小夏語爺強盗(こなつかたり じじいのごうとう)

若狭屋 真夏(九代目)

第1話 若狭屋 小夏

寄席がある。寄席というものを知らない人は想像していただきたい。客席があり、そこにお客様がいる。ものを食べてる人あり、おしゃべりしている人がいる。

そして舞台がある。ブザーがなりやがて周囲は暗くなる。

 「ボっ」とスポットライトが舞台にあたる。

舞台の上には赤いじゅうたんがひかれ中央に分厚い座布団が引かれている。

やがて三味線、太鼓。笛の音が聞こえる。

流れている曲は「こんぴらふねふね」である。

曲が流れてからしばらくして、若い和服姿の男が登場する。拍手が少し聞こえる。

夏らしく紬(つむぎ)を着て紋付を羽織っている。

紋は「丸に立ちオモダカ」男は20代前半で茶髪である。

男は座布団に正座し扇子を手前において頭を下げる。


「本日もお熱いところお越しいただきありがとうございます。はじめてあたしの顔を見た方もいらっしゃると思いますが、実は今日高座に上がるの初めてなんです。

わかさや こなつと申します。はっきしいってお客様今日聞いたこと全部忘れても結構です。こなつって名前と、このどこにでもあるふつーの顔を覚えていってくださいな。あたしの師匠はわかさや まなつって人でして、昔でいう「戯作者」、小説家みたいなことをしておりまして、まあ「売れないって」のが付きますが。今日も暑いってんで一向に小説を書きたがらない。

まあ、夏になったら暑くなるってのは至極当たり前ですが、「まなつ」って名前なのに夏が大の苦手。今日も暑いってんで、塩かけられたナメクジみたいにぐだーって、してまいまして、だから師匠に言ってやりましたよ。名前を「若狭屋真夏嫌い」にしたほうがいいんじゃないかって。そしたら師匠は「ツイッターのプロフィールのハンドルネームの文字数が制限があってそれじゃ文字がおおくなっちまう」って。若 狭 屋 真 夏 嫌 い。7文字じゃないですか。っていうと「いや。わかさって文字を読める人がなかなかいない。それでわざわざ隣にローマ字で書いてある。だから嫌いをいれると足りない」

まあ、そもそもなんで若狭屋なんかにしたのか、弟子のあたしにはわかりませんが。。その師匠、最近は「老眼予備軍」っていわれちまってしょぼくれてますな。「老眼」

いやな言葉だねぇ。だけどあたしゃ老眼なんかになりませんよ。なんでかって、そりゃ小説の中にだけしか存在しないから。。そこの「アハハって笑ってビール飲んでるお父さん、」あんたもそうですよ。

「お察しのよろしいお客様はもうお分かりだと思いますが、あたし「わかさや こなつ」が今回の小説のナレーター。語りを務めさせていただきます。某国民放送局の有働さん程うまく勤まるますかわかりませんが、なにとぞ最後までお付き合いよろしくお願いいたします。」小夏はゆっくりと紋付を脱いだ。

老眼、老眼なんて言ってきましたが人間必ず老います。いや人間だけじゃない。動物植物、星だって、いや星は消滅か。まあとりあえず一度はあの世ってとこに行かなきゃいけない。「正月は 冥土の旅の 一周忌 めでたくもあり めでたくもなし」って一休さんの歌がありますが、まあお若い方も必ず年寄りになる。

老人になるとやることがない。仕事はリタイアしておりますし、体は弱ってますから若いころの様には働けない。そうすると年金しか頼るものはありませんな。年金って言ったって月7万弱。家賃なんか取られたら、2万しか残らない。

まあそうすると「お金もない」ってことになります。

「退職金があるじゃないか」ってゆう方もいらっしゃいますが若いころ「やくざな」仕事をしていた身にはそんなものありませんから、首が回らないってことになる。

そんなやくざな爺三人の物語であります。

小夏はゆっくりと頭を下げる。



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