第14話 夢に向かって


高宮くんと舞香さんの事は今でも私の胸を痛めつける。


だけど


彼女ではないみたいだし・・・頑張らなきゃだよね、私。


私が皆とはぐれた時、一番最初に見つけてくれたのは高宮くんだ。


いつも高宮くんなんだな。


クラスに馴染めなくて一人でいた私に一番最初に手を差し伸べてくれたのも高宮くん。


漫画のネームを破られ、泣いていた私の為にクラスメイトに怒ってくれたのも高宮くん。


こう考えるとお世話になりっぱなしだなぁ。


何か返したいな。



気づいたら夏休みが始まっていた。


夏休みはコミケに出すドラマCD作成の為に朝から夕方まで毎日のように部活がある。


桜小路くんの協力もあり、ドラマCDは良いものが出来そうだ。


ジャケットのキャラデザインは私と綾ちゃんが。


シナリオはラノベ作家志望の姫島くん。


私と綾ちゃんは姫島くんの書いたシナリオのチェックもしている。


漫画で言う担当編集みたいな役割だ。


アフレコは高宮くんと桜小路くん。


ドラマCDのコンセプトは幼馴染のツンデレ男子とクラスで人気な爽やかな王子様系男子二人に言い寄られるというもの。


幼馴染役は高宮くんでクラスの人気者の男子は桜小路くんが演じる。


時間の都合上、販売するドラマCDは一枚だけ。


綾ちゃんの同人誌と並べてコミケで販売するのだ。


今日も部活だ。


早く来すぎたかな?


「おはよう!」


あ・・・


高宮くんだ。


高宮くんは机に突っ伏し、雑誌を枕にして眠っていた。


寝てる・・・。


寝顔、可愛いなぁ。


私は高宮くんの真正面の席に座る。


気持ち良さそうに寝てるし、部長である綾ちゃんが来るまで寝かせておいてあげよう。


あぁ、好きだなぁ。


寝顔すら愛しく感じちゃう。


よし。


私は恐る恐る高宮くんの髪に触れる。


髪、ちょっとぴょこっとしてる。


寝癖かな?


私は高宮くんの頭を撫でる。


「ん・・・ここは俺に任せて逃げるんだ、お前ら!」


わっ!


ね、寝言!?


高宮くんの寝言ってアニメのキャラの台詞みたい・・・


私はつい笑ってしまう。


すると


「ん・・・」


あっ!起きちゃった。


「ごめん、起こしちゃった?」


「桜木・・・おはよう」


「おはよう」


あ・・・


「高宮くん、ほっぺに雑誌の跡!」


私は高宮くんの頰に触れ、言う。


「桜木、手から良い香りがする」


「あ、制汗剤かも?最近、暑くてすぐ汗かいちゃうからさ」


今日は花の香りのにしたんだっけ。


「好きだな」


「へ?」


「桜木の匂い」


「た、高宮くん。その言い方だと変態っぽく聞こえちゃうよ!?」


「そうか?」


「で、でも!ありがとう」


「ああ」


また不意打ちですごい発言を!


さすが高宮くんというか・・・


「そういえば何の雑誌読んでたの?」


「ん?声優雑誌だ」


「高宮くん、声優志望だから読んでるんだね」


「ああ。俺の一番好きな声優が巻頭特集だったから」


「宮森真琴?あ、人気な声優さんだよね。乙女ゲームとかにもよく出てる」


「ああ、ライアスのカイトの声優だしな」


「そうだったね」


「そうだ。桜木・・・」


「ん?」


「今度の日曜、空いてるか?」


「へ?あ、空いてるけど」


「じゃあ、一緒に出かけよう」


「えっ!?ひ、姫島くんと綾ちゃんも誘う?」


「いや、二人で。桜木にしか頼めないし」


「ふ、二人・・・」


「宜しくな」


これってデートの誘い!?


期待しても良いのかな?


やばい、にやけが止まらない。


高宮くんから誘われたーっ!!


「はよーっす」


「ごめんね、ユイユイと鬼島先生とずっと話してたー」


姫島くんと綾ちゃんが来た。


「お、おはよう」


「あら?みっちゃん、顔赤いわよ?」


「へ!?」


「桜木、熱中症かー?」


「ち、違うよ!大丈夫!」


顔に出てるんだ、私・・・


「てか、陸斗。寝癖」


「ん?」


「ったく。女にモテねぇぞ?だらしない男は」


「桜木、そうなのか!?」


「えっ?あっ、でも普段しっかりしてそうな人が寝癖ついてると萌えるかな。可愛いよね」


「桜木が萌えるなら良い」


「おい、陸斗。桜木は普段しっかりしてそうな人って言ったぞ?」


「結斗、俺はしっかりしている」


「どこがだよ!?」


私は高宮くんの寝癖可愛いと思うんだけどな。


「さて、ユイユイ、みっちゃん。シナリオ作成も山場よ。作業開始しましょう」


「へいへい」


シナリオ、今日で完成しそうだなぁ。


「明後日、スタジオ借りてるからみゃーちゃんと陸斗は収録ね。みゃーちゃんに話はつけてあるから」


「完成までもうすぐだね!綾ちゃん」


「そうね。このドラマCDが売れたら冬コミはもっと出す商品増やしてみないとね」


「この作業が終わっても、学園祭と冬コミの作業があるから大変だよな」


「でも、楽しいでしょ?皆で商品作るの」


「まあな。学園祭にはラノベ発売できるんだよな。今から楽しみだぜ」


結構作業たくさんあるんだよね。


私はコンテスト用のネームもあるし、夏は戦いだなぁ。


でも


楽しいんだ、頑張るの。


「良いな、桜木達は」


「あら、陸斗どうしたの?」


「実際、声優として活動するのは初めてだから自信が無い。演技は学芸会の劇でしか経験無いし。一応家では声優のレッスンDVDでトレーニングしたりはしてるが」


そっか。


高宮くんは私や綾ちゃんみたいに誰かから評価を貰う機会が今迄無かったんだ。


「結斗も最近、ラノベサイトに上げて評価貰ってんだろ?俺は心配だ。周りが俺のドラマCDを気に入るか」


「陸斗、大丈夫よ。あたしは陸斗だから部に誘ったの。陸斗、失敗を恐れちゃだめ。あたしだってコミケに最初に出した同人誌、全然売れなかったし。今は陸斗は全力を出せば良いわ。ちゃんとあたしも陸斗が上手くできなかったらできるよう指導するから!声優クラスタのあたしに任せなさい」


「綾斗、頼もしい」


「ふふっ。部長だからね」


「俺、桜小路くんと一緒に頑張る!」


「ええ。頑張りなさい!」


でも


高宮くん、才能あるよね?


高宮くんってたまに演技の練習してるけど、結構役分け上手いよね。


家でたくさんトレーニングしているわけだよ。


「ここの郁人のセリフ、もっと長くしようぜ?インパクトにかける」


「そうね。もっと甘さも入れたいわね」


「いきなり後ろから抱きしめるとか?」


「ナイス!みっちゃん!」


コミケでたくさん売れるよう皆で頑張って素晴らしい作品を作るんだ。



「はい、今回はこの原稿で行きましょう。今迄お疲れ様でした」


「は、はい!ありがとうございます!」


部活が終わると、私は編集部へ。


ついにコンテストに出す原稿が決まったー!!


どうか大賞とれますように!!


部活も漫画も絶好調だ!


日曜日は高宮くんとデートだし。


ぜーんぶ頑張っちゃうよ!!



「わあ・・・」


ここがスタジオ!?


シナリオが完成して数日、私達創作研究部員と桜小路くんはスタジオで収録をする事に。


そして


今日は優里香ちゃんもいる。


「何で冴島もいるんだよ?」


「蜜葉ちゃんに呼ばれたの!さ、桜小路の演技見てやりたいし」


本当に声優さんが使ってるスタジオなんだなぁ、ここ。


ん?


「このマイク、モアイ像見たいだな。こ、これに愛を囁くのか!?」


桜小路くんはマイクを見てびっくりする。


マイクは確かに人の顔の形をしている。


「ダミーヘッドマイクよ。このマイクで収録をすると、CDをヘッドフォンに聞いた時に本当に囁かれてるみたいに感じるのよ!」


「これが噂のダミーヘッドマイク・・・」


高宮くんは声優志望だからか知っていたみたい。


「このマイクは美少女、このマイクは美少女・・・」


桜小路くんはぶつぶつとマイクを見ながら呟いてる。


「さ、収録始めるわよ!」


綾ちゃんが言うと、2人はスタジオ入りした。


「なぁ、お前ってさ・・・西園寺が好きなのか?お前はただの幼馴染みだと思ってるかもしれないけど、俺は・・・」


わ・・・


いざ演技に入ると、高宮くんはいつもと違った姿を見せた。


いつもぼんやりしている高宮くん。


今は堂々としている。


本当に幼馴染みに対して素直になれない幼馴染み男子になりきってる。


やっぱり、高宮くんってすごい。


「悪いけど、抜け駆けはさせないよ?高村」


「っ!西園寺!」


「彼女は僕のものなんだから、さ。いい加減諦めなよ?」


桜小路くんもすごい!


「ね、僕を選んでよ?僕は君が欲しい」


「西園寺、お前・・・!」


すごいな、2人とも。


本当の声優さんみたい。


てか、高宮くんの台詞にいちいちドキドキして耳がとろけそう!


「はい!一旦休憩ね!おつー、2人とも!」


一時間くらいすると、綾ちゃんが言った。


「って!みっちゃんとゆーちゃん大丈夫!?しゃがみこんじゃって!」


「私達には刺激が、ね」


「蜜葉ちゃん、あたしヘッドホンでこの音声聞いたら息できなくなりそう!」


「うん!本当それ!」


「あんた達・・・」


「桜小路かっこよすぎてもう無理」


「高宮くんがイケボすぎて辛いなぁ」


「ちっ」


姫島くん?


なんか今舌打ちしたような?


「高宮、まさか貴様がここまでやるとはな」


「桜小路くんこそ。声優になれちゃうよ」


本当にすごいなぁ、2人は。


やっぱり高宮くんは声優の才能あるよね。


「はい、お疲れ様!これで収録は終わりね」


収録は夕方までかかった。


「綾斗」


「ん?」


「これで良かったのかな。やっぱりもう一度録り直すべきだ」


「陸斗。たくさんやり直したでしょ?もっと自分に自信を持って」


「心配なんだ。ちゃんと声優の仕事やるのは初めてだったから」


「大丈夫。散々色々な声優のドラマCDを聞いてきたあたしが認めてるんだから!気にしすぎないで、陸斗」


「あ、ああ・・・」


高宮くん、不安なんだな。


確かに私も初めて編集部に持ち込む時、かなり怖かった。


自分の描いた漫画を認めてもらいたいから。


でも


大丈夫だよね、きっと。


皆で頑張って作った作品だもん。


高宮くんも桜小路くんも本当に声優さんみたいにドキドキさせる演技してたし。


たくさんの人に手に取って貰えると良いなぁ。



「・・・握手会?」


日曜日になると、私は高宮くんとアニメグッズ専門店の前にいた。


「ああ。大人気声優、宮森真琴の。写真集か関連グッズ買えば、握手できるらしくて。でも、俺は男だ。浮いちゃう気がしてよ。握手会参加すんの女子ばっかで。だから、桜木誘った」


デートというわけじゃなかった!


「ライアスのパイロットであるカイトの声優さんだもんね」


「声優だけでなく歌手としてライブもやっていて、とにかくかっこいいんだ」


確かにアイドルみたいなルックスの声優さんとして有名だったよね。


「グッズと写真集買ったし、一緒に参加しよう!桜木」


「う、うん!」


なんか私までドキドキしてきたなぁ。


「きゃあああ!ありがとうございますぅ!」


宮森さんと握手した女子は皆、黄色い声を上げてる。


すごい。


かなりドキドキしてきた!


だけど


あっという間に高宮くんの番に。


「こんにちはー!あ、男の子だ」


宮森さんは背が高くて細く、茶色いパーマがかった髪が似合う美青年だ。


少女漫画に出てきそうな人だなぁ。


「は、初めまして!俺、いつも宮森さんのアニメ見てます!大好きです!」


握手するなり高宮くんは興奮気味に話した。


「ありがとう、嬉しいな」


「俺、ライアスで宮森さん知って。宮森さんに憧れて声優を目指しています!」


「そっか。君は綺麗な瞳をしているね。頑張ってね。僕は君と共演出来る日が来るのを楽しみに待っているよ」


宮森さんは爽やかに笑って言った。


ま、眩しい!


「はい!絶対声優になります!」


「うん」


高宮くん、本当に嬉しそう。


「あの、私も宮森さんいつも応援しています」


私も宮森さんと握手する。


「ありがとうね。君・・・可愛い彼女さんがいるんだね」


へ!?


か、彼女!?


「はい、次!」


あ・・・


スタッフさんに押され、私達はその場を離れる事に。


だけど


宮森さんは私達に向かって手を振ってくれた。


「桜木、俺・・・絶対あの場所に行く」


「へ?た、高宮くん?」


「宮森さんみたいに握手会開くぐらいすごい声優になるんだ」


「が、頑張ってね」


「ああ」


高宮くんの夢、叶うと良いなぁ。


この間はドラマCDでちゃんとかっこよく演じられているのか自信無いって悩んでたけど、今は瞳が輝いている。


高宮くんならきっと宮森さんクラスの声優になれるよね。


「今日は付き合ってくれてありがとうな、桜木」


「そんな!気にしないで!宮森さんかっこ良かったね」


「ああ。ときめいた」


「と、ときめいたんだ」


「本当はずっとへこんでた。ドラマCDの収録ん時もあれで良かったのか全然分からなくて。家だと父さんに勉強できるのに声優を目指すのはバカだってしょっちゅう言われて。やりたいと向いてるって違うだろ?だから、不安だらけなんだ」


「高宮くん・・・」


「でも、宮森さんの言葉に救われた。俺、諦めたくないんだ。この夢だけは」


「私も同じだよ、高宮くん」


「えっ?」


「いつも不安なの。このまま連載できないままずるずる持ち込み続けるのかなぁとか私の漫画、雑誌に載ったら皆面白いって思ってくれるのかなぁって。評価が無いと全然分からなくて怖いんだ。でもね、大好きだからやめられない。恐れてちゃ何も始まらないんだよね」


「桜木・・・」


「一緒に頑張ろうね、高宮くん」


「ああ。そうだな、恐れてちゃだめなんだ。それは夢だけじゃない・・・」


「高宮くん?」


「今日のお礼にパフェ奢る、桜木」


「えっ?気にしないで良いのに」


「良いから」


高宮くんの事もそうだ。


舞香さんの事気にしないでガンガン行かなきゃ。


その後、私と高宮くんはカフェでパフェを食べながら、ライアスと宮森さんの話をして帰った。


楽しかったけど、デートって雰囲気にはならなかったなぁ。


やっぱり高宮くんにより近付くには一番高宮くんに近い人に相談すべきかな。


姫島くんに・・・。



「おはよう!」


「桜木!!」


「わっ!姫島くん!」


翌日、部室に行くと姫島くんがいきなり私の前に立ちはだかった。


「頼む!暫くうちに泊まりに来てくれないか?」


「えぇっ!?」


「桜木にしか頼めないんだよ、こんな事」


「ひ、姫島くん?」


「俺んちにいるのは3日間だけで良いから・・・頼むよ、桜木」


姫島くんは私の手を取り、言った。


姫島くんちにお泊まり!?


一体どういう事!?


「俺は桜木が良いんだよ・・・」


ひ、姫島くん!?










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