第292話 お風呂場の攻防戦②
「シュリ様、今日は私とお風呂に行きましょうねぇ」
うふふっと可愛らしくルビスが笑う。
(ん~……今日も安定して目が笑ってないなぁ。僕があんまり好きじゃないなら、無理して笑わなくてもいいんだけどなぁ。でも、きっと、ルビスは僕に気づかれてないと思ってるんだろうし。わざわざ指摘するのもどうかと思うしな~)
ある意味男のロマンがたくさんつまった、ロリ顔巨乳メイドさんの色気と愛らしさを混在させた顔を、シュリは複雑な思いで見つめてからこっくりと頷く。
素直に差し出された主の手を握り、
「ふふっ。一緒にお風呂なんて、なんだか照れちゃいますねぇ」
うきうきした(様子を装った)足取りで、ルビスはシュリを先導して歩いた。
屋敷の一角にそれなりのスペースを割いて作られたその浴室は、エミーユとカイゼルがこだわって作ったものらしく、家庭のお風呂の枠におさまらないものだった。
王都に来た初日、特別に愛の奴隷三人と入ってるところにヴィオラやイルル達に乱入されてもまだ余裕のある広さに驚いたものだ。
アズベルグのお屋敷のお風呂も広かったが、もしかしたらそれよりも広いかもと思わせるくらいには広いお風呂だった。
とはいえ、この豪華なお風呂が稼働するのは主一家が滞在する時だけらしく、使用人の使うお風呂は別にあるらしい。
そっちのお風呂は二、三人で入るのが精一杯の広さで、平等にローテーションで利用しているようだ。
シュリが王都に来てからは、自分一人で利用するのはもったいないという理由から、残り湯を使用人達に解放している。
なので一日の終わりに、男女で時間を決めて利用しているらしく、大人数で使えるため入浴時間の短縮や入浴頻度の改善につながり、使用人達からは概ね好評のようだった。
浴室につくと、ルビスは他の使用人がうっかりを理由に入って来ないように[使用中]の札を入り口にかけてからシュリを脱衣所へ導く。
促されるままに中に入ると、そこにはかしこまった様子のアビスが待ちかまえていた。
シュリの姿を認めた彼女はキレイなお辞儀で主を迎えると、
「シュリ様、入浴のお手伝いに参りました」
ちょっと緊張したような声音でそんな報告。
そして更に、
「ジュディスからは、脱衣と着衣の手伝いを、と聞いております。コツも聞いておりますので、ご安心下さい」
ちょっと安心しにくいようなコチコチの声でそう告げられた。
シュリは、そんなアビスをちょっと不安そうに見上げる。
初日、初っぱなから夜伽の命令だけはまっぴらごめんと、きっぱりシュリに告げてきた彼女である。
そんな彼女にお風呂のお手伝いをさせるなんて、これはセクハラになりはしないのだろうか、とそんな疑念に胸がそわそわした。
実際問題、こちらの世界ではセクハラという概念すらまだないという状況な訳で、使用人にはなにをしてもセーフという風潮が強い。
だが、貴族の中では比較的常識的なルバーノ家で育ったシュリにはそういう認識が薄かった。
その為、前世での価値観がついつい全面に出て、時折こんな風に不安にかられてしまう。
まあ、そのたびにジュディスやらシャイナやらカレンやら、周囲に控える女性陣にそこまで心配する必要はないとの注進を受けるのだが。
しかしこの場には、シュリの心の機微を本人よりも敏感に察知する面々はおらず、シュリは少々緊張気味にアビスの前に立つ。
(服くらい自分で脱いで着れるって言っちゃいたいけど、それはアビスの仕事をとっちゃうことになるからダメなんだよね……)
今日、ジュディスから改めて伝えられた貴族としての心得を思い出しつつ、シュリは大人しく口をつぐんだ。
「でっ、では、しっ、失礼しましゅ……」
ぷるぷる震えるアビスのキレイな指先がボタンに伸び、大層時間をかけながら一つ一つボタンを外していく。
(ごめん、ボタンのない服を着てくるべきだった……)
思わずそう思ってしまうほど、アビスのかもし出す緊張感はすさまじい。
「もう、アビスちゃんってば、緊張し過ぎよ?」
ルビスもシュリと同じ感想を抱いたのか、妹を助けるように残ったボタンに手を伸ばすと、さっさと外していく。
そして、
「はぁい、ご開帳~」
とボタンの外れたシュリのシャツをするっと脱がせてくれた。
少々時間はかかったものの、上半身は無事裸になったので、後は下を脱げばお風呂に入れると、そのまま大人しく待っていたのだが、いつになってもズボンとパンツに手が掛からない。
あれ? と思って二人の方を見てみれば、
「な、ない……」
「ない、わね」
なぜかシュリの胸の辺りを凝視してがっかりした顔をしている。
「シュ、シュリ様の年齢を考えてみれば、まだなくて当然だよ! お姉様!!」
「そ、そうよね。まだお子様だものね!!」
執事の仮面が剥がれたアビスの言葉に、希望を得たように頷くルビス。
(え~っとぉ……どうして僕、おっぱいが中々成長しない可哀想な子みたいな扱いになってるのかな?? 僕って、男の子、だよね? っていうか、みんなに男の子ってちゃんと伝わってるよね!?)
困惑したまま、何と言っていいか分からずに二人を見つめるシュリ。
二人はそんなシュリの様子には全く気づかずに、胸にロックオンしていた目線をそのまま下へすすすぅ~っとずらす。
「か、肝心なのはこっち、だよね? お姉様」
「そっ、そうね。アビス。そっちの方が大事ね!」
意味不明な言葉を交わしあい、二人はごくりと唾を飲み込んで、
「失礼しますっ、シュリ様」
「しっ、失礼しまぁす」
二人は同時に手を伸ばし、ガッとシュリのズボンを掴んだ。
そして、掴んだその手に力を入れ、勢いよくシュリの下を脱がせてくれた。
ズボンだけではなく、パンツももろともに。
足首まで下ろされた下半身装備から足を抜き、これでやっとお風呂に入れると、いつもより疲れた気持ちでお風呂のお供をしてくれるはずのメイド長さんを見上げる。
だが、ロリ顔巨乳のメイドさんはなぜかフリーズしており、その横のこれまたマニアにはたまらない男装の麗人執事のその妹も、なぜか同様に固まっていた。
「「あっ、ある!?」」
異口同音な言葉が二人の口からこぼれ落ち、その視線はシュリの下半身にがっつりロックオンされていて。
その事実から、二人の言いたいことを理解したシュリは、
(ん~、僕は女の子だって噂でも流れてたのかなぁ)
などと思いつつ、ちょっと困ったように固まっている二人を見上げた。
そして、
「そりゃあ、あるよ。僕、男の子だもん」
二人にとっては衝撃的な事実を言葉にし、やれやれと肩をすくめつつ。
シュリは二人の再起動を待って寒い思いをするなどと言う愚は犯さずに、さっさと一人で浴室へ向かうのだった。
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