第075話:オレたちは楽しく暮らしていた。
「……というわけなんだが」
オレは雪の中でアズを拾ってからのいきさつを簡単に話した。
すると、ミヤは「ふむふむ」と何度も深くうなずく。
「なるほど、なるほど。……座薬挿入プレイですか」
「プレイじゃねー! つーか、なんでそこだけピックアップすんだよ! もっと大事な話があっただろうが!」
「ミヤもさすがに、そのプレイに挑戦する勇気はまだ……もう少し時間をいただかないと……」
「なんの話だ、こんちくしょう!」
横でアズが顔を真っ赤にしてから、顔をテーブルの上に伏して隠してしまう。
座薬の話など具体的にはしていないはずだ。
その部分は、「アズが高熱をだしちゃってさ」「大丈夫だったんですか?」「解熱剤を使ったから」というような軽い説明しかしていなかった。
それなのに、なぜか「座薬」を「オレがいれた」ところまで察していやがった。
ミヤ……恐ろしい子。
「まあ、ともかく。ここは、ドーンとこのミヤにおまかせです! 部屋は余っているから、アズちゃんとアウトさんで一部屋ずつ使ってくださいよ」
そう言いながら、彼女はジャージの下の程よい大きさの胸をポンッと叩いてみせる。
だが、そんなかるく言われても、正直困る。
「いやさ、さすがに独身女性の部屋に泊まるのは……」
「なに言ってるんですかぁ~。ミヤもアズちゃんも、アウトさんの許嫁なんですから、何にも問題ないないナッシングですよぉ!」
「で、でも、あれだぞ……誰かに知られでもしたら、ミヤちゃんに良くない噂が……」
「良くない噂?」
ミヤは「はて?」と言いながら、顎に手を当てて眉を顰める。
「それは……たとえば、ミヤがアウトさんとつきあっているとか?」
「そ、そうそう! 困るだろう? 会社で噂とかになったら」
「う~ん…………別に?」
「へっ?」
オレは少し前のめりにコケてしまう。
「会社で『アウトさんとつきあっている』と噂されて、『嫌か?』と言われたら、別に嫌ではないですね……うん」
「で、でも、ミヤちゃん、男にチヤホヤされるの好きでしょ?」
「それは否定しません。でも、さすがに本命がいたら話は別ですよ」
「ほ、本命!?」
「許嫁なんですから、おかしくないですよね?」
「……もしかして、その許嫁って本気で言ってる?」
「ん? けっこう本気ですけど……」
ミヤはどこまでが本気なのか、よくわからないところがある娘だ。
だけど、もしかしたら言っていることがすべて実は本気なのかも知れない。
「アズも許嫁だから、二股になるよね?」
「なーに言ってるんですか、アウトさん! 2人程度ではハーレムになりませんから、もっと増やさないと!」
「えええええー――っ!?」
「なんていうのか、ハーレムとかって、今時のラノベファンタジーっぽくて憧れてたんですよねぇ~」
「……女の子が憧れるのって、普通は逆ハーレムじゃないの?」
「うーん。まあ、それも悪くないんですけど。ミヤは意外と、ハーレムの女性同士の友情とかにも憧れがあったんですよねぇ」
「…………」
正直、オレにはミヤが計り知れない。
もっとも理解しにくい相手かもしれない。
アズは文化が違うし、まだわかるのだが、普通は自分以外に複数の妻がいるなんて、嫌がるものだと思う。
しかし、ミヤはどう見ても喜んでいる。
(……ここは他に方法もないし……乗っておくか……)
オレは思考を切り替えることにした。
ミヤに助けてもらわないと、どっちにしてもアズをかくまっておくのに非常に困る。
それに一緒に住んでいることも、気をつけてるようにすれば会社にばれないようにできるだろう。
オレの自宅には、友達の家に泊まり込みで仕事の手伝いをするとか言っておけばいい。
だいたい一週間だけの話だ。
別にずっと住むわけではない。
そこまで深く考えることはないのかもしれない。
「……うん、よし。じゃあ、悪いけどしばらくお世話になるよ」
「はいはーい! おまかせください、アウトさん!」
ミヤは、ニコッと笑って返事をする。
アズのような眩しいほどかわいい笑顔というより、もっと親しみのわく沁みるような笑顔だ。
「アズちゃん!」
「はい……」
事の成り行きを静かに見守っていたアズが、ミヤに呼ばれて反応した。
「これからよろしくね! というわけで、まずはお風呂にはいりましょう!」
「お風呂? この家の中にあるんですか?」
「あるよー! せっかくだから超きれいにしよう! そして出てきたら、いろいろな服を着せてあげる! ミヤが小さい頃にしていたコス……服がたくさーんありますからね!」
「は、はあ……。ありがとうございます」
まだ戸惑いが隠せないアズに比べて、ミヤは非常に楽しそうでやる気満々である。
これは、完全にアズを着せ替え人形にするつもりなのだろう。
しかし、「小さい頃」からコスプレしてたとは、どうやらミヤの趣味は筋金入りらしい。
「じゃあ、オレはとりあえず一度、家に帰ることにするよ。着替えとかも用意しないといけないし」
「了解ですよー! アズちゃんのことはおまかせください!」
「悪いね。……アズ、すぐに戻ってくるから、しばらくはミヤの言うことを聞いていい子にしていてくれよ」
「……かしこまりました、アウト様」
こうして、ちょっと不思議な三人の生活が始まることになったのである。
ちなみに、オレは飯代の負担と飯の用意を担当することになった。
その他の部屋の片づけや食事の後始末、洗濯などは、ミヤとアズがやることになった。
一週間だけの同棲生活。
ドキドキもあったし、不安もあったが、始まってみるとそれは意外に楽しいものだった。
そして、風呂上がりの二人の色香を楽しんだり、コスプレショーを楽しんだりと、抵抗感を見せていたオレが、もしかしたら一番楽しんでいたのかもしれない。
そして、4日が過ぎて木曜日となった。
その頃になると、オレもすっかりその状態に慣れていたのである。
しかし、金曜日の夜には、もうお別れしなければならない。
オレはいつの間にか、そのことがすごく寂しく感じるようになっていたのだ。
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