第8話 僕は男ですよ。女の子じゃないですよ
空には太陽が輝き、すでに中天になろうとしているところの昼。
村の門の前、街道近くで僕は手を握りながら、ある人を待つ。
体をぶるぶると震わせ、唇もわなわなと同じように震えている。
そして、頭の中で言葉がまとまらず、白紙の紙がばらばらと舞い踊って、その紙の嵐の中で立ち尽くしていると例えたら方がいいだろうか。
「うん、どうすんだよ。気持ちが昂ぶってしょうがないのにさ。でも、残念がっている自分がいる。それは仕方ないのだと思うのだけれどもこんなにも相反する感情がいるととっても辛いなんていうのは知りたくはないのです。コンラート様、男の魔術師。僕は貴方を待ちわびているのです」
変わりに独り言が勝手に口からこぼれて大変なことになっている。
けれども、それを僕は抑えることが出来ない。
そういえば、頬が熱くなっていて、頭もゆだっていて微熱のような感じになっている。
「お兄ちゃん、男だよね」
ジト目の何かよくわからない自称大魔王が変なことを言っている。
「そうさ。僕は男さ。完全無欠の。顔は女顔とよく馬鹿にされてしまうけれども、男らしいところもある。表情がたまに男らしいと言われてしまう凄い男さ」
「でも、そのぽえみぃな言葉と顔がとっても乙女なのは私から言ってもいいことかな」
「どこがでしょうか」
「いや、どこからどこを見ても。しかも、どうして魔女っ娘な金髪ツインテールなんでしょうか。しかも、その両手を合わすのはどうみても恋する少女」
「いや、これは体が勝手に」
「あとさ、堂々とパッとしない男の子の姿で待ってしまえばいいと思うのは私だけ?」
それを言われると僕は少し苦笑いを浮かべたくなるものの、グッと堪える。
でも、仕方ないじゃないか。
男アレルギーとか、自分が男なのにアレルギーとか。まあ、色々と言いたいんだけど、仕方ないわけで。
となるとこの魔女っ娘な格好で会った方が良いわけで。
本当は僕だって、偽りのない格好で会いたいわけですよ。パッとしないとか、女顔のへなちょことか言われてしまう男としてでも会いたいわけですよ。
「まあ、仕方ない。あのキザ王子は男に触られると顔が真っ青になって、その後土気色になっちゃう。ぎりぎり父親の王様や第一王子様とは付き合うことが出来るらしいのだけれども第二王子様が筋肉だるまのおっさんみたいな顔とは顔を突き合わせると、もう大変なことになったことがあるのよ。呼吸困難? だっけ、それくらいになって、気絶したことがあるのを私は見た。あれは面白かったわ。うん、あれは凄かった」
ルディアの顔がとても腹黒くて、正直見せられない顔になっている。
それほど痛快だったのだろう。うん、ルディア最低だ。
「何か酷いこと思っていないかな。ミズキ」
「いいえ、何も。これっぽっちも」
「本当に。私の目を見て」
「酒で目が濁ってる。これはきちんと禁酒をして、体を健康にしてくださいとしか言いようがないね」
「私のことじゃないよ!」
涙目で答えるルディア。
正直な感想を僕は言っただけです。
「まあ、お兄ちゃんのいう事は真実だろうけど」
「私の扱い酷くない? メイコちゃんも!」
「ん~どうでもいいカナ?」
うん、芽衣子の方が扱いが酷いな。よって、僕の話はどうでもいい。
「何かすねたいから、私は『美少女』飲んで、私は寝てこようかな」
ふて腐れた酒飲みエルフがお豆腐メンタルに傷ついたのか、何処からともなく『美少女』の一升瓶を取り出す。
「じゃなくて、コンラート王子様がここにくる事について、いつくらいにきそうなの?」
珍しく芽衣子が大切なことを言ってくれた。
「そう、それだよ! 今日来るって話でしょ! しかも、黒竜退治とか!」
「あれ解決したって話は通っているから、来ないとは思うんだけど」
「でも、連絡がない。なら、まだ黒竜の話は王都にはついていないとか」
「それはないかな。ギルドには魔術具を使っての通信網がきちんとある。君達の世界の電話? だっけ、それと同じくらいの情報のやり取りをギルド支部は出来る。そのギルドとの情報網を国が持っていないという事はないはず」
では、何故こちらに来ないという連絡が来ないのか。
という疑問が生まれる。
「実は自分の先生だったルディアに派手に連絡をしたのだから、見栄を張って来れないとか言えないとか」
「うーん、それはないかな。あれがコンラートにとっては普通だから」
「え゛っ、あれが普通」
芽衣子がちょっとどんびきとばかりに顔をしかめる。
まあ、魔術を使って、自分の姿を投影して自信満々に報告するのが普通とか、あまり考えられないのは僕も同意だ。
「流石に同じことはしないだろうけど、手紙くらいは寄越すとは思うわよ。文章はキザったらしくはなりそうだけど」
あ、何となくそれはわかる。
「色々とごてごて言いながら、言い訳する。それはそれで」
「それとはなんでしょうか。ルディア師匠」
「ひっ」
ルディアのひくついた声。それは会いたくない天敵にあったときのねずみのような声。情けない悲鳴。
これで凄腕の魔術師だというのはいつも信じられない。
そのルディアの悲鳴を聞かせたのは、
白馬に乗った天然パーマの茶髪のちゃらい感じの男。ただし、物腰はとても柔らかく、上品でまさにそれは上流貴族というか、王族らしい気品に満ちた青年だった。
彼は後ろに数十人の親衛隊らしき女性を引き連れてやってきていた。
「あっ、貴方様がコンラート=スミフェミア王子様でしょうか」
声が上ずっている。
しかも、何の礼もとらずに僕は前に出た。
その軽挙にブルネットのショートカットの女性騎士が無言で僕に剣を向ける。
突きつけられた剣に僕は表情を凍らせてしまう。
「無礼者。この方を誰だと思っている!」
「良い」
それは女を篭絡させる甘いマスクを思わせ、騎士の目が一瞬ハートのようになったように思えたが、今の自分がどのような立場なのか気付いたのか後ろに下がる。
僕はそれに憧れのようなものを感じ、両手を組む。
「どう見ても、その姿は恋する乙女。女の子」
芽衣子さん、僕は男です。女の子じゃないです。
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