼帯を外した。

 その奥から出てきたのは金色の瞳だった。その光彩は、人のものではなく。

 シュリが今まで見た中で例えるなら、ドラゴンの光彩にもっとも近かった。

 まじまじとその瞳をみつめるシュリに、



 「どう? 不気味な目でしょ? お子さまにはちょっと刺激が強かったかしら」



 フェンリーは自嘲気味に問いかける。

 だがその質問に、



 「え? 綺麗だよ? どうして不気味なの??」



 あっけらかんとシュリは答える。

 その予想外の答えに、フェンリーはぽかんと口を開けた。



 「えっと、魔物みたいで不気味じゃない? え? 不気味よね!?」


 「あ~、魔物かぁ。そう言う人もいるかもね。ドラゴンの瞳によく似てるし。でも僕は、宝石みたいで綺麗だと思うけどなぁ」


 「……ドラゴンの瞳を、見たことがあるの?」


 「うん。見たことがあるよ。その子の目は両方金色で。ドラゴンの姿だからもちろん凄く大きかったけど……うん。綺麗だったな、凄く。あなたの瞳はそれによく似てる。遡ってみれば、ご先祖のどこかに上位の龍種が混じってるかもね」


 「先祖にドラゴン……それは考えた事が無かったわ。不気味な突然変異だとばかり。確かに、上位のドラゴンは人の姿に擬態出来るとは聞いているけれど、それって本当なの? ドラゴンって、人間に欲情出来るものなのかしら」


 「ん~。個人差だとは思うけど、わざわざ人の姿をとるって事は人間に興味があるって事でしょう? コミュニケーションをとりたいと思ったから人間の姿をとったんだと思うし。ってことは、人間に恋をするドラゴンだっていたんじゃないかな?」


 「なるほど。言われてみれば、それもそうね。ドラゴンの瞳、か。そう思うと、私のこの目もそんなに悪くないかもしれないわね」


 「悪くないよ! むしろ綺麗だし、凄く格好いいよ。隠してたらもったいないけど、いきなり眼帯を外せっていうのも乱暴だよねぇ。だから、良かったら……」



 言いながら、シュリは半ば無用の長物と化していた[カメレオン・チェンジ]を発動し、己の片目に眼帯を出現させる。

 いきなり現れたその眼帯にぎょっとするフェンリーの目の前でそれを外し、そしてそのまま彼女にそれを差し出した。

 とっさに受け取ったフェンリーは、その眼帯の手触りの良さにまずは目を見開く。

 目を近づけてよく見てみれば、前面は何かの皮のようだが、肌に触れる裏面は柔らかな肌触りのいい布地で作られている。

 色は黒ではなく、深めの紫。

 金の糸を中心に繊細に刺繍されているのは、美しいドラゴンの図案だった。



 「いいわね、これ。でも、どうやって?」



 その眼帯をうっとりと眺めながら、フェンリーが問う。



 「えっと、ちょっと変わったスキルで、かな。あなたのために作ったんだ。良かったら使ってくれる?」


 「いいの? こんなに素敵なプレゼントを貰っちゃって」


 「いいよ。あなたは綺麗なんだし、無骨な眼帯じゃもったいないよ。それに、ほら、簡単に作れるから」



 言いながらシュリは更に数個、同じ作りの眼帯を作り出した。

 ドラゴンの刺繍の図案だけは、それぞれ少しずつ変化させたものを。

 そしてそれらも惜しみなく、フェンリーの手の上に乗せた。

 フェンリーは嬉しそうに目を輝かせ、それら1つ1つを確かめて、



 「ドラゴンの絵柄がどれも違うのね。素敵。ただで貰うのが申し訳ないくらいだけど、せっかくの好意だし、遠慮なく頂いておくわね。ありがとう。えーっと、シュリ、だったかしら?」



 シュリの顔を改めて見て、聞き覚えた彼の名前を口にした。



 「うん。そうだよ。よろしくね……えっと」


 「フェンリーよ」


 「フェンリーさん?」


 「フェンリー、でいいわ。ジェスの知り合いみたいだし、こんなに素敵なプレゼントをくれたし、ね」


 「うん、じゃあ。よろしくね、フェンリー」


 「ええ。ジェスともども、仲良くしてくれると嬉しいわ」



 にっこり笑いあった後、フェンリーはプレゼントされた眼帯の1つを早速身につけ、それからようやくジェスの方へ顔を向けた。



 「どう? 似合う?」



 そんな質問と共に。



 「似合う。ものすごく似合ってる。だけどなぁ、フェンリー」



 友に感想を求められ、ジェスは真面目な顔で答える。

 素直な感想を。



 「ん? なによ?」


 「紹介してくれって言ったくせに私を放置して、そのあげくシュリとすっかり仲良くなって、あまつさえプレゼントまで貰うなんて……」


 「うん、それで?」


 「ずるい!! うらやましすぎるぞ!!」



 真面目に友人をほめた上で、己の素直な感情を叫んだ。

 その叫びに、リリシュエーラとアガサが頷き、3人は揃って、非常に物欲しそうにフェンリーの眼帯を見た。



 「ずるいって言われても……ってなによ!? その目。言っておくけど、なに言われてもあげないわよ? コレは私が貰ったんだから!!」



 身の危険を感じたフェンリーが主張し、3人のジト目の度合いが増す。

 そんな彼女達を見てシュリは苦笑し、後でそれぞれに何かプレゼントをしないとかなぁ、と彼女達になにを贈るべきか、こっそり真剣に頭を悩ませるのだった。

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