ひだまりの家

もげら

第1話

田園風景と線路と小さな駅。こんな田舎では異様にも見えるような綺麗な大学の校舎が少し遠くに見える。

そんな記憶の中の景色に、古くて大きい家がある。


小さい頃、その家に両親に連れられてよく遊びに行った。

部屋がいっぱいあって、沢山の大学生の人たちが出入りする、

あの頃の自分には少し不思議にも見えた古く大きな家。

ここは父さんの友人一家が昔から自宅の空き部屋を学生に下宿として貸しており、自分も大学進学を機にここに転がり込んだのだということをそれなりに理解できるようになってから聞かされた。

そして父さんと母さんはここで出会ったのだと、両親が懐かしそうにニコニコしながら語っていた、そんな家。




その景色の中にはいつも男の子と女の子の双子の兄妹がいた。

今もまだここに住んでいるという両親の友人の子供なのだが、

顔も性別も違うのに自分たちは双子なのだと言い張る、自分と同い年のその兄妹を最初は不思議に思った。が、子供の単純さなのだろうか、すぐに自然と打ち解けたのを覚えてる。

ちなみに二卵性という言葉を知ったのも、もう少し大人になってからだった。



あと覚えているのはいつも楽しかったこと。

何をして、何を話して、なんて細かい所はさすがに全部を覚えてる訳じゃないけど、遊びに行った時は三人で朝から晩までケラケラ笑いながら遊んで、夜は自分の両親と友人一家、下宿している学生のみんなとのどんちゃん騒ぎに巻き込まれて、ずっと賑やかで騒がしいのがお決まりだった。

その分帰りの別れは毎回寂しかったけど、そう思えるまで仲の良い友達がいるってことが本当に嬉しいと子供ながらに感じたこともぼんやり覚えてる。




 その記憶も思い出も増えなくなったのは俺が小学三年生になる頃から。


元々車で片道3、4時間かかるほどではあったのだが、俺は父さんの転勤でもっと遠い街へ引っ越してしまうことになり、

それでも父さんは「なんもいくらでも走って行ってやるさ」なんて言っていたのを頼もしく思った。



そうして引っ越しも落ち着いた頃、ある日珍しく両親が悲痛な表情を浮かべながら涙を流している、そんなことがあった。

いつも笑っていた両親のそんな顔を見た事がなかった俺は戸惑う事しかできず、

そんな俺に気付いた二人は「大丈夫だ、びっくりさせてごめんな」と

いつもの笑顔に戻って笑いかけてくれたので、単純だった俺は理由も追及することもなくその場は終わったのだが。


そんな一件の理由も知らずに、単純で更にやんちゃ盛りだった俺は、またあの家に遊びに行きたいと何度も駄々をこねた事もあった。

その度に父さんは少し困った顔で「忙しくてもうしばらく行けないんだ、ごめんな」としか言わず、俺は毎回ふてくされていたのだが、

俺自身も初めての転校で戸惑いもあったし、慣れない環境と日々に必死で、少しずつ時間は過ぎ、少しずつ歳をとる毎に忙しくなるもんで、薄情だと言われるかもしれないが、小さい頃の記憶は少しづつ薄れていっていた。







――そうして高校生になり、進路を本格的に考え始めた頃、

俺は小さい時の、小さい約束を思い出す。



いつも頭の中にはあったけど、いつの間にか隅っこに置かれていた言葉。

小さい子供の戯言でしかないような、約束にもならないようないつかの約束。





『大人になったら、ぜったい3人でこの家に住もうね』





今更信じるのも叶えようとするのもバカだと言われるようなそんな約束に


たったそれだけのことでバカみたいに単純に


なぜだか俺は、突き動かされてしまったのである。


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