第三話 えーと、もしかして、男だったりして?
衝撃の事実が発覚した。
よく考えてみれば、何となく違和感はあったのだ。
だが、異世界へ転生してしまった混乱が先で、その違和感が何から来るのか見定められなかった。
その違和感は、おむつの中にあった。
何日も前から、排尿時に違和感はあったのだ。
何がという訳ではないが、何かが違うという感じ。
それが今日、はっきりした。
ほんのついさっき、母親の美女がおむつを替えてくれたときの事だ。
彼女はいつものようにてきぱきとおむつを替えていた。
何ともいえない羞恥プレイの時間を何とか乗り切り、お湯で濡らしたタオルで綺麗に拭いてもらってほっと一息。
彼女はおむつ用の新しい布を用意しながら、頬を染めてうふっと笑い、そっと手を伸ばしてつついたのだ。以前の彼女には無かったはずの場所を。
何ということだろう。
生まれ変わった彼女は彼だったのだ。
正に
(えーと、普通は女は女に転生するものじゃないのか?)
そんな風に思うものの、事実男に生まれてしまったのだから仕方あるまい。
しかし、女の記憶が残っているのに体は男。悲劇である。
だがまあ、ものは考えようだ。
もと女の自分は女心がよく分かる男になるに違いない。女心がよく分かる男はきっとモテる。
以前の自分であれば女にモテても嬉しいとは思わなかったが、今の自分は男なのだ。肉体的には。
きっと、女にモテれば嬉しく思うようになるに違いない。……たぶん。
同性ではなく異性にモテるのはいいことだ。
以前の自分は男性不信気味だったから、この心のままでも男に恋心を抱く羽目にはならないと思う。ならないはずだ。出来ればそうはなりたくない。
今度の人生は出来るだけまっとうに、ノーマルに生ききってみたいものだ。
折角やり直すことができるのだから。
前回と別の性というのは計算違いだが、まあ仕方ない。人生、そうそう思い通りにはならないものだ。
こうして生まれ変われた事だけでも、神様に感謝しないといけないだろう。
とりあえず、神様と呼ばれる存在全てに感謝してみた。
適当である。
思えば、前世の彼女も適当な女だった。
あの頃の彼女に熱を上げていた女性達は一体自分のどこが良かったんだろうか、と今になってみても疑問に思う。
あの頃の自分は不思議なくらいモテた。
見事なまでに女性限定のモテだったが。
瑞希には当時も今も、自分を好きだと言ってくれた女の子達の気持ちが全く理解できなかった。
女心は理解できないな、と素直に思い、自分が実は女心のイロハをまるで理解できない女であったことを思い愕然とする。
そんな自分が、いきなり女心を理解できるようになるはずもない。
女心の分かるモテ男になるのが無理な事を理解し、瑞希はがっくりと肩を落とす。
幼い息子がじっと黙ったまま一喜一憂している様子を、母親が心配そうに見つめていることも気づかずに。
だが、再び思い直す。
女心が理解できない位なんだ、と。
理解できないことが分かっているのだから、理解できるよう努力すればいいのだ。
前世でもそうだったが、瑞希は努力することが嫌いではない。どちらかというと得意な方だ。
出来ないなら、努力して出来るようにする……当然のことだ。
大丈夫、自分は出来る子だ。出来る子だったら出来る子なのだ。
自分にそう言い聞かせながら、瑞希はうんうんと頷く。
それからふと、母親の方を見上げた。何だか心配そうな顔をしている。
(夢中になって考え事してたから心配させてしまったな。いけないいけない。今の私は赤ん坊なんだから、それらしくしないと)
そう決意を新たにし、きゃっきゃとあくまで赤ん坊らしく笑い声をたててみる。
抱っこと手を伸ばせば、母親はほっとしたように手を伸ばしてきた。彼女に優しく抱き上げてもらいながら、
(そう言えば、私の今の名前はなんて言うんだろう)
そんな事を思う。
思えば、まだ父の名前も母の名前も知らない。
言葉はまるで分からないが、名前だけでも聞き取る努力をしてみようと、母親の口元をじーっと見つめる瑞希なのだった。
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