三日目 猫は興味深そうに、にゃーと鳴いた。
『ここまでは順調だったのだけれどもね』
フランが眉をひそめて端末に映し出されている戦場の様子を見ている。その表情は浮かない。
『それだけ戦力を分散させていたということなのだろうけど、ここまで酷いとはね。一体、何があったのやら』
ミケもモニタに映し出されている映像を確認しながらそう呟いた。そこに映し出されているのは壊滅している
そして彼らが現在向かっているのはコンロンコロニーというユーラシア大陸内にあるコロニーのひとつである。それは数ある
コンロンコロニーの
しかし、どうであれミケはコンロンコロニーにここまでのことをなせる戦力があるとは聞いていなかった。
『ともかく
『ひとまずはそれでやるしかないかな。大一番の前にあまり消費もしたくないしね』
キベルテネス級兵器用兵装の規格にあった補給物資は、彼らが出立した太平洋のゼダン島基地と、これから向かう先にある大西洋のゾロア海底基地にしか現時点では存在していない。
彼らはもうゼダン島基地に戻ることはないし、ゾロア海底基地までは補給を受けることもできない。そのため小型アイテール変換炉より出力されたアイテール粒子のみで使用可能な光学兵器等に限定した兵装をメインに戦術を組み立てて進める方針を彼らは取っていた。そしてB1兵装許可とはアイテール粒子のみで稼働できる兵装のすべての使用許可を示している。
『それじゃあ、ここの地点で降ろしてくれれば良いわ』
フランが現在地の示された地図を見てそこに付けたチェックポイントをミケの方にも転送させてからそう告げた。そこは山脈の一角。吹雪が舞い、とても人がいるとは思えない場所であった。『ビースト』は指定された場所へとたどり着くと、腹部に接続していた指揮車両をゆっくりとその場に降ろした。その中に乗っているのは飼い主のフランとサイバネアーミー二体のみである。
『気付かれてはいないようだが、十分に気をつけてくれよフラン』
ミケの言葉に指揮車両からチカチカと光が見えると、そのまま表面に光学迷彩を発生させて姿を完全に隠した。その隠密性はかなりのものだが、このまま『ビースト』が戦闘を開始すれば、その進路をたどって敵がここまでたどり着く可能性もゼロではない。
果たして自分がコロニーを落とすまでに気付かれないでいられるかどうか……それだけがミケには気懸かりではあった。もっとも、この場に留まっていても懸念材料が増えるだけ。そうミケは己を納得させると、すぐさまコンロンコロニーへと進路を取ってその場から飛び去っていった。
『さてと、とりあえずはセオリー通りに完全制圧と行くかな』
そしてミケはコンロンコロニーの情報を再度確認しながら『ビースト』を通常から戦闘状態へと移行させながら戦域へと突入していく。
『なるほどね。あのサイタマよりは確かな戦力があるようだね』
東洋の田舎要塞とは違い、さすがにコロニーを守るために置かれた防御ラインは固そうだと考えたミケは、ひとまずは低空飛行を維持しながら拡散レーザーを使って配置された砲台や戦車を次々と焼き払っていく。銃撃が雨あられと『ビースト』を襲うが、多層ディストーションフィルターの防御は圧倒的で、やはりそれは機体にまで届かない。また敵の戦力の中に戦闘機の類がないのは何故だろうかとミケは思ってもいたのだが、その答えはすぐに判明することになる。
『情報にあった機動兵器だな』
『こちらも『ドラゴン』を出せ』
『同じ性能の機体ならば数が多い方が勝つ』
スピーカーからは『ビースト』が有用と判断した音声が流れてくる。どうやら『ドラゴン』という兵器が投入されるようである。しかしミケはその存在を知らないし、データベースにも登録されていないようだった。しかし相手の言う同じ性能という言葉にミケの警戒心は急速に上昇していく。その言葉が事実であれば、ここから先の作戦行動そのものが危ぶまれる。とは言っても現状の行動を変えるにはまだ判断材料は足りない。ミケがひとまずは地上戦力への攻撃をそのまま継続しているとコンロンコロニー側から無数の航空戦力の姿が見えてきた。
『空を飛んでいる……あれは機動兵器?』
目を細めてミケはソレを目視する。
その形状は翼を持ったトカゲのようであり、測定された情報によれば恐らくは『ドラゴン』と呼称されているであろうその兵器は、『ビースト』同様のディストーションフィルターを展開しているという結果が出てきた。つまりそれは条約を無視した
『けれど展開されているフィルターは一層。炉の出力の問題かな』
ミケはそう呟きながら、『ビースト』を急加速させて『ドラゴン』に近付くとフィルター同士を接触させることでフィルターの中和を行う。
『やはり層だけでなく、出力自体も弱いみたいだね』
その行動により『ドラゴン』のディストーションフィルターは消滅したが、『ビースト』のディストーションフィルターは一層ですら消滅してはいない。確かに先ほどの敵の言葉通りに同じ性能と言っても間違いではない相手だが、その出力の差はいかんともし難いものがあるようだった。そのことに拍子抜けしたミケは、そのまま丸裸となった『ドラゴン』にアイテール粒子を帯びさせた前足のクローを貫かせて破壊する。
同時に『ドラゴン』のフィルター出力も『ビースト』は測定を完了し、それを元に各種兵装の出力比を変更していった。さすがに拡散レーザーでは一発で破るのは難しいようだが、B1兵装許可が降りているためにそれらを纏めた集束レーザーによってフィルターを貫通させることは可能である。そうなると、もうそこから先は『ビースト』の独壇場であった。
その『ドラゴン』という兵器は要するにキベルテネスのまがい物のようであったが小型アイテール変換炉を搭載していないために出力の壁を超えることができていない『ビースト』よりも遥かに劣る兵器だ。ミケは現れるドラゴンを集束レーザーで一機ずつ確実に破壊していくことでそれを証明していく。
コロニーに近付くとスピーカーからは共用語である
『コロニー内から高出力のアイテール粒子反応? なるほど、そういうことか』
ミケはモニタに表示されるコロニー内部からのアイテール粒子の観測データを見て先ほどの『ドラゴン』がどういったモノなのかを理解した。『ドラゴン』の内部にあった動力は通常のものでアイテール粒子へと変換できるものではなかったため、アイテール粒子をカートリッジ式にして詰め込んだ使いきりのものだったのだろうと予測はしていたのだが、その詰め込んだアイテール粒子をどこで出力していたかが不明だった。そして、アイテール粒子を詰め込ませた存在がどうやらコロニーにはいるようだった。
『まさか、ここで同型機と戦うことになるとはね』
コンロンコロニーの球体の天井が左右に開かれていく。そこからまるで東洋竜の如き姿の機械がゆっくりと出てきた。
それはキベルテネス級竜型兵器『ファンロン』。ミケの駆る『ビースト』とは違い、大戦中に大破したため廃棄されたとレポートにはあった機体である。そしてその情報の正しさを示すかのように『ファンロン』の身体はつぎはぎだらけの歪な形をしていた。
『あれでまだ動くことができる方が驚異に見えるけど、まあ油断はできないか』
ミケは感心しながら『ビースト』を『ファンロン』へと突撃させる。
対して『ファンロン』もミケと同じようにアイテール粒子によるレーザーで応戦してくるのだが、その出力は『ビースト』のものほど高くはなく、掠めて何層かのフィルターを破壊するも『ビースト』本体へのダメージへは至らなかった。
『油断は大敵。だけど、
そう言いながらミケは『ビースト』を『ファンロン』へと取り憑かせた。同時にスピーカーから奇声が聞こえた。よほど興奮しているらしいとミケは考えながら『ファンロン』のフィルターを中和すると、その内部へと拡散レーザーを放ち機体を破壊していく。
そしてその途中でスピーカーから奇声と銃声が響いた。どうやらコロニー内の司令室からの音声のようで、一体何が起きているのかとミケが言語翻訳をかけてみると敵前逃亡等といった単語が表示されてきた。
どうやら『ビースト』に恐れをなして逃げた兵を上官らしき男が射殺したようである。もはや勝敗の決したこの状況ではそれは間違った判断ではないのではないだろうかとミケは思ったが、どうであれその選択で死んだのであればそれはそれで間違いだったのだろうと考え直す。
それからミケがすでに戦闘不能となった『ファンロン』内部にある小型アイテール変換炉を離れた位置から射撃で破壊すると、爆発が起きて都市の一部が消滅した。それによってコンロンコロニーはコロニーとしての機能に深刻なダメージが与えられたようだがそれはミケの関知するところではないし、例え
そして然るべき処理を終えたミケは機体を翻してコロニーから飛び出し、飼い主の元へと向かったのである。
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