第15話 九条、魔石を手に入れる

『マスターこの先約100m先に敵の反応があります。恐らく影人間かと。』


「おう。どんどん狩るぞ。」


轟と焼きそば勝負を突き付けられた後、俺は夕方まで状況を見たが売れる様子は全くない為、さっさと店じまいにしてダンジョン攻略をすることにした。あのまま粘っても大して売れないし、営業時間が決まっていない移動販売は自分の都合である程度変更できるのでこういったことも可能ではある。あまり好き勝手にやると場所を提供している店から文句もあるからあくまで程々に、だけどな。


そして売り上げの補填も兼ねてコアとダンジョンに潜ることにしている。

今日は2階層に向かってみようと思っている。

今までは楽に倒せるので1階層で影人間だけを倒していたが、深い階層に進めば敵は強くはなるがドロップ品の質は上がるのでこれからは少しづつ階層更新をするつもりだ。


それにレベルが3まで上がったことにより以前よりも体が軽くなっており、早々遅れをとるとも思えなかったという理由もある。


今日は俺とコアはコアのスキル【探査】を使い敵に発見する前に割り出して新路上の敵だけを処理することにしている。ここのダンジョンでは敵は時間と共にリポップするので相手にしているといつまで経っても下の階層に降りれないからだ。その進路上に現れる敵も所詮は影人間なので大振りの一撃をかわしメイスで殴りつければ簡単に赤い粒子となって霧散する程度の存在だ。どうということはない。そうして歩くこと暫く初日に見つけた2階層への階段が見えた。


「ここだな。」


『はい。階層を降りると魔素が濃くなるので敵も強くなります。慎重にいきましょう。』


2階層の階段は入口の階段と違い回りと同じく土でできた階段だ。

その階段を降りて2階層に到達したが、あまり変化はなかった。相変わらずの洞窟で表面には光苔が淡く空間を照らしている。


「1階層と大して変わらんな。」


『そうですね。まだ2階層ですので魔素の影響が少ないのが原因かと思いますが油断は禁物です。』


「ああ、2階層はいくらのやつがいるんだろうな。」


コアに暴走しないでくださいよとため息を吐かれながら言われたが心外だ。

俺は暴走なんかしていないぞ。ただ、金に目が眩んだだけだ。


「コア、敵はいるか?」


『……少し待って下さい……。いました。どうやらこの先に広場があるようです。そこに2体……いや、3体ですね。モンスターがいます。』


「広場、ねぇ。そういや1階層は通路しかなかったから部屋があるのは初めてだな。」


『はい。その分敵に囲まれる危険があるので注意が必要です。私も戦えればいいのですが……。』


「気にするな。【探査】を使ってくれているだけでも相当に助かってる。それにその水晶玉ボディじゃ戦うのはどう見ても無理があるだろ?」


コアの外見はただの水晶玉だ。今でこそ浮かんでついてきてくれるが移動スピードも徒歩と同じくらいだし、戦闘はいくらなんでも無理がある。大体どうやって戦うつもりだ?体当たりでもするのか?高速で動き回ればできないこともないだろうが土台無理な話だろう。だが、コアは悔しいようで声に悔しさが滲んでいる。


『……マスターの仰ることも理解できますが、お役に立てないのが悔しいです。』


「十分役には立ってるさ。自分にできることを最大限してくれている。」


『でも…。』


これは俺の本音だ。人間、自分ができることを最大限するしかないのだから。ない物ねだりをしてもしょうがない。それを俺はこの数年でようく思い知らされている。だから思うんだ。できないことを嘆くよりできることを頑張るべきだとな。コアは納得していないようだがこればかりは他人が言っても納得できることではないからな。人によって答えも違うだろう。俺はできることを全力でやるが回答だが他に回答があるのかもしれない。それこそ回答はその人次第で変わるもんだろうと思う。だからこの話はもう終わりだ。後はコア自身が答えを出すべきだからな。


「話は終わりだ。そろそろ通路の終わりが見えてきた。警戒しなきゃだろ?」


『…そうですね。フォローします。』


「ああ、頼む。ダンジョン内ではコアの【探査】が頼りだからな。」


コアに【探査】を使ってもらい常時警戒しながら通路の奥を目指す。

既に広場が見えているので敵に気付かれないように出来るだけ足早に進むと…いたな。

1階層でおなじみの影人間が2体ともう1体が影戦士というべきだろうか?影でできた体は影人間と変わらないが大きく違うのは武装しているということだ。影でできた剣と鎧を身に着けている。鎧は簡素な鎧タイプのようで四肢の部分までは覆っていないようだがここに来て初めての武器持ちが現れたことにより俺は気遅れしてしまった。その時間のロスは敵にこちらの存在を気付かせるには十分な時間であり影人間と影戦士がこちらにやってくる。影人間はゆっくりとした足取りだが影戦士は走ることが出来るようだ。こちらに一直線に向かってくる。……やるしかない。


「コア!下がってろ!」


『はい!マスターお気をつけて!』


コアに退避させて俺は走り寄ってくる影戦士に狙いを定める。

幸い影人間は移動スピードが遅いので実質影戦士だけを対処できるのは有り難かった。


「ふんっ!」


距離が空いているうちに倒せないかと腰に差した山刀を抜き取り影戦士に向けて投げつける。

レベル3になり強化された肉体的能力は山刀を勢いよく飛ばすが影戦士に向けて飛んでいくがあっさりと手に持った剣で弾かれてしまった。やはり近接戦をするしかないか。

俺は手に持ったメイスを構えて影戦士を待ち構える。

先程の山刀を弾いた様子から影人間のようにはいかないと判断し、相手の到着を待つことにした。

待つこと数舜、影戦士は俺に向かって剣を突き出した。防ぐ手立てがないので大きくバックステップをして影戦士の突きをやり過ごし、今度はこちらからメイスを振りかざす。基本的に鈍器なので振り下したほうが威力があるからだ。


「…ちっ!」


影戦士は剣を横に倒し俺の振り下ろしを防ぐ。そしてその一撃を受けて大したことがないとでも思ったのか防げたことに安堵したのか闇色の影の顔に真っ赤な口腔が見え、ニィッと笑った。随分余裕じゃないか。こっちは振り下した手が痺れているってのに。


「ギィィィッ!」


影戦士は力任せに俺のメイスを弾くと影の剣を俺に向け横なぎに振ってきた。ちぃっ!避けられん!


「っ痛ぅっ!」


『マスター!』


影の剣は俺の脇腹を捉えて振りぬかれた。コアの叫び声が聞こえる。大丈夫だコア。心配するな。

衝撃は相当だったが切れ味は大したことがないようで、着こんでいる防刃Tシャツ、防刃コートはしっかりと斬撃を防いでくれたので出血はないが吹き飛ばされた体は態勢を崩し倒れてしまう。影の戦士は勝利を確信したのかゆっくりとこちらに振り向き影の剣を振り下す。


「ギィィィィッ!」


『いやぁぁぁぁっ!マスター!マスター!』


コアは俺が斬られてしまったと思ったんだろうが心配するな。

俺はまだ、生きてる。


「ギィッ!?」


「ふっ!」


影の剣は俺に向かって振り下ろされた。

態勢の崩れた俺では避けることができなかった。だから避けることは諦めた。

避けることはできないが影の戦士の一撃をもらうわけにはいかない。

そこで俺は腕に装着した防刃手袋を頼りに影の剣を受け止めた。

先程、斬られた時も出血しなかったことから同じ素材で作られた防刃手袋なら大丈夫だろうと思ったが賭けには勝てたわけだ。

俺は右手で影戦士の剣を掴んだまま、空いた左拳を握りしめ影戦士の腹部を殴りつける。

メイスは横薙ぎの一撃の時に手放してしまったので今は素手だが強化された肉体での一撃は影戦士の体を九の字に折ることができた。その隙を逃すことなく右手で抑えた剣を放した俺は立ち上がり影戦士の後ろに回り込む。


「がぁぁぁぁぁあっ!」


グキンッ!という嫌な音と共に影戦士の首が360度一周した。

なんてことはない。後ろから首を力任せに回しただけだ。

影戦士は既に赤い粒子になり消滅している。後はこちらに近づいている影人間を処理するだけだな。

影人間は未だにこちらに到着しておらず、残った2体はメイスでアッサリと処理することができた。










「………ふぅっ。」


『マスター!お怪我は、お怪我はないですか?』


戦闘が終わるとコアは【浮遊】で近づいてくる。

おい、そんなピカピカするな。心配してくれているのは嬉しいが眩しいだろうが。


「ああ、大丈夫だ。と言いたいが……ちっ青あざになってるな。」


『あああっ…。すぐに治療しないと…。』


「こんなのシップ貼っておけば大丈夫だ。…だから、そんな顔するな。」


コアの体は水晶玉だなので表情は当然分からないのだが今だけは何故か今にも泣きだしそうな顔をしているのが分かってしまった。


『でも…こんなに腫れてます。』


「いい大人が青あざ程度で泣き言言えると思うのか?大丈夫だ。それよりもドロップアイテムだ。影人間が100円だろ?その上位種のような影戦士なら1000円?いや1万円でもいいんじゃないか?」


『もう、マスター。こんな時までお金ですか…。』


「当然だ。仕事には対価が必要だ。ボランティアなど死んでもごめんだ。」


さて、影戦士のドロップはなんだろうな。

ワクワクしながら影戦士が消滅した地点に行ってみるとそこにあったのは真っ黒い石ころ一つだけ。

おい、なんだこれは。


『これは…魔石ですね。』


「魔石?金じゃないのか?」


『そもそも日本のお金が落ちることが異常だと思いますが…。魔石は魔力が変質して石状になった物です。その色から属性が分かるのですが、黒い魔石は無属性の魔石ですね。』


あれだけ戦ったのに報酬が石ころ一つとは…。


「…マジか…。これが報酬。…はぁ。」


ため息が出るのも仕方ないだろう。

だってそうだろ?死ぬほどの思いをして石ころ一つ手に入っただけなんてテンション上がる訳がない。


『で、でもマスター!魔石は魔力を内包していますので加工すれば魔導具として使うことができますよ!』


「で?それをどうやって加工するんだ?」


『ええ、とそれは。』


ついこの前まで魔素なんてものが存在しなかったわけだからこの魔石にしても加工できるかどうか謎なわけで。まぁコアに言っても仕方ないか。一応未知の物だから古今戦術武器商店の眞志喜さんが買い取ってくれるかもしれない。ドロップアイテムがあったら欲しいって言ってたしな。


「まぁいいさ。それにしても2階層でこれか。もう少しレベルを上げてからのほうがいいのか?」


『そうですね。マスターお一人だけでは厳しいかと思います。やはり私も強くならないと…。』


「そうだな。お互い強くならないとな。と、いうことで1階層に戻って100円狩りをするか。」


『それってマスターがしたいだけでは…』


否定はしない。

現金収入は偉大なのだ。例え1体100円だとしても。

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