第11話 僕に告げられた謀り事について

 僕は夜空を見上げていた。

 しかし、よくある綺麗だとかロマンチックな幻想だとか、はたまたホームシックとか、だとか楽しいことや時間が解決してくれるようなじっくりと考えれば何とかなる悩みであれば良かった。

 生憎明日までに解決しないといけないことについて頭を僕は抱えていた。


「うん。あの白竜とか何だよ。あの捻りがない黒竜に対しての白。何というか、僕たちに関係していると言うか、アンリさんどこに行ったんだよ」


 白竜とかいう明らかに怪しい存在について。

 コンラートに何だか敵対宣言をして、颯爽と去って行ったあれ。

 とりあえず、戦い自体は明日にするとか行って、コンラートとその親衛隊達は村にある宿で1日は泊まってから早朝に黒竜アンリさんがいたあの洞窟に向かうらしい。

 

 それまでに白竜がどのような存在なのか。別の存在が利用しているのであれば問題なし。それか、アンリさんに関係があるのであれば、口裏やら事後の話を纏めてしまわないと、黒竜の正体にあの殿下が迫ったときに対処が出来なくなってしまう。

 ということを考える必要があった。

 ひとまずはルディアに聞こうと思ったが、気付けば『美少女』をかっくらっていて、べろんべろんに酔っ払っていて寝ていた。

 役立たずめぇ。

 芽衣子は、


「まあ、何も聞いてないし出たとこ勝負」


 何てことを言いながら、満面の笑みを浮かべていた。

 能天気すぎる。


 ということで知り合いの面からの情報はなしの八方手塞がり。


 仕方なく玉無しのオカマにされたガザックさんを宿に放り込んで、僕はルディアの家のテラスで頭を抱えていた。


「ああん、男がほしいわん」

 とかいう理解のしたくないオカマの空耳が聞こえたような気がしたが、どうでもいいことだとおもっているつもりだ。


 怒涛の予想外の展開に逃げようのない展開に頭がショートして、悶々と悩むよりも寝て明日の白竜とコンラート殿下との戦いに参加するしかないのだろうが、心配性の僕は寝ることが出来ずテラスでうんうんと唸るしかなかった。


「アンリさん、本当に帰ってきてよ。酒の介抱したり、オカマの面倒とか、中二病の大魔王とか、もう疲れて明日はもう夢だったらいいのにとか、思っちゃうよ。あと、男だったら女にする魔術をかけるような性格破綻者とか、近づきになりたくない。しかもあの中途半端なオカマ具合。あれは人生がおかしくなる。オカマバーでしか働けない状況とか僕はなりたくないよ」

 想像をするだけで体中に寒気が走る。

 まあ、僕の場合はまだ魔女っ娘な格好があるから大丈夫だから、問題はないけれども。

 やっぱり、嫌だ。

 今はやっとこさ、パッとしないと言われてるような男の姿でいられて、ほっとはしているものの、あの玉潰し王子コンラート殿下がくれば魔女っ娘姿にならなくてはならない。

 こんな人生経験なんてもらいたくないのに、どうして厄介さんのたいおうをしなくてはならないのか。


「それも人生経験としては貴重じゃないのか」


「いやいやいやいや、後戻りが出来ないような経験だとか色々と終わっていますって。そんなの僕は経験なんか――って、アンリさん」


「や、元気にしていたか」


 颯爽と左手を上げた長い黒髪を結った女性はあっけらかんとした声で、アニメに出てくるような昼行灯の上司が挨拶するような気軽さでテラスの手すりに腰掛けていた。

 僕はあっけにとられ、酸素を取り込もうとする魚のように口をパクパクさせてしまった。


「驚かせてしまったかな」

「そりゃそうだわ。いきなり消えて、いきなり現れて。しかも、白竜って何ですか。あれ、何ですか!」


「あれ? 私が魔術で作った質量のある、そうだな、質量のあるざんぞ」

「くだらないことは言わないでおきましょう」

「うまいことを言ったつもりなのだが。まあ、わかりやすく言えば魔術で作った分身だ。2Pキャラでもいいな」

「わかりやすいんですが、微妙に危ないことばかり言うのはやめましょう」

「ふむ、このウィットに富んだトークというのも楽しくはないかね」

「ネタが古いです」

 アンリさんは「え」とばかりに口をあんぐり開ける。


「私は竜だと言ってもそんなに老けてないぞ。ぴっちぴちの17歳」


「あーはいはい。女性に年を聞くのはタブーですね」

 多分ウン百歳キャラだとか言われていたのだろう。あえて聞こうとはしないけれども予想はつく。

 どうでもいい話だとは思うけど。

「すでに君の対応が失礼というか、タブーだと思うのだが」

「はいはい。すいません」

「おざなりすぎないかね?」

「というか、僕以外の酔っ払いに自称大魔王と、話を脱線させるからこんな対応しか出来ないんです」

「みんな楽しいと思うのだが。君だけだぞ。瑞樹君、異世界スローライフを楽しみたまえ」

「じゃあ、せめてアンリさんだけでも落ち着いてください――というか、明日はどうするんですか。この状況。明日、前に戦った洞窟にハーレム王子の部隊がぞろぞろと押し寄せるんですが」

 現実はスローライフじゃない。ハードプレイなり、と。


 アンリさんは余裕の笑みを浮かべる。


「簡単だよ。白竜でまたやられてフリをする――ああ、睨まないでくれ。ゾクゾクする」

 なんだよ、このドMさん。しかも、その顔が結構そそるとかやめてほしい。

 僕は精一杯平静を保ち、息を吐く。なるべく嘆息になっているだろうか。

「で、何ですか。本当の策は」

 アンリさんはどや顔を浮かべ、にやりと口元をゆがめた。


「白竜には死んでもらう。本当に戦ってもらって、やられてもらう。なるべく派手にやって、派手に倒れてもらう。明日は大変だぞ」

 

「まあ、わかりやすい作戦ですね」

「そうだそうだ。簡単な話だろ。王子様にはドラゴンスレイヤーになってもらうおう」

 簡単にいくかどうか、は不明だけれども。


「ところで私に顔を真っ赤にする。男の子だね。そうだな、襲ってもいいんだぞ」

 

 どうして、僕の周りにはろくでもない女性しか集まらないのでしょうか。





 




 

 

 

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