死導の勇者
少年の軌跡
神話にしか伝えられなかった世界への侵略者――虚ろの者。
それらは再び世界へと現れ、世界の力を我が物にしようと混沌を招いた。
魔法を扱えない者はその場で無残にも殺され、扱える者は虚ろの者に連れ去られた。
連れ去られた者は、決して元の姿では返ってこなかった。
虚ろの者に何をされたのか、その身体は半分は虚ろの者と同じであり、残りの半分はヒトとしての名残が残ってはいるものの、到底生き物とは呼べない姿となって戻ってきた。
その者達は虚ろの者と同様に世界の力に執着し、彼奴等の先兵となって血風を撒き散らしながら世界へと送り込まれた。
虚ろの者と違うのは外見だけではなく、己だけでは歪みを生み出す事が出来ない点である。しかし、虚ろの者が生み出した歪みへと入り込む事が出来るので、奇襲などを容易に掛けられてしまう。
彼等を元に戻す術はない。
神話の時代よりも文明は高度に発展したとしても、肉体を元々の状態に戻す術は開発されていない。
故に、彼等を救うにはその命を絶つしかない。
死した肉体は虚ろの者と同様に風化し、風に流されて世界へと消え去っていく。
そして、虚ろの者の中には魔法を扱える者が出て来るようになった。
肉体を変貌させられた魔法使いから得た知識か情報か、それらによって世界の力の一端を扱える術を身に着けてしまった。
彼奴等は着実に世界の力を掌握していった。
このままでは、いずれ世界の力は虚ろの者に奪われてしまうだろう。
かつて虚ろの者より世界を救った古の勇者はもういない。
しかし、彼の者の後継は存在した。
黒い上着を身に纏い、かつて古の勇者と神の力に愛されし者の祈りにより生み出された剣を携えた少年。
各地を転々と移動した少年は剣を振るい、虚ろの者を撃退し、歪みが出現しないように封印を施していった。
少年は歪みへと入る事が出来、そこを行き来して遠くの場所へと向かう事が出来た。
勇者の再来。人々は希望を見出した。
勇者の再来と称えられた少年は各地を行き来し、巫女と巫女守が守る剣に宿っていた力の一部を剣へと戻す旅を続けた。
力を戻す旅では当然虚ろの者の妨害も数えきれないほどにあった。
しかし、少年は屈せず、倒れる事も無く、まるで何かに突き動かされるかのように迫り来る虚ろの者を屠って行った。
情け容赦なく、確実にその命を刈り取っていく姿は、まるで死神のようでもあった。
死導の勇者、後にそう呼ばれる少年はかつて世界に飛び散った五つの力を剣に戻す事に成功した。
その剣は五色の光に包まれるのと同時に、刀身自体は闇よりも深い黒で塗り潰されてた。
五色の黒剣を携え、少年は次々と虚ろの者を屠って行った。
次々と。
次々と。
次々と。
次々と。
百。
千。
万。
もはや数える気力が起きない程に、少年は虚ろの者を屠った。
その様を見ていたヒトは、少年が虚ろの者を屠る姿に薄ら寒いものを感じた。
慈悲の欠片も無く、怨恨の籠った一太刀。それを受けた虚ろの者は断末魔を上げて世界へと溶けていく。
街や村に住んで普通の生活を送っていそうな少年が心を殺し……いや、心にどす黒い感情を滲み出しながら戦う様は狂気と言っても差し支えない物だった。
少年を止める者はおらず、一方的な殺戮は続いて行った。
そして、かつて古の勇者と神の力に愛されし者によって打ち倒された支配者が復活した。
少年は、復活した支配者の下へと向かい、戦いを挑んだ。
誰もが、少年は支配者に勝つ事が出来るだろう。そう思っていた。
何せ、少年は虚ろの者に致命傷はおろか掠り傷さえも負わされず、そして確実に相手を絶命させていったのだ。いくら虚ろの者の中でも一番強い支配者でさえ、少年には勝てないだろう。
そう、思われていた。
しかし、現実は違った。
少年は、負けたのだ。
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