第30話 九条、大剣を振り回す

グレートソードという大剣をご存じだろうか。

長身の大剣よりも更に大きい特大剣と言われる人間の膂力を超える力を持って初めて扱えるような武器のだ。まぁゲームでお馴染みの武器だ。


前回の包囲戦の時に火力不足を感じた俺は《古今戦術武器商店》の眞志喜さんにそのグレートソードという種類の武器はないかと尋ねた。影戦士との戦闘でも大剣使いの動きは文字通り体感しているし、重量があってもスキル【闘気】の膂力が加われば使いこなせる可能性も十分にあるだろうと思ったからなわけだが、グレートソードと言う武器はどうやら明確なカテゴリはないようで言葉としてはあるものの史実としては存在していないとのことだった。


ならば他に高威力を出せるような武器はないかと質問したところ見せてくれたのが今持っているツヴァイヘンダーだ。どうやらドイツの大剣のようで全長約1.8メートル、刀身は1.5メートルありおよそ常人では振り回すのも難しい重量を持つ大剣だ。この大剣は実戦で使われるものよりも2kg程重量があり、元々はパレードなどで使われる儀礼用の物を《古今戦術武器商店》で買い取ったものだと言うことだ。ツヴァイヘンダーの細かいいきさつは聞いたが例によって眞志喜さんの話は俺には半分も分からなかったがどうやらこの大剣はパレード用として作られたものだけあって店にあった模造品とは違い実戦でも使えるものとなっているとのことだった。


こんなでかい大剣を持って帰った日にはニュースになること間違いなしであるが、今は収納の指輪があるので法に対しての配慮を考えなくていい俺は眞志喜さんにお願いしてこのツヴァイヘンダーを売ってもらったってわけだ。……今回の売上全てが吹き飛んでしまったのは痛かったがまぁ必要経費だと思おう。その分も含めてダンジョンで稼げばいいだけだ。






--コアを退避させた俺は肩に担いだツヴァイヘンダーをそのままに駆け出した。影犬は地球上の生物で言えばドーベルマン程度の大きさだ。メイスだけでは対処は難しかったろうな。


今まで戦ったモンスターは人型タイプの敵だけだったので勝手も違う。が、影犬はこちらに向かっているが連携もなくバラバラに走っているので各個撃破は問題ないだろう。まずは近場の1匹に駆け出した勢いで横薙ぎにツヴァイヘンダーを振るう。


「キャウンッ!」


「まずは1匹。」


空気を切り裂き草原の草を切り裂きながら突き進む大剣は避ける間もなく影犬の黒い体を二つに分断する。ツヴァイヘンダーは大剣というカテゴリーもあって振るわれるリーチは長く槍の薙ぎ払いにも近い効果がある為、簡単に避けることはできないだろう。切り捨てた影犬には目もくれず次の目標に向かい走り出す。


「ギャゥ!」


2匹目の影犬は俺に向かって飛びかかってくるのをバックステップで避ける。僅かではあるが空中に滞空している影犬は格好の的だ。ツヴァイヘンダーを持っていない空いた左手で影犬を掴み地面に思いっきり叩きつける。影犬は2度3度とバウンドしたのち赤い粒子に変わった。


「「「グゥゥ……!!」」」


アッサリと2匹を倒した俺に警戒したのか残りの3匹が俺を中心に三角形の包囲網を敷く。恐らくは前の2匹が囮を務め、残る後方の1匹が不意をつくつもりのようだが、それは甘いと言わざるをえない。

--なぜならば


『光よ!闇を打ち払え!光線レイ!』


上空からコアの力ある言葉が響き光り輝く一条の光が後方の影犬に直撃する。腹部を穿たれた影犬は痛みにのたうち回った後、赤い粒子へとその姿を変えた。やはりコアが後衛をしていてくれるというのはありがたいと素直にそう思う。コアの援護射撃に警戒を強めた影犬はヴゥゥ…と唸りながらこちらを睨んでいる。だが、睨んでいるだけで俺に攻撃が当たらない事実は変わらない。ツヴァイヘンダーを両手に持ち直した俺は2匹に向かって走り出す。スキル【闘気】で強化されたスピードで一気に加速して影犬に肉薄する。


「グァァァアァアアッ!!」


「これで……4匹、めっ!?」


大剣を振りかざし影犬への致命の一撃を行おうと直前、大きく開いた口腔から放たれた火球が飛び出し俺に向かい飛来してくる。間一髪ツヴァイヘンダーの向きを変え、自分の前に持ってくることにより盾にすることで火球を防ぐ。さすがにひやっとしたぞ。


『ああっ!?マスター!』


「心配するな!…問題ない。」


コアがまた過剰に心配しているのでひと声かけつつビビらせてくれたお礼をする為に足に力を入れ態勢を整え、ツヴァイヘンダーを腰の力だけで横薙ぎに振るい未だ火球を放った態勢のままの影犬を切り裂く。結果を見ずに蒼い闘気を流しながら残る影犬に走り寄りツヴァイヘンダーを叩きつけたところで戦闘が終了した。


『マスター!おけがはありませんか!?』


「大丈夫だ。うまく剣を盾にできたからな。」


『ほっ……。マスターが無事でよかったです。それにしても遠距離攻撃されるのは厄介ですね。』


「ああ、まさか炎を吐くとはな。だが、そこまで大した威力ではなさそうだったし直撃しなければどうとでもなるだろうさ。」


目の前で防いだわけだが、そこまでの熱量は感じなかったし例え直撃しても即致命傷というわけでもなさそうだしそれならばいくらでもやりようはあるわけだ。だがコアにとっては心臓に悪いシーンだったようで不安そうにしている。相変わらずの心配性だ。


『それはそうですが……。』


「スキル【闘気】もあるし早々遅れは取らないだろうから大丈夫だ。」


いつもの流れだと話すうちに自分を卑下し出してコアがネガティブモードになるだけだから会話を打ち切ってドロップ品を探しに行く。この瞬間が一番楽しみなんだよな。影犬がいた辺りを探してみると見つかったのは無属性の魔石と黒い牙が数点見つかった。魔石は分かるけど牙はさっきの影犬の牙だよな?ゲーム的に考えるならば素材アイテムってところなんだろうが……ふむ。分からなければ聞けばいいか。幸いネガティブに入りかけてる奴がいるし丁度いい。


「コア、この牙はなんだ?」


『………あっはい。…すみませんマスター。』


「さっきの戦闘まだ気にしてるのか?」


『いえ……そうではないんですがマスターに何かあったかもしれないのに防御呪文を唱えずただ眺めていた使えない自分が情けなくて情けなくて……なんで私って鈍くさいんだろうなぁ……って考えてただけです。』


いかん。とっくにネガティブモードになってやがる。

コアはスキルを取ってからはそれほどでもなくなったがたまにこうやってネガティブモードになるのは変わらなかった。とにかく褒めて通常モードに戻さないとダンジョン攻略どころではない。


「いや、それはしょうがないんじゃないか?俺もまさか犬が炎を吐くとは思いもしなかったからな。」


『でも、私が役に立たなかったのは事実ですし……。』


「お前は十分役に立っているぞ。さっきも囲まれた時に死角の影犬に光線レイで援護してくれただろ?本当に助かっているさ。」


『でも、私がもっとしっかりしていればマスターに危険はなかったのに……。グスッ…。』


やばい。この流れはやばい。というかネガティブレベルがまた一段と上がっているんじゃないのか?コアは今にも泣き出しそうにプルプルと震えているが泣き出す寸前だろう。水晶玉ボディなので表情は分からないが感情が豊かだからそういった面もはっきりと分かってしまうのだ。…はぁ、しょうがないな。俺はため息を吐きたいのを我慢しながら空中に浮かんでプルプルしているコアを抱き寄せて撫でてやる。忍も不機嫌になると頭をなでると機嫌がすぐによくなる。こいつも似たようなもんだ。


『マッ、マママママスター…あの、その、私……私……。』


「コア、安心しろ。お前は十分役に立っているさ。何度も命も救ってくれたし大切な身内(同居人)だからな。あんまり心配させないでくれ。」


コアは水晶玉ボディをピンク色に染めてうろたえている。

何故か色恋に興味が大いにあるらしいコアはこうすると動揺はするがその後は水晶玉ボディをピンク色に染めて目に見えて機嫌がよくなるのでネガティブモードに入るとたまにやっている。

水晶玉ボディに欲情するわけもない俺はペットを撫でているような気分だがな。

暫く撫でていると思惑通り機嫌がすっかり良くなったコアと共に草原攻略を再開することにした。

コアがチョロインである意味扱いやすいのはいいことか悪いことなのかと迷いながら。


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