帰らざる海

若狭屋 真夏(九代目)

第1話 三人同盟

夏休み、それは学生生活で与えられた「オアシス」のようなものだ。

宿題なるものを除けば「恋」「遊び」「部活」などの楽しいものが待っている。

高校三年生になればその楽しいことも「受験」というものに捧げなければいけないのだが高校一年生の三人にはまだ先の事であった。

悠美、香、朋子は中学校からの同級生だ。中学二年の時から仲が良く「馬が合った」

音楽の趣味も一緒、好きな俳優も、ドラマも好きなものは大抵おんなじだった。

ただし、香だけ「パプリカが嫌い」というずれもあったが、三人は仲が良かった。

別に三人だけ集まって遊んでいるわけではないが、グループの中には必ず三人がいた。

年を取るとこういう友達はありがたい。特に作者のように「ボードゲーム」という世間的に伝播されにくい、(というと語弊があるが。)趣味を持っていると、そういう友達がいると人生がばら色になるのだが。。。。

しかし若い彼女らにとって「同じものが好き」というのは時に弊害をもたらす。

「好きな男性」も一緒。これが一番の問題だった。

「たで食う虫も好き好き」というが三人は「イケメン」が好き、なのだが、ただのイケメンではだめで。メガネをかけて体の線が細い「優男」のような男性が好きだった。

三人共「ブス」ではない。むしろ年に6回くらいはラブレターが届いたり。告白されたりするから。まあ「もてる」方だったのであろう。

しかし、好かれるのはいつも「イケメン」ではあるがスポーツマン。線が太い健康的な男子からだった。

人からはうらやましがられたが、今では正直、めんどくさい。

その日も放課後教室で三人でおしゃべりしている。

話は「おいしいケーキ」の事だった。

「もうすぐ夏休みだね。」悠美がこぼした。

「今年こそ、彼氏つくろーよ」朋子が言う。

バン、っと香が机をたたいて立ち上がった。香の大きな胸も揺れた。

「あたし、山田先輩に告白する」

「え??」悠美と朋子が驚く。

「だって、図書委員会の山田先輩って、イケメンだし、優しいし、メガネが似合うし~~。。。」

「それ駄目」はっきりとリーダー格の悠美がいった。

「だって。あたしたちだって山田先輩好きだもん。ね。朋子」

「うん」朋子は激しく頭を上下した。

「うぅ」そういって香は腰を掛けた。

「私たちは好きなものが一緒。それはいいことだけど、好きな男の子も一緒ってのは困ったものよね」

悠美の言葉に二人は深く首を垂れる。

「ね。同盟組まない?」

「どーめい?」朋子の提案に二人は戸惑った。

「同盟、つまりは抜け駆けはしないってこと」

「ほー」

「で、誰が告白するの?」香は問う。

「それは。。。」朋子は言葉を濁した

「でも、それもありかもね。」悠美は意外にも「同盟」を支持した。

「だって、私たちこの高校に入ってまだ半年も経ってないし、山田先輩の事も知らないことが多いから、とりあえず「情報収集」をするの。」

「うん、うん」深くうなずく二人。

「それから山田先輩がどんな子がタイプか、とか探って。三人の中で一番山田先輩に好かれる子が告白する。」

「ほー」

「それをどう決めるの?」香が聞いた

「話し合いよ。そのための「同盟」なんだから」

「ほー」

こうして「三人同盟」なるものが出来た。

「薩長同盟」となどおおよその同盟は歴史上に残るが、この「三人同盟」は歴史には残らない。夏の日が傾きかかってゆく

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