ナイアルラトホテップの影(クトゥルーの復活第3章)

綾野祐介

第1話 プロローグ

 人間の心の奥底にある、未知なる物への恐

怖。人類が思考を始める以前から未来永劫に

続くであろう、この恐怖は一体何処から派生

したものであろうか。

 原始の時代、弱肉であるひ弱な人類が強食

である動物から身を護る術のひとつとして危

険を察知する能力が研ぎ澄まされていった結

果、闇や未知なる物に対しての危機感を持つ

に至ったのであろう。


 そんな人類に対して、遺伝子の中にさえそ

れに対しての恐怖が埋め込まれていると考え

られるものがある。原初の異質な、そう極め

て異質であり、混沌であり、全く以って相容

れない存在である神々(それを神々と呼ぶの

は他に呼びようが無いからである。)の存在

がそれだ。


 それらの神々はあまりにも強大な力を有す

るため自分以外の存在を許さない。自分以外

の総てのものを滅ぼそうとした。そして、そ

れを止めようとする神々も存在する。


 同じ神々と呼んでいいのかは、よく判らな

い。そして、総てを滅ぼそうとする側とそれ

を阻止しようとする側との長い長い戦いがあ

った。


 その戦いが前者の勝利に終っていたのなら

今の人類はおろか地球そのものの存在さえも

消滅していた筈である。幸いにして永劫に続

くかに見えた戦いは後者の勝利に終わり、前

者のものたちは様々な場所、空間、次元に封

印されたのだった。


 なぜ総ての存在に対して危険極まりないよ

うな神々を消滅させるのではなく、ただ封印

するに留めたのだろうか。それは封印した側

の神々にとっては消滅させようとした神々の

存在さえも、愛すべき、そしてその存在を許

すべきものであったのかも知れない。


 封印されしもの、封印をなしたもの、そし

て封印されるほどの力は有していなかった故

に封印を免れたもの。封印されたものはその

限定された力の及ぶ限り自らの封印を解く術

を探している。ある時は封印を免れた眷属を

使い、あるときは更に下等な存在であった人

間に影響を与えながら。


 それらの様々な営みの中で、唯一封印され

るべき力を有しながら封印されなかった存在

がある。それは総てを滅ぼそうとした陣営に

組してはいたが、その中でも異端の存在であ

った、ナイアルラトホテップである。

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