エッセイ、雑文集
まさりん
第1話 スガキヤ
生まれ故郷のジャスコのエスカレーターは建物の中央にあった。イオンとは呼びたくない。あくまでジャスコだ。
一階は化粧品売り場、食料品売り場、靴売り場、ハンバーガーショップ、お茶屋があった。二階は衣料品売り場。らせん状のエスカレーターをのぼりながら、売り場を見る。
三階に辿り着き、エスカレーターを降りると、正面にファストフードがあった。正確に憶えていない。店名すらおぼえていない。ポテトフライが絶品であった。注文を受けてから、ファストフード店とは思えない痩せたおじさんがポテトをカリカリに揚げてくれる。フライヤーは店の正面のカウンターの右側にある。子どもの自分からは、そのカウンターは高い位置にあったような気がする。おじさんの肩から上しか見えなかった。
三階のフロアは中央のエスカレーターから、左右に分かれる。左手にあったのは、おもちゃ売り場、文房具売り場、CDショップ、本屋だった。本屋には、一七五㎝の自分がめいっぱい手を伸ばさなければ届かなかった書架に、実況中継がびっしり詰められていた。それが印象的で、受験期にはよくそこで実況中継を買った。予備校の授業を受けるには、都市部まで通わなければならなかった時代だ。
エスカレーターの右手にはゲームセンターが並んでいた。フロアの壁際には、お菓子のクレーンゲームがあった。そして手前にはいわゆるビデオゲームなどがあった。後にファミコンゲームとなる「スパルタンX」や「ゼビウス」が並んでいて、それをよく見ていた小学生の頃には、中学生や高校生のお兄さんがやっていた。小学生中学年の私は、お金がなくてできなかった。隣には弟がいる。だいたい、母親が二階で服を見たいときには、「弟を見ていろ」と私に指示する。弟は母親といると、甘えてぐずるからだ。私と弟は嬉々として三階のゲームセンターに行く。ただ、母親は私たちにお金を渡すわけではない。だからやがて弟はゲームセンターに飽き、母親がいないことに不安を覚え、泣き出してしまう。二人で、家で留守番をしているときもそうだ。その行動は、かわいい自分をアピールして大人の耳目を引きたいというように私には見えた。彼には彼の言い分があるのだろうが。自分がどうだったかは憶えていない。この記憶も小学生中学年のかろうじて頭に残っている内容であり、その前の記憶はほとんどない。小さい頃も病気がちで、学校に行かず、ずっとベッドにいたような気がする。それくらいの記憶しかない。
「うるせえな」
中学生や高校生の醸し出す空気に押され、私は弟の手を取り、歩き出す。
「アイス食べるか」
私と弟が向かうのは決まって、ジャスコの三階にあったスガキヤだった。生まれ故郷のなかでも、ここのソフトクリームは絶品だった。そのあと、故郷にはもう一件スガキヤができる。けれども、子ども時分に、この店が東海圏発祥だとは知らなかった。
ソフトクリームと並んで、豚骨ラーメンは人気のメニューだった。
ジャスコではないもう一件のスガキヤで中学生のころ、ラーメンを食べているときに、寸胴から出汁を取るための布袋(「ほてい」ではない)を取り出したのを見てしまった。何が入っているかは分からなかったが、なんだか見てはいけないものを見てしまった気分になった。
「鰹節が入ってるよな」
と友人が言った。そのような色のものが入っているのはわかった。そのほかに、魚の頭らしきものが見えた感じがしたが、これは遠い記憶なので、何か他の記憶が入り交じったのだろう。当然、「豚骨」なので、「とんこつ」は入っているに違いない。
今住んでいるのは故郷ではない。
この辺りにスガキヤはない。
リーズナブルな価格と味を求めて中高生はどこにいっているのかといえば、サイゼリヤである。ただ、サイゼリヤは大人も来る場所である。故郷のスガキヤには大人は居なかった気がする。まあ、バブルのころの話なので、大人もリッチだった。今だったら行くのかも知れない。若者の文化とは若者しか行かないところで生まれるものだと思う。そういう若者の文化は衰退しているのだろう。
名古屋のDJの事件を聞いて、こんなことを思い出した。
よくは知らないが、スガキヤのCMを長年担当していたそうだ。そんな話を聞いたら、思い出した。もうたぶん、故郷のスガキヤは消滅しているかもしれない。
ラジオについても思い出したのだが、それはまた今度、書くかもしれない。
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