第41話 それぞれの結末

「杉江、本当に行くのか?」


「そうだね。このままって訳には行かないと

思うし。」


「確かにずっとこのまま、ってことはダメだ

ろうけど。でもね、長いんだよ、何十億年も

ってのはね。少しくらいの余興はあってもい

いんじゃないかと思うんだ。」


さん、あなたはどう思っている

んですか?」


「我はどうも思わん。全ての力が使えるので

ない限り意味はない、と感じてはいるがな。

確かに、その者の言うように余興としては少

し面白かったが。そこでだ。どうだろう、我

の好きな時にこの者の身体と入れ替わること

ができるようにする、というのは。」


「それはダメです。どんな影響が出るのか想

像すらできませんから。」


「そうか。まあ仕方あるまい。すぐにでも行

くがよいわ。」


「待ってください。一つ、試みてほしいこと

があります。七野修太郎という人間ですが、

彼は我があるじの身体の中に入り込んですら精神

が崩壊していない極めて稀な存在です。それ

だったら例えば我があるじが彼の意識を通じてこ

の世界に干渉できるのではないでしょうか。

もちろん、見聞きするだけですが。」


「それは本人次第で可能かもしれませんが、

とても彼が了承すると思えません。」


「いや、あやつは人間としては相当変わって

いるぞ。もしかしたらすんなり了承するやも

知れん。そっちは我に任せてもらおうか。」


「脅したり強制したらだめですよ。ちゃんと

判りますからね。」


「判っておる。くどくどと言ってないでお前

は自分のやるべきことをやればよいのだ。い

かがでしょう、我があるじよ。」


「我にはどうでもよいことだ。好きにすれば

よい。」


 杉江統一はベテルギウスに飛び、

は玉座へと向かった。



「ナイ君、放置プレイが過ぎるよ~。忘れら

れたのかと思って焦ったじゃないか。」


「我も色々と忙しいのだ。まあ事態は収拾に

向かって居るので安心しろ。ちゃんと元の身

体に戻れる筈だ。そこで、相談なのだが。」


「何、何、相談なんて怖いじゃない。危険な

ことは嫌だよ。」


「危険なことは何もない。今お前の身体に入

っているのは我があるじである様なの

だが、悠久の昔よりこの玉座に幽閉されて久

しいのだ。今回のことで少し自身で動く機会

があったのは、稀有なことだ。またここに戻

ってしまうと、今のままではこの宇宙が崩壊

するまで幽閉されたままになる。我があるじはそ

れでもいい、と仰っているが我としては忍び

ない。今回お前の身体と交換されたことによ

って多分回路が繋がった状態を保つことがで

きると思われる。」


「なんか難しい話だね。それで?」


「お前は何もする必要はない。ただ我があるじ

お前の目を通じて地球の様子を見ることが可

能なのではないか、と思っておるのだ。それ

にはお前の承諾が必要だ。」


「そんなことができるんだ。でも、僕の私生

活が丸見えってことでしょ?」


「まあ、そうなるな。」


「それは困るよ。一人で○○も出来なくなる

じゃん。」


「なんだ、その○○というのは。」


「まあ、それは、アレですよ。言わせないで

よ。それに将来結婚とかしても、全部筒抜け

になるんでしょ?それはちょっとさすがにダ

メだなぁ。」


「では、お前の方で都合の悪い時はオフがで

きるようにすればどうだ?」


「う~ん。それならいいかぁ。」


 七野修太郎という人間はどうも何事にも動

じずあまり気にしないらしい。人間としては

行き過ぎではあるかもしれないが。


「わかった。さんもずっとここに

閉じ込められているのは辛いよね。僕も本当

に辛かったんだから。いいよ、オフにできる

ようにしておいてね。」


 あっさりと修太郎は了承してしまった。深

くは考えない質なのだ。



「マリアさんのことをどうするか、というの

が問題ですね。財団の存在意義すら

脅かしかねない行為です。」


「そうなるね。私も財団とは少し距離を置く

必要を感じ始めていたところなんだ。ただ、

組織として利用できるところはあるし、活動

資金的にも頼らざるを得ないからね。」


「少なくとも彼女をこのままにしておくこと

は危険です。自分の果てしない上昇志向の所

為で危うく地球を破滅させるところだったの

ですから。」


「わかった。私の方から財団の理事長に事態

を報告してかけあってみよう。」


「場合によっては私がに引き取って

も構いません。向うでの人材は枯渇していま

すから。有能であることは間違いないですし

ね。」


「そうだな。監視もかねてそうしてもらうこ

とになるかもしれないね。理事長には私も会

ったことがないから、話がどう進むのか想像

できないが、強制的に連れて行ってもらわな

ければならない事態は避けたいものだな。」


「僕はどうすればいいですか?」


「浩太はそのまま留学を続ければいい。知識

を蓄積することは今後特に有効になるだろう

し、いつか私の手伝いをしてもらいたいから

ね。」


「綾野先生は何かお考えなのですか?」


「私は、理事長は話をしたら、財団は辞しよ

うかと思っているんだ。個人で活動できるこ

とはたかが知れているとは思うけど財団に入

ってみると、その資金源が軍需産業であるこ

とがどうしても引っかかってしまうから。あ

る人物から詳しく話も聞いていたしね。」


「フェランさんですか。」


「そう。アンドリュー=フェランさんは一時

財団に所属されていたけど、袂を分かつと仰

って、その後連絡は取れなくなってしまった

んだが。君をに送り込んだのは彼だ

よね。」


「そうです。私の方でも連絡が取れなくなっ

てしまいました。あるいはもう亡くなられた

のかも、と心配しているのですが。」


「その可能性は高いかもしれないね。

で止まっていたとはいえ、もう相当なご高

齢な筈だから。実は彼から託されたこともあ

るんだよ。」


「託されたこと?」


「財団の経営に不信感があったから彼は財団

を去ったんだけど、結局資金面で行き詰って

しまう、と仰ってた。そこである案を私に託

されたんだ。それは実現が本当に難しいこと

だからどこから始めようかと思案していた最

中だったんだ。」


 3人の話は尽きない。



 杉江統一は眠っている旧神の力を借り受け

るためにベテルギウスに向かい、

と七野修太郎の中身を元に戻すことに成功し

た。その際、と協力し

七野修太郎の合意を確認したうえで

が七野修太郎の目を通じて地球を視れる(

あくまで視るだけ)ように調整した。もちろ

んオフ機能付きだ。


 綾野先生は財団理事長(名前は出

せないらしい)に直談判しマリア支部長を

に向かわせることを承諾させた。マリ

ア支部長はマークと一緒にに向かっ

た。マリア支部長本人は全く納得していなか

ったのでほぼ強制的だった。


 綾野先生は財団を結局辞職される

ようだ。資金繰りに奔走しなければ、と仰っ

ていた。アリドリュー=フェランから託され

たヒントはあるらしいがハードルが高い、と

悩まれていた。


 七野修太郎と友人たちは、一応普通の生活

を取り戻したようだ。


 桂田利明はそのまま桂田利明として生きて

いくらしい。彼も稼がないと生活できない、

と愚痴をこぼしていたらしい。普通の職に就

きたいようだが、どうなるものか。


 僕、岡本浩太は大学に戻っ

た。まだまだ吸収しなければならない知識が

膨大にあるのだ。次々に復活しようとする旧

支配者たちに備えなければならない。綾野先

生が何かの組織を立ち上げるのなら、その際

にお役に立ちたい、と漠然と考えていた。



END

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フルートの流れる日常(クトゥルーの復活第5章) 綾野祐介 @yusuke_ayano

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