第16話 日常の展開

「喧嘩したも何も、そもそも本人じゃないん

だから、さっさと元に戻しなさいよ!」


 この娘は万物の王を何だと思っているのだ

ろう。本来の力が戻れば地球など跡形もなく

破壊できるというものを。


「それを今探しているから、その間はなんと

か繋がないと、ってことでしょ。協力してく

れる、って約束じゃなかったの?」


「それはあくまで仕方なしに、って話よ。大

体加奈子の所為じゃないのに、なんか加奈子

が可愛そうだわ。黙ってないで加奈子も何か

言いなさいよ、でないとこいつ付け上がるだ

けだわ。」


 こいつ扱いだと。はこの君塚理

恵という人間が苦手だ。


「わっ、私は特に何も。早く修太郎が戻って

来さえすれば。一日でも早く会いたい。ただ

それだけ。」


「ほらぁ、加奈子が落ち込んじゃってるじゃ

ない。万物の王だかなんだか知らないけど、

ホント役立たずね。」


 万物の王、ということは一応知ってはいる

のだ。それでいて、この扱いなのか。


「元の身体に戻ったら、まっ先にお前を八つ

裂きにしてやろうか。」


「すごんだって駄目よ。元に戻ったって力は

封印されてるんでしょ?杉江さんがそう言っ

てたわ。今すぐっていうなら喧嘩しても私が

勝つわよ。」


 は反論の言葉もなかった。それ

にしても地球の一個人に情報を与え過ぎだっ

た。何を考えているのか、杉江統一という存

在も多少不気味に思えてきた。



 そして、中身が七野修太郎の


「相変わらずフルートが煩いなぁ。ナイ君戻

って来ないしなぁ。加奈子、怒ってるだろう

なぁ。健太や理恵は驚いてるんだろうなぁ。

お腹すいたなぁ。でも時間の感覚がないから

今が何日の何時か判らないなぁ。餓死したり

しないのかなぁ。母さんどうしてるかなぁ。

ここがあの世だったら父さんにも会えるかも

知れないなぁ。そういや、もうすぐテストが

あったなぁ。健太には負けっぱなしだし、次

は頑張ろうと思ってたんだけどなぁ。」


 色々な思いが頭の中をぐるぐると回ってい

る。真っ白な境界も判らない世界。身動きも

できない。そんな中で精神的に崩壊しない人

間は居ない。だが、七野修太郎は大丈夫だっ

た。それこそが、彼が選ばれた要因だったの

だろうか。いずれにしても、打開策は皆無な

のに変わりはなかった。

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