第13話

それってさ 3


「この、淫乱が…!!」


色々問いただそうと口を開いた瞬間、九条は突然背後にいた不細工を睨みつけ憎々しげな声を発した。俺は口を開けたまま間抜けにも固まる。不細工も驚いているようで、目を丸くして九条を見返した。


「僕の彼氏にまで手を出すとはな、恐れ入ったよ」


「は?」


「お前、僕に振られたからって茶髪のみじゃ飽き足らずこいつにまで手を出すなんて…。そんなにこいつのデカチンが気に入ったのか?」


「おい、なに言ってんだ?」


見当違いなことをいう九条に咄嗟に口を挟むが、九条は不細工から視線を少しも外さない。


「僕の息子はこいつのよりは確かに小さいが、テクニックは絶対僕のがあるだろう」


「あ!?」


「お前の良いところなど目を瞑っていても分かるほど知り尽くしているから、お前も僕とヤった方が気持ち良いだろう?」


は?こいつ、俺に不細工が手を出したっつって怒ってんじゃねえのか。

しかも不名誉すぎる事を言われ、血管が切れそうになる。


「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!!つうかなに堂々と浮気しようとしてんだテメエは!?」


「浮気?それはこいつの方だろう」


「はあ!?」


やはり不細工から目線を外さずにそう答える九条。意味がわかんねえ、こいつなに言ってんだ。


「…あのさ、俺別にこの人とそういう事したことねえけど」


今までぽかんとしながら九条の言葉を聞いてた不細工がやっと口を開いた。そうだよ、俺がなんでこんな野郎を相手にしないといけねえんだ。勃つわけがねえよ。


「本当か?」


「ああ」

「当たり前だっつの!」


「ならば何故僕の誘いを断る?僕の息子が疼いてどうしようもないんだ、破裂したらどうする」


こいつ、俺の誘い2週間も断っといてなにが破裂する、だ。こっちが破裂するわ。

つうか俺って彼氏だよな?フツー彼氏の前で元彼に体の関係迫るか?ありえねえだろ。


「お前とはもう別れた、だからそんな事しない。何回も言ってんだろ」


「そんなの関係ない。僕が入れたいときはすぐに尻を出せと言ったのを忘れたのか?」


あの日「こいつには入れられてない」っつう言葉を「体の関係は持っていない」だと解釈しちまったが、こいつらぜってえヤりまくってたな。

九条がこんなにもしつこくセックスを迫るのは初めて見るし、どんだけタチやりてえんだ。俺に抱かれるのが不満みたいで、なんだか猛烈にイラつく。


好き勝手言っている九条に不快そうな顔をした不細工は、嘲笑うかのように口を歪める。


「そんなの、もう聞く義理ねえよ。俺は元彼。お前にはずっと好きだった愛しの彼氏様がいんだろーが。もう一回頼んでみたらどうだ?入れさせてくれって」


「は?ふざけんな誰が入れさせるか」


この不細工、なんてこと言いやがる。これで九条がその気になって襲ってきたらどうすんだよ!俺は断固として尻は使わねえからな。


九条にも牽制の意味を込めて睨みつけると、俺の睨みを受け止めた後床に視線を落とした。



「…例え君が抱かれてもいいと言って尻を差し出してきても、僕は抱いてやれない」


「…あ?」


「勃たないんだ」



その言葉に、俺も不細工も「なに言ってんだこいつ」みたいな視線を投げかけた。勃たねえっつったら、この不細工にも入れられねえだろ。言ってることが滅茶苦茶すぎる。


「…勃たないなら、病院にいけ」


呆れ返りながら溜息を吐いた不細工は、この話は終わりだと言うように俺らを追い出そうとした。

俺もここへ来たのはこいつが九条になんかしたと思ったからで、こうして実物を見て「EDになったから頭がおかしくなった」だとわかったのでもうここに用はない。さっさと部屋に帰ろう。

こいつにはたっぷりとお仕置きしないといけないしな。ふ。


九条の腕を掴んで玄関に向かおうとするが、足に力を入れたのかビクともしない。


「おい、九条?」




「由木以外に、勃たなくなった」




呆然とする由木をじっと見つめる九条に、俺はさっきから薄々感じていた嫌な予感を今度ははっきりと感じた。


あいつがこの部屋に来てからの独占欲丸出しの発言、そしてこの決定的な対由木以外の勃起不全。




それってさ、お前、こいつのこと好きなんじゃねえの。




喉まで出かかった言葉を、寸でのところで飲み込んだ。




end.

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