特別短編 ふくろうカフェに行きたいとこぼしたら、ふくろうカフェもどきが出来た件⑤

 「ふくろう、という生き物を知っておるか?」


 「ふくろう??それってあれよね、森の奥にいる鳥のことでしょ?見たことくらいはあるけど、いきなりどうしたの??」



 イルルからぶつけられた突然の質問に、生物学上シュリの祖母である女性、ヴィオラ・シュナイダーはコテンと首を傾げた。


 シュリがまだ幼いとはいえ、祖母であるヴィオラの見た目はせいぜい二十代半ば。

 祖母と呼ぶには少々若すぎる様に見えるが、その耳を見れば疑問は氷解する。

 笹の葉の様に尖った耳に褐色の肌、誰もが目を見張る麗しい容姿の彼女の種族はダークエルフ。

 人よりも遙かに長い寿命を持つ彼女達の種族は、その長い寿命にあわせて、見た目の老化のスピードも極端に遅い。

 結果、ヴィオラのようにまるでおばあちゃんに見えないおばあちゃんが出来上がるわけである。



 「おおっ!!ふくろうを知っておるのか。さすがはヴィオラじゃの!!じゃあじゃあ、さらに質問じゃ。ふくろうというのはどんな生き物なのじゃ?も、もしや、眷属にすることが出来ちゃったりとかはないじゃろうの!?」


 「んん~?ふくろう自体はただの鳥のはずだから、眷属にするのは無理だと思うけど、似たような魔獣ならいるわよ?希少な魔獣で滅多にお目にかかれないらしいけど」



 名前はなんていったかなぁ、とちっともおばあちゃんらしくないおばあちゃんのヴィオラが頭を捻る。

 だが、彼女に質問をぶつけた側の幼女は、そんな彼女の努力など全く無視して頭を抱えた。



 「な、なんということなのじゃ~~~!!眷属に出来るふくろうがおるなんて……いかーん!!このままでは、妾のなんばーわん眷属としての地位が危ういのじゃ」



 イルルがそう騒ぎながらじたばたともがく様を、ヴィオラはなま暖かく見守り、それから、イルルにくっついて一緒にやってきた、残りの二人につぃと視線を向ける。

 そして、



 「えっと、いつになくおかしい様子だけど、大丈夫なの?コレ??どっか壊れちゃったんじゃない??」



 至極まじめに、そんな失礼極まりない感想を述べた。

 ヴィオラのイルルを見る目、それは完全に可哀想な子を見ている目であった。



 「え~と、イルル様は誤解されやすい方ですし、様子がおかしく見えるのも事実ではありますが、一応、今回の言動には理由がありましてですね……」



 そんなヴィオラの感想に、イルルに義理立てする理由はないのだが、根が生真面目なポチが弁護を試みる。



 「そう。イルル様はちょっとおバカに見えるし、頭が弱いのは事実だけど、今回に限ってはちゃんと理由はある」



 けなしているのか、かばっているのか分からないが、眠そうな瞳のタマも、一応イルルの肩を持った。


 理由って何なのよ?と首を傾げるヴィオラに、実は、とポチが口を開く。

 それは今朝、というか、ついさっきの話。

 なぜか落ち込んでいるように見えたシュリを三人がかりで慰めた、その後に聞かされた話だった。


 曰く、昨夜みた夢の中で、ふくろうカフェなる場所へ行ったのだということ。


 曰く、ふくろうカフェとは、史上最強に可愛いふくろうなる生き物がたくさん居て、美味なる食事や飲み物が出てくる場所らしい。


 曰く、ふくろうカフェは最高の癒しを与えてくれる場所である。


 そして、シュリはどうやらそのふくろうなる生き物に、魅了されている様だった。

 目を輝かせ、その夢のような場所の事を三人に語り聞かせた後、シュリはふと遠い目をして、ぽつりと呟いたのだ。

 会いたいなぁ、と。万感の思いを込めて、ただ一言だけ。


 だが、それを聞いただけで三人には分かってしまった。

 シュリがどれだけふくろうという生き物のことを求めているかと言うことを。

 寂しそうなシュリの横顔を見て三人は思ったのだ。

 何とかしてあげたい。でも、もしふくろうなる生き物が自分達の地位を脅かす存在なら、それはなんとしても阻止したい、とも。



 「ふくろうカフェ、ねぇ?可愛いシュリが望むなら何とかしてあげたいけど、森の奥深くに隠れるように生息してるふくろうを大量に集めるのは、ちょっと現実的じゃないし、どうしたもんかしらね~?」



 ふむふむ頷きながらポチの話を最後まで聞いたヴィオラは、腕を組んでうーんと唸った。

 シュリの願いは叶えたい。

 だが、ふくろうを実際に捕まえてくるのは中々に手間がかかる上に、彼らの生息する森の特定からしなければならず、正直、現実的ではない。


 ではどうすればいいか。

 ふくろうを捕まえてくる以外の方法で、シュリの願いを叶える術はないのだろうか。

 ヴィオラは考えに考えた。

 頭が沸騰して、湯気が出てくるのではないかと思うほどに。


 そうして考えに考え抜いて、ふいにぽんっとあるアイデアが頭に浮かんだ。

 あ、その手があったか、と内心にんまりし、必要な数はどのくらいか、指折り数える。

 場所はルバーノ邸のどこか一室を借りればいいし、人材は豊富にいる。

 料理だって、事情を話せばルバーノ家の料理人が協力してくれる(はずだ)。


 頭の中でそんな算段を考えつつ、ヴィオラはにっこりとイルル達に笑いかけた。

 そして告げる。



 「ふくろうカフェ、私が何とかしてみせるわ。一週間以内には形にするから、それまでシュリのことよろしくね」



 彼女はそう言いおいて、ぽかんとしている三人を置き去りに部屋を飛び出した。

 目指すは王都。

 超特急でアズベルグの街を飛び出したヴィオラは、早速己の眷属であるグリフォンのシェスタを呼び出して空へと舞い上がる。

 そして迷うことなく王都へと進路を定め、猛然と飛び去ったのだった。

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