コラム 3 「旅のBGM」

 単車で走っていると、勝手に曲が脳内再生されます。本州南下中に何度も再生されたのがエレファントカシマシさんの「孤独な旅人」でした。

北海道で一人になり、道中いろんな方とお話はしましたが、基本的には一人でした。まさに孤独な旅人だったのです。一日中ヘルメットをかぶって走ると、ヘルメットの中で音楽が流れるのです、もちろん物理的に鳴るわけじゃないですよ。走っている気分、目に見える景色、そして風の匂いが勝手に曲を自分の記憶から選んでそれをかけまくってくれるのです。

 出発の時(第一章)は友人らとカラオケでよく歌っていた奥田民生さんの「イージ(ュ)ー☆ライダー」でした。当時の流行歌ですね、この年(平成8年)のリリースだったと思います。最初は意気揚々、未知なる向こうへさあ行くぞってな感じでした。北海道(第二章)はベタですが松山千春さんの「大空と大地の中で」で、そして本州南下の第三章が「孤独な旅人」でした。


 当時はこの歌のタイトルは恥ずかしながら知りませんでした、メディアの情報を得る手段がなかったので。

 ではなぜ知ったかと言いますと、旅を始めて2週間。ヘルメットの中のスピーカーはネタ枯れでかける曲がなく本当の孤独になりかけていた頃でした確かに本州南下は孤独でした。ヘタすれば一日誰とも会話をしないと思うくらい。

 しかし一人でも必ず立ち寄って話しをするところがあります。ガソリンスタンドです。当時はセルフのスタンドなんて滅多に見られませんでしたから一日に一回は間違いなく寄ります。そこで給水や用便をして休憩所で少しでも涼んでおきます。この時スタンドで流れていたのが「孤独な旅人」だったのです。これもこの年の夏に発表された曲なんですね。


 まさに当時の自分を表していたような曲です。これが一回だけでなく、次のスタンドでも、立ち寄った食堂だったかSAだったかでも聞きました。以来ヘルメットの中ではこの歌のヘビーローテーションです。今でも聞くと当時を思い出します。もちろん、旅が終わったあとにCDを買っちゃいました。


 旅をするにあたり「イージ(ュ)ー☆ライダー」の歌詞で

  

   名曲をテープに吹き込んで 

   あの向こうのもっと向こうへ


とあるようにお気に入りの歌を持っていくことを考えたのですが、走りながら音楽を聴くのは知らない道ではやっぱり危険と判断してやめにしたのですが、それが転じていい曲にめぐり合うことが出来ました。

 「孤独な旅人」の歌詞の最初は章の頭に紹介したとおりですが、最後はこう結ばれています。個人的に当時の辛かった半分、楽しかった半分の記憶がダブる名曲です。


   夏の風に誘われて行こう

   すばらしい旅に出よう

   愛を探しに行こう

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