第29話 九条、3階層を攻略する

《古今戦術武器商店》で眞志喜さんと交渉した翌日。

買取については問題なく交渉がまとまったと眞志喜さんから連絡がきた。

先方の企業もダンジョンの未知のアイテムに興奮しており非常に乗り気とのことで新しいアイテムを手に入れたら積極的に買取りたいと報告を受けていた。お蔭で忍がいない平日に無理に一人で移動販売を行う必要もなくこれからはダンジョン攻略を中心にすることができるわけだ。


そんなわけで今日は3階層を攻略するつもりでダンジョンの中をコアと探索している。

1階層の影人間は100円玉がほぼ無価値な為倒す必要もなくなり襲ってくる相手だけを片付けるようにしていたのでさっさと2階層の階段を降りる。

2階層もスキル【闘気】と【光魔法】を覚えた俺とコアの敵ではなく大抵は近づく前にコアの光線レイで光線に貫かれて赤い粒子と変わっていた。


『やりましたマスター!』


「ああ、随分と楽に倒せるようになったもんだ。最初の苦戦が嘘みたいだな。」


コアはスキル【光魔法】を覚えて以来、よっぽど今まで戦闘で役に立っていないのが悔しかったんだろう

積極的に戦いに参加するようになった。この階層のモンスターは影戦士の中で弓使いくらいしか遠距離攻撃をできるモンスターがいない為、コアの遠距離攻撃で一方的に倒すことができる。万が一近づかれても俺が対処すればいいだけだしな。


スキル【探査】で索敵をしながら俺達は事前に探索を終えた3階層に続く階段を降りていく。洞窟自体は土壁なのに何故か階段は毎度石造りなのがチグハグなのが気になる。一体どういった概念が働いているんだろうか。まぁ大した影響もないので気にしないでおこうと思ったが、階段を降りてすぐに俺は考えを撤回した。


「……ったく。どうなってんだ。地下に草原が広がっていやがる。」


『ふぁぁっ!私こんな景色初めて見ました!。TVで見た世界の〇窓からの放送みたいです!』


3階層に降りてみるとそこには打って変わって視界一面に草原が広がっており上を見上げると青い空と太陽がサンサンと降り注いでいる。今は夜だってのに時間間隔がおかしいのかそれとも年中太陽が出ているかは知らないがそのおかげで見晴らしはとてもいいわけだが。

コアは生まれて初めての外の景色(といってもダンジョンの中だが)に興奮して辺りをブンブンと飛び回っている。気持ちは分かるが目の前でブンブン飛び回っていると目障りなのでコアの進行方向に収納の指輪に入れておいた移動販売で使う大型の看板を置いてみた。


『すごい!すごいです!こんなにお外が綺麗だったなんて……っていやぁっなんで壁があるのぉぉぉぉおおっ!…………あうっ!』


看板に気付いたコアが止まろうとするも勢いづいた水晶玉は止まることもなく看板に激突してポトリと地面に落ちた。お、プルプル震えているな。


『あぅぅ……マスター酷いです!』


「騒いでいるコアが悪い。ここはダンジョンだぞ。」


目障りだと言ったらまたネガティブになるから一応それらしい言い訳を言っておいたがコアにとっては不満らしいな。もちろん俺が同じことをやられたら全力で倍返しする自信はある。


『はうぅ…で、でもやり方があったと思います!私のガラスのボディに傷がついたらどうしてくれるんです!?』


「ああ、悪い悪い。もし傷がついたら俺が部屋に置いといてやるから。」


どうせ今も家のペットみたいなもんだからな。

だが、コアは俺の答えをどう判断したのか器用に水晶玉ボディをピンク色に染めてコロコロと転がりながら照れている。

随分と分かりやすい反応だな、おい。


『そ、そんな部屋にお、おおお置いといてくれるなんて………はっ!私はそんなに安い女じゃないですぅ~。で、でもはぅう…マ、マスターのお世話ですか……へへへ……。』


コア、一応言っておくが俺は水晶玉に萌える趣味はない。

それに置いておくとは言ったが世話するつもりもないからな。

その時は何かしら仕事はしてもらうぞ。働かざる者食うべからずだ。


妄想の世界に突入したコアは放置して周辺の観察でもしてみるか。

レベル8にになったことにより身体能力に付随して視力も上がっている。計っていないから正確には分からないが前はコンタクトをして両目で0.01だったが今は裸眼でも全く問題ない状態まで視力が回復している。レーシック手術をしたみたいなもんだ。

改めて見渡してみても辺りは一面の草原でどこから吹いたか分からない風が緑の絨毯を波立たせている。所々に木がまばらに生えているくらいで人工物の類は一切ない。草自体はどこにでもあるようなありふれた雑草でせいぜいくるぶしくらいの長さしかないので移動する分には大して困ることはないだろうな。そしてこちらから回りが見えるということはあちらさんも同じのようで黒い犬……いや今までの影のモンスター系統だとすると影犬と言ったところか。その影犬が10頭近くこちらに向かって一直線に走ってくるのが良く見える。


「あちらさんもやる気のようだしこっちも気合入れてみようか。コア行くぞ。」


現状確認をしてスキル【闘気】を発動させる。体の中かから魔力から変換された生命力が蒼いオーラとなって全身を包む。【闘気】の効果は身体能力の強化だ。こちらの準備は整ったがコアから返事がないのでもう一度声をかけてみた。コアのフォローもあるし早々遅れをとることはないだろう…と思っていたが相棒たるコアから返事はないのでもう一度声をかけてみる。


「おいコア聞いているのか?」


俺の呼びかけには反応しない。どうやらいまだにコロコロと地面を転がって妄想にふけっていた。


『マ、マスターが…世話して責任取ってくれるなんて……えへへ。部屋に置いてくれるならちゃんとお掃除できるようになって、お料理もして、そ、それで帰ってきた時におかえり誠さん…なんて…キャーッ私ったら私ったらそれでマスターが優しくだ、だだだ抱きしめてくれて……ぎゃふんっ!?』


「おい、そこの駄コア。敵が現れたぞ。準備しような?それとも俺が優しく準備したいと思うようにさせてやろうか?」


『は、はははははい!すぐ準備します!大丈夫!大丈夫です!私一人でできますぅぅぅぅぅぅ!』


俺がいい笑顔で手に持った武器で小突いてやるとコアは真っ青になってスキル【浮遊】で空中に浮かび上がる。優しく言ってやったのが功を奏したんだろう、ということにしておく。ガタガタと震えているコアを見て脅しはしたがそこまで怖がることはないだろうにと少しだけ傷ついたのは内緒だ。







「よし、コアまずは敵の数を減らす。光線レイで牽制を兼ねて撃ちまくれ。近づいてきたら【浮遊】で影犬の攻撃が届かない空中まで退避。後は俺がやる。予想外の攻撃をしてきた時は臨機応変に対処だ。いいな?」


『はい分かりましたマスター!いきます!光よ!闇を打ち払え!光線レイ!』


コアとの漫才で幾分近づかれたがそれでも十分に距離がある為、俺達は作戦、と言ってもいつも通りではあるんだがその作戦を共有し迎撃を開始した。まずは牽制としてコアがスキル【光魔法】の唯一の攻撃手段である光線レイを連発させる。


『えっ?外れた?嘘!なんで!?』


「一度外れたくらい気にするな!相手だって考えて行動しているんだ。避けることくらい織り込み済みだ。弾幕を張るつもりで撃ち続けろ。」


『は、はい!』


敵も一直線に進んでくるのでいい的だとは思った。コアも外れるとは予想していなかったろう。高速で迫りくる光線レイに対し影犬はサイドステップで避けまたこちらに向かって加速している。動揺するコアに一喝して何度も連発させる。影犬も全てを避けることはできず被弾して赤い粒子に変える個体もいるが全てを倒しきることは難しそうだ。1,2,3,4……5体か。これなら何とかなるな。


「コア。後は俺がやる。空中で退避して隙があれば攻撃してくれ。」


『は、はい…お役に立てずすいません…。』


「気にするな。半分以上倒したのはコアのお蔭だ。それに俺にも楽しませてくれてもいいだろう?」


こいつは自分が役に立たないと思うと無茶するので労いの言葉は戦闘中は欠かさないようにしている。以前のようなことはごめんだからな。それに、新しい武器の性能も確かめたいところだったから丁度いい。俺は《古今戦術武器商店》で新たに購入した武器を肩にかけ、蒼い闘気を噴き出しながら影犬に向かって駆け出した。--さぁ派手にいこうか。



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