第七十七話 魔法の才能、無いのかも
魔法の検証のために場所を移動、と言っても、一人で遠出するわけにもいかないし、庭先などでは誰かに見られてしまう可能性もある。
なので、とりあえずは部屋の中でも危なく無さそうな水系の魔法から試してみることにした。
顔を洗ったりするときに使う容器を引っ張り出してスタンバイ。
手をかざして、いざ魔法を使ってみようと思ったところではたと首を傾げる。
(あれ?そう言えば、初級の水魔法ってどんなのがあるんだっけ??)
あの時は、本を開いただけで初級魔法をすべて取得してしまったので、結局中身は読んでないのだ。
だから、初級魔法の種類もなにも、まるで分からない。
はーっとため息をつき、仕方ないから図書室へ行って確かめて来ようと思ったとき、頭の中にふわぁっと何か言葉が浮かんできた。
ん?と思い、意識を集中すると、どうやらそれは今まさに使おうとしていた初級水魔法の名前らしい。
「うぉーたー?」
口に出して読んだ瞬間、手の平からぴちょぴちょとなにやら水滴が。
油断していた為、手の平から零れ落ちる水はシュリの股間の辺りにこぼれ、服にしみを作る。
驚いて停止を念じるとすぐに放出は止まった。
シュリはまじまじと己の手の平を見る。
そこはもう濡れてはいなかったが、股間は濡れたまま。魔法で作り出された水は、消えてしまう事は無いらしい。
どうやら、名前を読み上げただけで魔法が発動したようだった。
呪文の詠唱とかは必要なかったのだろうか?
まあ、一応は使えたからいいかと、シュリは己を納得させ、ステータス画面を開いてみる。
・水魔法初級
・ウォーター(消費MP:5、熟練度:1/10)手の平から水を放出する。勢いや量は熟練度により、変動。
と、新たな表記が増えていた。
(なるほど、威力は熟練度で変動するんだな。MPの消費量は少ないし、いっちょ熟練度をあげてみるか!)
魔法を使えた事に若干興奮しつつそんな事を思い、ぽたぽたと水を垂らし続けること数時間。
熟練度は確かに上がった。
そしてなぜかレベルも上がった。
が、しかし、放出する水の量も勢いもまるで変化がない。
相変わらずぽたぽた垂れるだけで景気が悪いったらありゃしない。まあ、数時間ぽたぽた出していたからそれなりの量はたまってはいるのだが。
あれぇ?おかしいなぁ??と首を傾げつつ、シュリはステータス画面で熟練度を確認してみる。
熟練度は現在7/10。
確実に上がっている。だが、威力に変化はない。
これはもしかして……と浮かび上がる可能性はあったが、信じたくなかった。
(ほ、他の魔法なら何とかなるかも。水とは相性が悪いんだよ、うん)
自分に言い聞かせるようにそんな事を思いつつ、今度は風を試してみることにした。
意識を集中し、浮かんだ名前を唇に乗せる。
「うぃんど」
その瞬間、風が吹いた。
そよっと、弱々しく。
はっきり言って、うちわで仰ぐ方がよほどいい風がくるんじゃないかと思えるほどの弱々しさである。
だが、シュリは諦めなかった。
シュリはしばし熟練度あげにいそしみ、そして再びがっくりと肩を落とす。
熟練度が上がっても、「そよ」が「そよそよ」になることすらなく、シュリは初めて感じる挫折感に半ば打ちのめされつつ、すがるような気持ちで火と土も試してみた。
念のため、きちんと安全性を考慮した上で。
水がなみなみと貯まったたらいの上で試した火の魔法は、マッチの炎に勝てるか勝てないか。
土魔法はポコリと小石くらいの土塊がひとつ出来ただけ。
(え、魔法ってこんなもんなの?確かに初級ではあるけど)
シュリは首を傾げ、そっとジュディスに念話を繋いでみた。
『ねぇ、ジュディス?』
『はい?どうしましたか??』
『魔法ってさ、どのくらいの威力があるものなの?』
『魔法の威力、ですか?一概には言えませんが、強力なものは魔物も一撃で倒すくらいの威力があるとは聞きますが』
『や、そんな強力なのじゃなくて、もっと入門編の、初級の魔法の威力ってどれくらいなんだろ?ジュディスは使えるの??』
『ええ。幸い、水魔法の適正がありまして。簡単なものでしたら』
『ジュディスが初めてウォーター使った時って、どのくらい水が出たか覚えてる?』
『ええと、たしかたらいをいっぱいにするくらいには出ましたね。今では熟練度が上がって、風呂桶に軽く貯められるようになったので重宝してます。水くみの手間が省けますからね』
『ち、ちなみに熟練度はいかほど……?』
『熟練度、ですか?最近やっと、5になったばかりですけど』
『そ、そっかぁ。ありがとう……』
シュリは静かに念話を終えた。
ジュディスの話だけで判断することは出来ないが、明らかにシュリの魔法の威力はおかしい。
熟練度5のジュディスは風呂桶一杯分の水を出せて、熟練度7のシュリはぽたぽたなのである。
初級魔法の威力が低いだけかと思ったが、どうやらそういう訳ではなく、シュリの魔法の威力が極端に低いだけのようだ。
これはもしかしてもしかするのか?
信じたくない現実を直視するように、シュリは眉間にしわを寄せてもう一度、
「ウォーター」
と唱えた。手の平からは水がぽたぽたと。
それを見ながらシュリは思う。
これはどうやら、アレだな、と。信じたくはないが、これほどの現実を見せつけられてしまっては仕方ない。
シュリはため息をもらし、瞠目した。
今までが順風満帆すぎたのだ。人生とは本来、こんな風にままならないものなのである。
そんな事をつらつらと考え、そしてその事実を直視した。
どうやら自分には、魔法の才能がないらしい、という事実を。
その事実に打ちのめされたシュリは、とぼとぼとベッドに戻ってふて寝することにした。
仕方がないと己を納得させはしたが、やはりちょっとは落ち込んでいたらしい。
魔法でたらいにためた水を捨てるのをまるっと忘れ、帰ってきたマチルダはそれを見て、朝ちゃんと捨てていったはずなのにおかしいわねぇと、頻りに首を傾げていたという。
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