第六十四話 隠密メイドの密会~聞き耳編~
扉に猫耳を押し当てた瞬間に聞こえたのは、
「くわえろ」
尊大な口調でそうのたまう男の声だった。
(くわえろって、アレ、だよね??)
シュリは首を傾げつつ、半ば確信しながらそう考える。
男の口調や扉の向こうのシチュエーションを想像してそう思ったのだが、それはあながち間違いではない。
扉の向こうでは、でろんとしたウィンナーを突きつけられたシャイナが呆然とした顔をしているところだった。
もちろん、シュリがその光景を見れる訳では無いのだが。
(会って早々に舐めさせようって……うわぁ、イヤな男)
顔をしかめつつ、中の音へ耳をすませる。
男は最初は尊大な態度だったが、シャイナにかけた魅了が大分弱まっているのを感じたのか、急に態度を変えた。
甘い声で優しく、シャイナにささやく声に続いて、キスをしているような水音を吐息混じりの甘い声が聞こえてきた。
キスはそこそこ長く続き、それから愛撫もほとんどなくいきなり本番に。
おいおい、そりゃないでしょと突っ込むまもなく、あっという間に男が果てて、行為は終わった。
ちょっと早すぎないか?と思うが、すぐにピロートーク(?)が始まったので、シュリは再び猫耳に意識を集中した。
それにしても猫耳の性能は凄まじいと、シュリは感心する。
あまり聞きたくもない水音や、生々しい音まで全て拾って聞かせてくれた。
嬉しくは無かったが、まあ、役に立つ性能だ、と思う。
さて、扉の向こうでは、シャイナが布で体を拭って身支度を整える音にかぶるように、男が再び尊大な調子で問いを発している。
「で、アズベルグの跡継ぎはどんな奴だ?問題なく殺せそうか?」
やっぱり標的は自分だったかと少し安堵しつつ、殺すつもりだった割にはシャイナから殺気を感じたことは無いけどなぁと首を傾げた。
「……ただの赤ん坊ですよ。殺すまでもないかと」
「赤ん坊のうちの方が始末しやすいだろうが。育って頭角を現してからじゃ遅いじゃないか」
「今は兎に角、屋敷に来たばかりで、赤ん坊に注目が集まっております。すぐに殺すのは得策ではないかと」
「……そうか?」
「はい。バレると思います」
「バレるのは困るな。仕方ない。赤ん坊の方はもうしばらく放置だ。監視だけはしておけ。そう言えば、俺の花嫁候補達はどうだ?美しく成長しそうか?長女なんかは、そろそろ男を覚えてもいい頃じゃないかな?」
「フィリアお嬢様はまだ11歳でございます。まだ、時期尚早かと」
「ふーん。ま、そう言うならもう少し待つか。どうだ?胸は大きくなりそうか?」
「……はい。まあ」
「そうか。楽しみだな。俺はでっかい方が好きなんだ」
中ではそんな会話が繰り広げられていた。
どうでも良いけど、男の方はなんだか頭が悪そうだ。
シャイナの手の平の上で転がされている気がする。っていうか、シャイナの声に溢れる嫌悪感に気が付かないモノかな?
それにしてもバカな男だな~と思う。
女性の胸には夢と希望が詰まってるんだぞ!?大きければいいってもんじゃない。
小さいは小さいなり、大きいは大きいなりに素敵なモノなのだ。
前世でも、胸の大きさはソレほどでもなかったが、それもいいと誉められた事はある。
……主に女性からだったが。
そんな事を思い出してちょっぴり悲しくなり、こみ上げた怒りをドアの向こうの男に向けることにする。
(お前みたいなお馬鹿な巨乳信者に、フィリア姉様は断じて渡しません!!)
と心の中で堅く決意しながら。
もちろん、他のお姉様も渡すつもりはない。
自分の嫁にするかしないかはともかく、今や彼女たちはシュリの立派な家族なのだ。
お嫁に出すにしても、最低限相手の品位や性格は選んであげたいと思うのが人情だ。
少なくとも、このドアの向こうに行るような下種な男にはやりたくない。
彼女たちに見合うだけのいい男は、他にたくさんいるはずなのだから。
そうこうしているうちに、二人の会話は終わりに近付いていた。
「ま、とりあえずは、4人娘に俺の良いところをせいぜい吹き込んでおいてくれよ。時期が来たら、直接会って魅了するから。跡取りのくそガキの事は、そうだな……3ヶ月後までもう少し様子を見るか。その頃にまた使いをやる。そうしたらまたここで可愛がってやるからな」
「……はい。では、お暇を」
「おう。見つからない様に出て行けよ」
男の声を合図に、足音がこちらに近付いてくるのが分かった。
(やば。シャイナが出てくる!?)
のんきに聞き耳を立てていたシュリは反射的に[高速移動]のスキルを発動しようとした。
だが、思うようにならず、はっと思いだす。
[猫耳]のスキルは身体強化系のスキルと重複発動が出来ないんだった、と。
急いで[猫耳]を解除しようとするが、一歩遅かった。
がちゃりと音を立てて扉が開き、出てこようとしたシャイナとばっちり目があってしまった。
時が、止まる。
目を見開いたシャイナが固まり、シュリも固まる。
二人はそのまましばし見つめ合うのだった。
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