第12話 僕はどうにかして誤魔化せるかを考える
「眠い。だるい。目に隈がある」
アンリさんから話された話について。色々と考えてしまいあてがわれたベットの上で悶々として寝ることが出来なかった。
鏡を見ると疲労が抜けていないツインテの女の子の顔があった。
正直ゾンビかと突っ込みたくなったものの、顔に水をぶっ掛けて気合を入れたらとりあえずは何とかなった。
その鏡に芽衣子が映っている。
「どうしたん? お姉ちゃん、その顔。目が真っ赤。せっかくの美少女ぶりが台無しだよ」
「はあ、僕はおと、いやいや、今は女の子・・・・・・」
自分の髪を触ると鏡に映る金髪の少女も髪を触る。
そう、それが現実であり、これからのことを思い出させてくれて余計に結う綱気分になってしまう。
「何か考え事でもしてたの」
「そりゃあ、しているだろ。今日は白竜を倒す為に行くんだけど、どうすりゃいいのかわからないわけんだからさ」
「まあ、あれはアンリさんの幻術だし」
「知ってたなら、芽衣子も悩まないのか。男嫌いの王子殿下を誤魔化さないといけないわけで」
「んー何とかなるでしょ」
能天気そうな口調。色々と考えることはなさそうな自然体。
まあ、そうやって芽衣子は人生を進めてきたのだからうらやましい。
僕はまあ、この魔女っ娘でいいことに会ったことは殆ど無い。
「本当に何とかなるのかなあ」
「出たとこ勝負。女は度胸」
「僕は男だ」
それだけは忘れてはいけない。
心まで女に染まってしまえば、僕のアイデンティティがなくなってしまう。
「いっそ、あのコンラート王子の魔術で大切なところもなくて、心まで女の子になってしまえば楽になるよ。だって、平凡だけど女顔のお兄ちゃんだし、もうそこまでいけば」
「僕の心を折るのだけは得意だな」
「大魔王ですから。誰かの心を折るくらいできないと・・・…じゃなくて、私の優しさなんだから」
うん、大魔王様、色々とありがとう。心が強くなったよ。
耐えろ僕。どこまでも。
あ、そうだ。ひとつだけあったね。魔女っ娘の利点。
涙流しても絵になるわ。
「おはよう。諸君。おや、ミズキ・・・・・・目の下に隈があるじゃないか。美少女が台無しになっている」
「誰のせいでしょうか。このようになったのは」
「誰だろうね」
いけしゃあしゃあとアンリさんがそんなことを言ってきた。
まあ、わかっているような感じで目元、口元が笑っているのでたちが悪いのだけれども。
「で、その格好なんですか。いつもの着物じゃないんですけど」
アンリさんの格好はいつもの色っぽいはだけた感じの着物ではなくて、この世界にあわせた感じのチュニックだった。
「ああ、この村娘の格好か。私は白竜の供物にでもなってみようかと思う」
「は? ちょっと話がよくわからない」
「まあ、自作自演だ。で、ついて行って白竜に襲われて囮にでもなって、襲われて白竜にやられてしまいそうになるとかどうだろうか」
「いいんじゃない。そうすれば楽しいことになるわ。採用」
芽衣子もノリノリで同意する。
「採用って、行き当たりばったりな」
「お姉ちゃん、勢いで何とかなる事だってあるんだから」
「そうなのか? 思えないんだけどな・・・・・・」
「迷っても無駄。人生は行き当たりばったり、何とかなる。私の人生哲学!」
うん、僕が芽衣子の人生哲学に悩まされたことはいっぱいある。
アウトだ。
思い出すだけでひどいことにあったことを思い出すわけで頭が痛くなる。
絶望しか僕の目の前にはないのだろうか。
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身支度を整え、外に出ると熊のように大きな物体がくねくねとしていた。とても不気味で一瞬鳥肌が立った。
「あらん、どうしたの? 女神様、私の顔に何かついてるのかしらん」
色々とついているのだけれども、主に剃りあとが生々しく残った感じの顎の部分。
悪役顔は収まったけれども、化粧を付けてけばけばしくなったオカマバーにいそうなオッサン。
どうして、こうなった。
「ガザックさん。男に戻りたくないんですか」
「そうねえ、いつかは戻りたいとは思う。けれども、今はこれでもいいわ。だって、変わりたいとは思っていたのヨ。凶悪面だとか、山賊の頭みたいだとか散々だったわ。そんな悪評に負けず、冒険者をやり続けてドラゴンスレイヤーになる為、ここにやってきたけれども結果は逃げられる始末。そこで女に変わるとか、道は全然違うけど、昔の自分とは変われるのよ。それっていいことじゃない」
顔は違う方向により凶悪になったけれども。
というか、まだ前のほうがマシのような気がします。
まあ、本人が満足しているのであれば幸せかな。
「んん? 何か迷っていることでもあるのかしらん」
「いいえ」
「少しだけ迷っているわね。反応が一瞬だけ遅かったわ」
「いえ。何も」
「違うわね。迷っている。何も言えないなら黙っていてもいいけど、それならお姉さんの胸で悩むのもいいのよ」
「結構です」
それだけは勘弁してくれ。オッサンの胸で死ぬ。
「心底嫌そうね!」
「当たり前だ。オッサンに抱かれるとか、どんだけ僕を不幸な罰ゲームに押し付けるつもりだって、ああスイマセン」
流石に傷ついたのか、ガザックさんはケバイ顔に涙を浮かばせる。
「お姉さん、傷ついちゃったわ。くすん」
「まあ、お気持ちだけ受け取っておきます。それよりも今日は白竜退治です」
僕の前に怖い怖いコンラート王子殿下と、その部下の一人ソニアさんがやってくる。
「何をやっているんだ。女神殿、あとばけも」
「酷いッ」
何も言いません。
僕は何も言いません。絶対に。
大事なことなので二回思いました。
「ハハ、これから白竜退治なんだ。少しくらいは緊張の前の息抜きは必要だ。ソニア」
「そうですね。殿下」
確かにその息抜きというのは正しい。
けれども僕がしなくてはならないことは白竜退治ではない。
コンラート王子殿下をどうにか誤魔化すことだ。
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