第244話 戦士科での顛末
戦士科での体験授業二日間も、あっという間に終わった。
正直動きっぱなしだったなぁという印象だ。
筋骨隆々とした先輩達に混じり、毎日走って筋トレをして、格闘訓練や武器を扱う訓練にも参加した。
それは、シュリの学年の生徒であれば、普通、どうあってもついていけそうもないほどのハードワークであった。
しかし、シュリの辞書に普通という文字が無くなって久しい。
普通ってなんだったっけ?という状態のシュリにとって、戦士科での授業はきつくも何とも無かった。
戦士科の授業で鍛えられた筋肉ソルジャー達と共に、普通であれば血反吐を吐いてもおかしくない授業を平然とした顔でこなしていくシュリに、首を傾げたのは戦士科の教師達だ。
一体今までどういう鍛え方をしてきたのだと、我慢しきれずに詰め寄った教師達に、十二分に手加減をしていたつもりのシュリはきょとんとした顔を返す。
そんなシュリに、教師達は彼がどれだけ異常……もとい、規格外かと言うことをこんこんと話して聞かせた。
そして問う。一体全体どうやったら、そんな体を作れるのか、と。
シュリは己の擬態力がまるっきり足りていなかった事に気づいて冷や汗を流しながら、どう答えようかと思案する。
だが、目の前に雁首並べた教師達の顔があり、悠長に考えている時間もなく。
その時、脳裏に浮かんだのは能天気だが可愛い笑顔の、シュリの祖母と呼ぶには若々しすぎるほど若々しい、褐色の肌の美人さんの姿だった。
あ、その手があった、とシュリは心の中で、ぽふんと手を叩き、
「えーと、僕のおばー様が、
おばー様、ごめんなさい、と心の中で謝りつつ、そっとヴィオラを人身御供に差し出した。
そこからの、先生達の狂乱はすごかった。
なんといっても戦士科の教員をしているような先生達だ。
当然の様に冒険者の経験もあり、強さこそすべてという考え方をしがちな彼らにとって、
憧れの対象の孫に対して、彼らは拝み倒さんばかりの勢いで、ヴィオラへの対面を望んだ。
泣き落としも辞さない押しの強すぎる要望に、気がつけば頷かされていたシュリは、心の中でもう一度、おばー様に謝っておく。
この埋め合わせはいつか必ず、とヴィオラが聞いていたら狂喜乱舞してしまいそうな事を胸の中でそっと誓いつつ。
(でも、おばー様、すごいなぁ。さすがは
もはや、ヴィオラの事しか頭に残っていなそうな教員達の顔を見上げて、シュリはほっと安堵の吐息をもらす。
そして、遠くスベランサで冒険者稼業をしているであろう若々しい祖母にむかってそっと手を合わせて感謝したのだった。
そんなことがあったのも、もう昨日のこと。
今日と明日はいよいよ魔法科での授業体験である。
そんなわけで、今朝、目覚めた瞬間、枕元にリュミスの顔を見つけてからずっと、シュリはリュミスの腕の中。
お着替えも、おトイレも、ご飯も……ずーっとずーっとリュミスが一緒だった。
そのまま一緒に馬車にも乗って、うらやましそうなアリスやミリーの視線に見送られ、中等学校の校門も通りぬけ。
今現在も絶賛拘束され中である。
学校についたのだから、流石にそろそろ解放してくれないかなぁ、と後ろから自分を抱き抱えているリュミスの顔をちらりと見上げる。
が、やっと自分の番が来たとばかりのホクホク顔を間近に見て、彼女の優しい拘束から抜け出すことは難しそうだと、早々に諦めた。
どうやら、当分の間は我慢して抱っこされてるしかなさそうだと、シュリはがっくり肩を落とした。
サシャ先生が無用に言い寄られないように、彼女の側に出来るだけいるようにしなきゃいけないというのに、これではナイト失格である。
でも、こればっかりはシュリの意思だけではどうにもならず、出来るだけ早くリュミスが自分を解放してくれるように祈る事しか出来ない。
後は、彼女の疲労を待つことくらいだが、身体強化の魔法を体得している上に魔力量の豊富なリュミスが息切れを起こしてギブアップする姿は想像も出来なかった。
リュミスの性格を考えると、例え疲れたとしても意地でシュリを抱っこし続けそうな気もする。
こうなったら、サシャ先生にくっついた悪い虫が悪さをしないように祈っておくしかないなぁ、と朝からちょっぴり疲れたような困ったような顔をするシュリなのだった。
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