第二話 気がつけば転生

 目を開けると、すぐ目の前にものすごい美人の顔があった。しかも外国人。

 銀色の髪に青い瞳、桜色の唇。

 化粧もしていないのにこれだけ美人って言うのは正直すごい。

 芸能人と言われれば、即座に信じてしまうだろう。



 (死んだと思ったけど、助かったのか)



 そんな事を思いながら、瞬きをする。

 目の前の、この女性が助けてくれたのだろうか?それにしても顔が近すぎる。

 何だか照れくさい。

 でも、いきなり目をそらすのも失礼だしな~と思いながら、じ~っと彼女の顔を見ていると、何が嬉しいのかにこにこ笑って、彼女はちょっと体を起こして誰かに話しかけた。

 今まで聞いたことの無いような、まるで聞き覚えの無い言葉で。



 (ん~、やっぱり日本語じゃないか。英語ににてる気はするけど、英語とも少し違う気がするしな)



 そんな疑問に内心首を傾げ考え込んでいると、ドタドタと大きな足音がして、若い男の人の顔がひょいとこちらをのぞき込んできた。



 (おお、イケメンだ)



 少しバタ臭い顔だが、十分イケメン。

 こちらも外国人なのだろう。色鮮やかな赤毛にすみれ色の瞳をした、隣の美女とお似合いの色男だった。



 (ご夫婦、だろうな)



 美女とイケメンはイチャイチャしながら、嬉しそうにこっちをみている。

 何か話しかけてくるが、いかんせん言葉の意味が分からない。

 臆面もなく人前でイチャつく神経はどうかと思うが、きっと彼らが自分を助けてくれたのだろう。

 その事に対する礼は伝えなくてはならない。



 (あの、助けて下さってありがとうございました)


 「あぅ~、あぶぅ~」



 きちんと礼の言葉を述べたつもりだった。

 だが、口をついて出たのはそんな意味不明の言葉。


 言語中枢げんごちゅうすうをやられたかと、慌てて手足が動くか確認してみる。

 足は……動く。手も、大丈夫そうだ。

 ちょっとなんだか感覚はおかしいが、ぜんぜん動かないということは無いようで安心した。


 その時、ふと自分の手が目に入った。

 動きを確かめるようにグーパーしてる手。そのあまりの小ささに驚愕した。

 ぷくぷくとした、まるでもみじの様に可愛い手。それはまるでー。



 (なんだか、赤ん坊……みたいな)



 みたいな、というかまるっきり赤ん坊の手だ。

 足も持ち上げ、両手で触ってみた。自分の物とは思えないくらい可愛らしい足。

 これが自分の足だなんて信じられないし信じたくない。

 だが、手にはちゃんと足を触ってる感触があり、足には触られてる感触がある。

 それらは確かに自分の物のようだった。


 ということは、だ。

 もしかして、これは最近流行っている若向け小説(ラノベとかいうらしい)の設定にありがちなあれだろうか。

 瑞希みずきは本が好きだから、何度か会社の後輩に借りてその手の本を読んだことがあった。


 そういった小説の設定の王道は異世界転生系。

 最近はやたらめったらそういう設定の話が多い、らしい。

 小説の中では、そのまま異世界へ召喚される話や、自分で設定したキャラで異世界召喚される話など異世界へ到達する方法は様々らしいが、その中に異世界へ生まれ変わるという設定もある。

 何らかの理由で死んで、なぜか異世界の赤ん坊へ生まれ変わるのだ。


 なんてめちゃくちゃな設定だと思っていたが、もしかして自分もそんなとんでも設定の小説みたいな体験を、今まさにしているところなのだろうか。

 そうなると、今こちらを見下ろしてニコニコしている美男美女は、今の父と母なのかもしれない。信じたくはないが。


 そう考えて改めてみると、目の前の男女は何とも若かった。

 20代そこそこじゃあないだろうか。

 若くして家庭を築き、子供を授かる美男美女。これこそリア充といった感じ。


 なんというか、生前の自分が哀れだった。

 29歳で結婚どころか彼氏一人居ず、群がってくるのは同性ばかりだったという自分が。


 どよーんと落ち込んでいると、何かを察したのか、母親らしき女性が優しく抱き上げてくれた。

 何ともいえないいい匂いに包まれて、心が落ち着く。穏やかな気持ちになる。


 無意識のうちに親指をしゃぶりながら母親の顔を見上げれば、彼女は愛おしそうに微笑んでくれる。

 父親を見たら、優しく頭を撫でてくれた。


 うん。なんというか、いい親だ。

 少なくとも子供に優しいし、愛情を持って接してくれている。

 いいところに生まれることが出来て良かったと、素直に思えた。


 いっそ前世の記憶など持たずに生まれた方が幸せだったと思うが、それは今更どうにもならない。

 それに、いつかこの記憶が役に立つ日もくるだろう。


 折角与えられた新しい人生だ。精一杯楽しんで、精一杯生きよう。

 そんなに多くは望まない。信頼できる友人と、いつか心から愛せる恋人の一人でも出来れば十分だ。


 ちらりと父と母の顔を見る。


 幸い、二人とも最上級といっていいほどの美男美女。彼らの遺伝子を受け継いだ自分の容貌もそれなりのものになるはずだ。

 後は、同性でなく異性からモテる様に、自分が努力すればいいだけの事。

 頑張ろう、と心の中で拳を握りしめ、赤ん坊らしい無邪気な顔で笑って父母を喜ばせるのだった。


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