もうすこしここにいさせて

マサムネット

だっこして

「おとうさんは 傘 ささないの?」

天気予報どおり、午後から降り出した雨のなか。

乳幼児保育のお迎えの帰り道で、2才になるむすめがたずねてきた。

「うん、そうなんだよ。お父さんの傘はもってきてないの」

ぼくはにっこりと笑顔で、そうこたえた。


保育園から家までの距離、大人が歩いて15分。

まだむすめは最初から最後まで歩ききれるほど体力はついていない。

とちゅうでだっこしないといけないのは、毎日のことなのであらかじめわかっていた。

だっこしながら傘はさせない。

ぼくは、自分が雨に濡れることを覚悟して、むすめのぶんだけ傘を持って迎えに来ていた。


「……。だっこして」

保育園を出てすぐ、むすめがだっこをせがんできた。

え、もう?

ぼくは、一瞬ためらった。もしかしたら、表情にででしまってたかもしれない。


いつもなら、途中まではむすめと歩いて、むすめが歩けなくなったらだっこするのが日常だった。

それでも体力的にきついけど、今しかない小さいむすめとのこの関わり合いを嫌だと思ったことはいちどもない。

しかしながら、保育園を出てからすぐにだっこというのは、体力的にきつい。

そのうえ、この雨の中。


ちょっと……いやだな……。

ほんの一瞬だけ。

そう思った。

しかたない。体力的にはきついけど、むすめをだっこしてさっさと家に帰ってしまおう。


「だっこして」

むずめはかまわずだっこをせがんでくる。

ぼくは笑顔をとりもどし、むすめを抱きあげた。

むすめは、持っていた傘をぼくの頭上にさし、にっこりわらった。


「ほら こうすれば、おとうさんも ぬれないでしょ」

むすめのやさしさと、この輝く時間がいつまでもいつまでも続いて欲しい。そう思った。

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