第10話 九条、100円狩りをする
「よし。いくかコア。」
『はい!マスター!精一杯フォローします!』
次の日午前中に準備を終えた俺とコアはいよいよダンジョン攻略をする為に最初にコアに出会った広場にまで降りてきていた。1日振りにやってきたダンジョンはやはり一面碧色の光苔で覆われておりお蔭で視界に困るようなこともなく助かっている。
広間の奥にはまた洞窟が続いておりその先はコアもどうなっているかは分からないようだ。
フワフワと浮かびながら着いてくるコアと共に洞窟の通路に足を踏み入れる。
先程までの通路と特に大差はないが何となく嫌な空気を感じ自然に喉が渇いてくる。それを誤魔化すように俺はコアに質問をした。
「コア。この先のモンスターについては本当に分からないんだな?」
『すみません。出来たばかりでなおかつ浅い階層ですので大したモンスターは発生していないと思いますがどのようなモンスターかは分かりません。お役に立てず申し訳ありません。』
「いや、気にするな。一応武器防具はしっかりしているから何とかなるだろうさ。索敵頼むぞ。」
コアはスキル探査の効果で魔素の流れが分かるようで、ある程度の範囲まで索敵ができるとのことで索敵要員としてついてもらっている。俺はといえばアタッカーと言えば聞こえがいいが、コアとのスキルリンク契約で手に入れた魔素吸収は自然の魔素だけでは大して魔力に変換にできないようで正直今までと大差がない状態だ。コア曰くモンスターを倒すことによりその内包された魔素を吸収することにより魔力に効率よく変換できるとのこと。またその魔素吸収によりレベル--魂の位階が上がり、魔力の保有最大量が上がり様々なことが今後できるようになるだろうとのことだった。ただしスキルが発動するかは条件が分からないので魔法を使えるようになるかは分からないとも言っていた。どうせならこんなファンタジーな場所に入るのなら魔法の一つでも使えるようになりたいものだ。
俺がそんなことを考えている間にもコアは索敵を進めてくれていたみたいでふよふよと空中を進んでいたのが止まった。何か発見したらしい。
『マスター。ここから少し先に魔素の反応があります。……恐らくモンスターです。』
「やっとか。数は分かるか?」
『ちょっと待って下さい……。数は1体ですね。この先に曲がり角がありますがその先にいるようです。』
1体なら初戦闘にちょうどいいな。いきなり多対一なんて御免被るからどうするか考えていたんだが助かる。コアの指示した位置はここから約50mといったところにある曲がり角を曲がった先だという。それなら敵の姿を確認してから行動できる為、俺とコアは静かに曲がり角まで進んでいく。
「……コア、この先だな?」
『はい……。曲がり角の先です。少し離れているので奇襲は難しいと思います。』
俺はコクンと一つ頷いて通路の先を覗き見る。通路の先は変わらず光苔が空間を照らしていて奥まで見える。そのまま視線を先に転じてコアの示した辺りを見てみると……いた。モンスターだ。モンスターは人型で何をするでもなくボーッと中空を眺めているように見える・・・。見えるというのその人型モンスターには顔がなかった。顔だけではなく体もだが全身が黒い影で構成されていた。差し詰め影人間というところか。身長は俺と大差ないから大体170cmくらいか。武器は持っていない。影人間は特に何をするでもなくボーッとしている。
「…コア。あいつはなんだ?いや、モンスターってのは分かるんだが……」
『えっと…多分魔素が集まってモンスター化した物と思われます。この周囲の知性体、人間の情報を取り込んでいるみたいですが…、具体的にどんな魔物かは分かりませんが少なくとも最弱レベルではないかと思います。』
あれで最弱レベルか。まぁ見た目はただの黒い影が人型をまとっているだけで特に武器も持ってはいないみたいだし、そこまで危険はないだろう。右手に持ったメイスの感触を確かめてコアに言ってくると一言告げ通路を曲がる。影人間はすぐに俺に気付いたみたいで俺に向かって歩いてくる。走ることはできないのか対処は十分可能であり、影人間がこちらにやってくるのを迎え撃つ。俺の前までやってきた影人間がその手を大きく振り上げたが待ち構えた俺のほうが早く動け手に持ったメイスの
『やりました!』
あ、コアそれはフラグだと思ったがそのフラグは折れてくれたみたいであっさり影人間は赤い粒子となり霧散する。その一部が俺に当たり体に吸い込まれていく。どうやらこいつが魔素みたいだな。何か力の源のような物が体に染み渡るような感覚を感じる。レベル上がったか?
「クククッ。これはいい。体に力が染み込んでいくみたいだ。コア、レベルは上がったか?」
コアにはリンク契約した物のステータスを見る能力があるようで虚空にコア自身のステータスや俺のステータスを他者に見せることもできる。とは言っても分かるのはレベルとスキルくらいで細かいところは分からないようだ。現実的に考えてそれだけ分かるだけでも上等なので文句はない。
コアは虚空にステータスを出して確認する。
『えっと…。どうやらレベルは上がっていないみたいですね。』
「そうか。でもこの程度の相手なら問題なく対処できそうだな。コアそういえばドロップはどうなった?」
ここが一番重要なところだからな。
ドロップ品はいくらになるのか。またテンションが上がってくる。
『ドロップですか?……あ、マスター!そちらにあるみたいです。どうやら硬貨みたいですね。』
ほう、硬貨か。異世界の金貨いや最弱レベルの討伐だから銀貨か?コアの指示を頼りに見てみるとそこにあったのは、確かに硬貨だったが、
「……100円。…コアこいつがドロップか?」
異世界の金貨でも銀貨でもなく紛れもなく日本国の100円玉がコアの光を反射して鈍く光っていた。自然にコアに問いかける声が低くなってしまうのはしょうがないと思う。100円じゃ今日び缶ジュースも買えないんだが。コアも日本の貨幣制度は知らないが価値が低いことは分かったんだろう。声が少しひきつっていた。
『え、えっと……。その…最弱レベルのモンスターなのでこの程度かと……。ひっ!そんな怖い目で見ないでください!頑張ります!私頑張りますから!だから売らないでくださいッ!お願いしますぅ!マスタぁぁぁぁぁー!』
どうやらコアのトラウマを刺激してしまったようだが、俺はそこまで怒ってしまっているわけではない。確かにちょっとイラッとしてしまったが影人間1体で100円ということは10体で1000円。100体倒せば10,000円ではないか!要はちりも積もれば山となるというわけなので問題ない。だから少し、いやかなりパニックになっているコアに優しく声をかける。
「コア……。おいコア大丈夫か?」
『……売らないでください。お願いします…お願いします…お願いします…………はっ!マスター!』
「コア。大丈夫だ。俺はお前を売ったりなんかしないよ。お前は大切な仲間だからな。それにまだ始めたばかりだ。金は安かったがコアの助けになれたから俺はそれでいいんだよ。」
『うぅ……ま゛、マ”スタぁー!』
「よしよし。不安にさせて悪かったな。」
『グスッグスッ、……マスター私頑張りますっ!』
「……ああ、頼りにしてるよコア。」
自分でやっておきながら言うのもなんだがコア、ちょろすぎないか?
コアが落ち着くのを待ってダンジョン探索……いや100円狩りを再開させる。
コアのスキル探査を使い、ダンジョンを放浪し次のモンスターを見つけたようだ。
『マスター。このまま真っすぐに2体の反応があります。先程の影人間かたと。』
「よしっ!200円だな!」
『…いえ、マスター2体です。』
「分かった。200円だな!」
『いえ、違います。2体です。』
「おらぁああ!200円んんんんっ!」
『いやぁぁ!マスターが暴走してるぅぅぅぅ!』
1体倒して100円!2体倒せば200円!これでテンション上がらないほうが嘘というものだろう。雑魚を処理するだけの簡単なお仕事だしな。既に5体倒してるから次で700円目だ!
影人間が走り寄ってくる俺に気付いて振り返るが遅い!
俺は腰に差した山刀を投げつける。
放物線を描いた山刀は影人間、もとい100円の腹部に刺さるが致命傷には至らないようでギィギィと叫び声をあげている。意外なことにこいつらは一応喋れるみたいだ。外見ただの黒い塊なんだけどな。騒いでいる100円は無視してもう1体の100円に向けてメイスを振るう。ここまでの闘いで分かったがこいつらはよけるということをほとんどせず近づいて腕を振るうだけなので対処が非常に楽だ。なんせ攻撃してもよけないのでカウンターに気を付ければほぼ問題なく当てることができるわけで、今回も大振りの攻撃に当たることもなく100円の頭部にメイスを叩きこむことができた。金属製のメイスはその凶悪な力をいかんなく発揮し、影人間をあっさりと赤色の粒子に変える。そしていまだに山刀が刺さって悶えているもう1体に止めを差し戦闘を終える。
「さて、200円。200円っと。おっあった。これで700円か。コア!今日は5000円は稼ぐぞ。」
『マ、マスター…その張り切ってもらっているのは嬉しいんですが初めてのダンジョン攻略ですしもう少し冷静になったほうが……。』
心外だな。俺は冷静だぞ。ただ、金に目が眩んでいるだけだ。これで今月の支払いなんとかなりそうだと思うとテンションが上がるだけだ。
「コア俺は十分冷静だ。だから後43体。4300円倒すぞ。それにストレス解消になって金も稼げるなんてとても健康的じゃないか。そう、これはただのストレス解消だよ。だから次だ次!」
『……もうやだ。このマスター……。』
コアの呟きは当然シカトしてこの後影人間を乱獲しまくって初日にして8000円まで稼ぐことができたが帰ってからコアの愚痴を聞かされて結局ストレスが溜まってしまったよ。
納得いかんな。
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