第百七十三話 戦いの終わりと後処理と②
離れていた面々と再会し、さてこれからスベランサへ戻って報告をしようという段になり、シュリはイルルにあるお願いをした。
「わ、妾にこの亜竜どもの引率をせいと言うのか?こ、こんなに沢山おるのに??」
シュリの願いを聞いて、イルルが驚愕の声をあげる。
そう、シュリがイルルに要請したこと、それは、ヴィオラと四精霊が苦労して半殺しにとどめて生かしてくれた亜竜達を、元の住処であるヴィダニア山のドラゴンの峰へ帰すこと。
イルルはイヤそうな顔をして周囲を見回す。
そんなイルルに、有無を言わせないようにシュリは微笑んだ。
「イルルなら出来るでしょ?なんて言ったって、
「う、うむ。それは、そうなのじゃが……」
シュリの言葉に歯切れ悪く答えるイルル。
「じゃ、じゃが、一匹も逃さんで、周囲に危害も与えんようにとなると……」
「イルルなら出来るでしょ?一匹たりとも見逃さず、きちんともといた場所に帰して、更に、勝手に山を下りて無害な人を襲ったりしないように調教することくらいさ?」
「む、むう。なんだか微妙にハードルがあがってる気がするのは気のせいかの??」
「無理とは、言わないよね?」
「う、うみゅう~……」
「これくらいのことも出来ない眷属、僕には必要ないかもなぁ?」
「しゅっ、しゅりぃ……そ、それは妾を捨てると言うことか?ダメなのじゃぞ!?妾は、もうシュリのモノなのじゃ」
「だったら頑張ってごらん?イルル。それにね、イルルはきちんと贖罪をしなきゃ」
「……贖罪?」
「うん。イルルのした事によって迷惑を受けた相手に対する贖罪。今回の騒動に関わった全ての人や助けようと動いてくれた人、それにはもちろん、この亜竜達も入ってる」
「亜竜達も?こんなの、ただの魔獣じゃろ?」
「でも、イルルが思いつきであのドラゴンの峰に居座らなければ、無闇に山を下りてくることもなかった。こんな風に、叩きのめされることも。今回の騒動に僕のおばー様が間に合わなかったら、きっと沢山の人が死んだし、この亜竜達も全て駆逐されたはずだよ?イルルのちょっとしたわがまま一つで」
その事を、ちゃんと理解してる?とシュリは真剣な表情でイルルを見つめる。
そんなことすらわからないような子は、僕のうちの子じゃないよ、というように。
幸いにも、というか、シュリが話す言葉の意味を、イルルはきちんと理解することが出来た。
以前ならきっと分からなかっただろう。
自分はずっと絶対的な強者で、そんな下々の事情など、気にしようすらせずに生きてきたのだから。
少し前の自分であれば、自分の行動が引き起こす事態など知ろうともせず、もし知ったとしても知ったことではないと鼻で笑ったに違いない。
それほど、以前の自分は傲慢だったのだ、とイルルはシュリの眼差しを受けてしょぼんと肩を落とす。
そんなイルルの頭を、シュリの手が優しく撫でた。
「ねえ、イルル?イルルが反省して、きちんと自分の為すべき事をするなら、僕はどこまでもイルルの味方をするよ。イルルの、主として」
だから、頑張ってみよう?そう諭され、イルルは頷く。
出来る、出来ないではない。やるのだ、とそんな思いと共に。
そんなイルルの隣に、二つの影が進み出てきた。ポチとタマだ。二人は決意を感じさせる表情でじっとシュリを見つめた。
「シュリ様。ポチもイルル様と行ってくるのです。イルル様を止めなかったのはポチの罪なのです」
「タマも、一緒に行ってくる。タマも、イルル様を適当に放っておいたし」
そんな二人を見上げてシュリは柔らかく笑う。
「僕からお願いしようと思っていたけど、二人がそう言ってくれて嬉しいよ。イルルがさぼらないように一緒にいてあげて?」
「わ、妾はさぼったりせんのじゃぞ!?」
慌てたようにそう言い募るイルルの頬に、シュリはそっと手のひらを滑らせた。
「冗談だよ、ごめん。ちゃんとわかってる。イルルは、きちんと自分のやるべき事をやれる子だよね」
シュリのそんな言葉にイルルは無い胸を張る。
「もちろんなのじゃ。ここの亜竜共の事は妾に任せい。ちゃーんと言い聞かせて、元の住処に帰すからの」
「うん。終わったら、僕の元へ帰っておいで?僕がどこにいても居場所は、きっと分かるんでしょ?」
「うむ。主の居場所は常に把握しておる。それが眷属というものじゃ」
「じゃあ、気を付けて。やることをしっかりやり遂げて、早く僕のところに帰っておいで?」
「うむ!」
「早く帰りたいからって、手抜きしたらダメだからね??」
「……う、うむ」
「ポチもタマも、イルルと一緒にお願いね?」
「はい!!」
「……ん」
それぞれ頷く眷属達を、シュリは送り出す。イルル達は、よろよろと歩く(あるいは飛ぶ)大量の亜竜達をつれて去っていった。
シュリはそれを見送り、少し離れたところでシュリ達の様子を見ていたヴィオラ達を振り返る。
そして、
「お待たせ。じゃあ、スベランサに向かおうか」
そう言って、にっこり微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます