何やらうちの部屋にダンジョンができたんだが

第23話 九条、魔導具を獲得する

「がぁぁぁぁああっ！」

「ギィィィィイイイッ！」

俺と大剣使いは何度も何度もメイスと大剣をぶつけあっているが、一向に決着がつかない。

メイスを俺が突けばその大きな大剣で防がれ、大剣が俺を切り裂こうとすればメイスでいなす。そんな攻防がどれだけ続いたろうか。いい加減限界が見えてきた。

コアがスキル【光魔法】を覚えたことにより、戦況は有利になったがこの大剣使いはそんなこと抜きにしても強かった。大剣というこちらより強力な武器であることもそうだが使い方が巧みで盾にも剣にも使いなんというかバランスがいいのだ。対するこちらは既に満身創痍。右腕は弓矢を抜いた後で力を入れなくてもズキズキと痛み、全身が疲労の泥沼に入り込んでしまったかのように重い。このままではコアが弓使いと影人間を受け持ってくれたというのにあまりにも格好が悪いではないか。せめてこいつだけは俺の手で片付ける。

限界が来る前に一旦後ろに下がる。

影戦士にも疲労感というのはあるのか俺と同様に肩で息をしている。

お互い条件は同じみたいだな。

「……ふぅ、ふぅ、ふぅ……がぁぁぁぁあっ！」

「ギィッギギギギィィィイイイイッ！」

息を整え、再び打ち合いに入ろうとする俺と大剣使いといった様子だったが、残念それはフリだ。

俺は懐に手を入れもう一つ予備で持っていた音響弾を投げつけ急いで耳栓をつける。

数秒後--

ドォオオォォォオオオオオンンンンッ！

影戦士団が全員揃っていた時と同じように大きな爆発音が発生するが大剣使いはそれは前回聞いたとばかりに耐えている。それだけだと思うなよ。ここからが本番だ。

「ふんっ！」

俺は大剣使いに向かって走りながら残った手にもった唯一の武器であるメイスを投げつける。

今までの動きを見ていれば当然大剣使いの動きは

「ギィッ！」

大剣を自身の前に出して盾のようにして防ぐ。そしてそれが俺の狙いでもあった。

俺は防がれたのも構わず大剣使いに走り寄って防いだ大剣ごとタックルして大剣使いを吹き飛ばす。

大剣使いはまさか突っ込んでくるとは思っていなかったようで仰向けに倒れてしまう。

それでも大剣を放さなかったのは立派だと褒めてやろう。だが、な。

「チェックメイトだ。」

俺は倒れた大剣使いの腰辺りに張り付く。俗に言うマウントポジションだ。

「ギッギィッ！」

「チェックメイトだと言っただろう？」

手に持った大剣を振ろうとその腕を動かそうとした大剣使いだったが、

俺が肩に打撃をし、大剣使いはその衝撃で大剣を離してしまう。

マウントポジションは両手が自由に使えるため叩きつけるようなグラウンドパンチを打ち込んだり、関節技や絞め技も仕掛けやすく、仕掛けた者がが圧倒的に有利なポジションだ。打撃技のないブラジリアン柔術でもこのポジションには大きなポイントが与えられているみたいだしな。そしてその効果はご覧の通り。下になった大剣使いは力は振るえず、反撃しても手打ちのパンチなので大した威力にならない。しかし上に張り付いた俺は十分に力が乗ったグラウンドパンチを繰り出すことができるというわけだ。

俺は自然に出てくる嗤いを抑えられず大剣使いに宣告する。

ここからは俺のストレス解消に付き合ってもらうとしよう。

「クックックッ…今まで散々やってくれたな。ここからは俺の好きにさせてもらおう。何、抵抗しても構わんさ。全力で叩きつぶすがな。」

「ギィィィィ……」

殴る。殴る。ひたすら殴る。

大剣使いは既に両腕で顔を必死にガードをしているがそんなの知ったことか。

今までの鬱憤を晴らさせてもらう。構わず殴り続けた。

「ククッ…クックック…クハハハハハハハッ！楽しいなぁ、おい！さっきまでの威勢はどうした？なんとか反撃してみろよ！反撃できるものならなぁぁあぁああ！」

殴り続ける間についついテンションが上がってしまったが不可抗力だ。気にするな。

何発目かは忘れたがそんなタイミングで頭に声が聞こえた。

【条件を満たしました……スキル【闘気】を取得しました。】

何だこれは？

スキル【闘気】とやらの情報が頭の中に浮かんでくる。

まるで今まで忘れていた何かを思い出したようなそんな晴れやかな感覚だ。

コアがいつか言っていたがスキルが発動したら使い方は自然と頭の中に浮かぶらしいが不思議な感覚だな。早速試してみるか。

「…ふむ。中々に使い勝手がよさそうだな。こうか？」

スキル【闘気】を使用してみる。

どうやらこのスキルはアクティブスキルに該当するようだ。

使用すると蒼い闘気が全身を覆う。この闘気は魔力を生命力に変えたもので肉体の強化や筋力、脚力など様々な個所を強化できるらしい。身体強化みたいなものか。

「クハッ。これはいい。」

この闘気の効果は一目瞭然。

先程までガードできていた大剣使いを腕ごと激しく叩きつけることができる。

殴られた大剣使いの腕は折れてしまったみたいだな。ご愁傷様だ。ま、止めるつもりはさらさらないが。

「さて、続きだ。ついでにスキルの実験台といこうか。簡単には消滅してくれるなよ？」

「ギッ…ギィィィィィィイイイイィィイイイイイイイイッッッッ！！」

大剣使いの断末魔の叫びが広間に響き渡った。

耳栓してたがいいが、五月蠅くていい迷惑だった。消える時は静かにして欲しいものだ。

「ふんっ！」

『光よ！闇を打ち払え！光線（レイ）！』

「ふぅ。これで全部だな。」

『はい。何とかなりましたね。』

大剣使いと弓使いを倒した後、俺とコアは手分けして残りの影人間を処理してやっと一息ついた。

傷は既にコアに治療してもらったのでなんともない。服はボロボロになってしまったが。

辺りには４つの魔石と１００円玉が無数に転がっており、惨状を伝えている。

今更だが死体が残らないのは有り難いと思う。

残ったら残ったで処理とか考えないといけないだろうからな。

『それにしてもマスター。先程の闘いは何というか…怖かったです。』

「ん？ああ、スキル【闘気】のことか。蒼い闘気をまとった人間なんてそういるもんじゃないだろうからな。」

『いえ、そうではなくて…その高笑いが…いえ、なんでもないです。』

「？」

コアはブツブツ言っているがまぁいいだろう。

「それよりもコア。やっと魔法を覚えられたな。おめでとう。」

『マスター……っ！ありがとうございます！私、私…やっとお役に立てました！』

「ああ。これからも頼むぞ。頼りにしている。」

これは俺の本音だ。

コアの【光魔法】は攻撃、防御、回復と幅広い。特に回復は現代医療では自然治癒を待つしかないものを数秒で回復してしまうのだ。しかも傷跡すら残さずに、だ。これだけですさまじさが分かってくれると思う。俺のスキル【闘気】もそうだが現代人、というより地球の生物には考えられない強度を生み出すこのスキルは戦闘以外でも大きな恩恵を与えてくれるだろう。だからこそばれないようにしないといけないという意味もあるがな。

「さて、戦利品を回収して帰るか。さすがにもう限界だ。」

『同感です。あ、戦利品と言えば指輪を宝箱から手に入れていますよね。あれ、もう一度見せてもらっていいですか？』

コアの指摘にポケットに入れた指輪の存在を思い出す。

こいつのお蔭で大量の敵と戦い、死線をくぐることになったんだよな。

少しの忌々しさとそれだけ苦労した物だからどれだけの価値があるのかと期待感を合わせながらコアに見せる。

「こいつのことか？」

指輪は金属製で淵の部分には謎の文字が刻まれている以外は至って普通の指輪だ。

期待したがあまり価値がなかったりするんだろうか。さすがにこれだけ苦労したのだからそれは止めて欲しいと心底思う。コアはマジマジと指輪を見つめている。まるで何とか鑑定団の回答を待つ出品者の気分だな。

『やはりこれは……マスター。指輪を嵌めて魔力を込めて頂けますか？』

「指輪は嵌めたが魔力なんてどうやって使うんだ？」

『マスターの場合、スキル【闘気】を使う感覚で大丈夫だと思います。元は魔力ですので。それを闘気に変換せずに指輪に集中させてください。』

コアには既に俺がスキル【闘気】を覚えたことを知らせている。

スキル【闘気】は魔力を闘気に変えるスキルだから魔力のまま指輪に集める、と。

俺が魔力を指輪に集めると空間にひび割れたような亀裂が現れる。何だこれは？

考えても分かるようなものでもないのでコアに聞いてみると回答は

『恐らくこれは収納の指輪ですね。この亀裂の中にアイテムを保管することができるはずです。場所を移動してもこの亀裂からアイテムの出し入れができると思います。これはかなり便利な魔導具ですよ！』

コアの話に従って収納の指輪を試しに使ってみる。亀裂に先程の闘いで手に入れた魔石を入れ、亀裂を閉じる。少し離れたところで亀裂を出して手を突っ込んでみると魔石が取り出せた。なるほどこれはチートアイテムだな。

「ククッ。これはいい。物流業者泣かせな一品だな。移動に重さを感じず場所を取らないか。しかるところに売れば得る利益は天文学的だな。」

こいつがあれば借金など一瞬で消えるが、こんなものがあればどんな騒動に巻き込まれるかも分からないなどのリスクもあるが得る利益に比べれば些細な障害だ。だがこれだけ便利な魔導具だ。俺個人としても使いたい。むぅ…迷うところだな。さてどうしたものかと悩んでいるとコアから冷めた視線を感じた。

『マスター…。これだけの魔導具をいきなり売ろうなんて何考えているんですか？本来魔導具は相当レアなアイテムですよ。それを…。』

やはり相当レアな魔導具らしい。

どうするかはとりあえず保留にしておこう。

考える時間はいくらでもあるからな。

「まぁ売るかどうかは分からないがありがたく頂こうじゃないか。死にかけたんだ。これくらいの対価は頂いて当然だろう？」

『それはそうですが……。なんか納得いきません。普通は死にかけたことに恐怖するんじゃないですか？』

何を馬鹿なことを

「死にかけたのは恐怖を覚えはするが、それはそれだ。対価があるならある程度の危険はあって然るべきだろう？」

『私、時々マスターのことが分からなくなります。勇敢なのか守銭奴なのかどっちなんですか？』

そんなのは決まっている。

「どっちもだ。何せ守るものがないからな。がむしゃらにもなるさ。」

だから勇敢にも守銭奴にもなるんだよ。