第7話 僕が男の魔術師と出会うのは間違っているのだろうか

 忌々しいとばかりにはき捨てるその姿は新鮮だった。

 あの常に酩酊して、残念な雰囲気をかもし出している香ばしいエルフが歯軋りをしそうなくらいに嫌な顔をしているなんて、まだ知り合って1日も経っていないのだけれども見せたことの無い表情だったから。


「何かあったんですか?」


「色々あったのよ。そう、アイツ男の癖に魔術師だし、私よりも魔術を扱うのがうまいし。これでも私は結構魔術の才能あったのよ。だからさ、この国の第3王子に魔術の才能があるって言われててもさ、エルフでも才能があった私が教えても超えられるとか、まずないわー。次に顔がイケメン。私だって、結構イケル顔をしているのに、あいつには負ける。しかも何ですか、第三王子とかどう私が超絶美少女エルフだとしても財力は負けるわけですよ。これって、ないと思わないかな、ううっ、うえっ」


 うん、『美少女』持ちながら言う台詞としては似合う。でも、絵にはならない。自棄酒飲む女の姿なんて汚すぎてモザイクかけちゃいたい。

 顔は自主規制かけたくなるような泣き顔に一升瓶をラッパ飲み。これは急性アルコール中毒とかで死んじゃうコースじゃないかな。


「うんうん、まあ、落ち着きなさい。ほら、お酒もう一升瓶用意したから」

「うう、頭痛い。でも飲むの~」

「わかったわかった。もう少しやるから」

「うえっぷ。私だってね、色々やったのよ。自分も努力してエルフとしての能力を高めようとしたのよ。そのけなげな努力をアイツは、笑いながら追い越していくのよ。それって、ありなの?」

「はいはい。わかったから落ち着きなさい。はーい、お酒ですよ」

「うえっぷ」

「もう、アイツどれだけ恵まれているのよ。男の魔術師って本当にいないのにさ。おかげで私は魔術師としての誇りを失っちゃってさ。国の端ともいえるこの村に国境警備という形でやってきてさ。まあ、近くの山がかなり険しいからどうとでもなるし。あー警備が面倒だから、竜を召喚したら、私を堕落させる米酒、美少年を持っているわけで」

 ルディアの顔は真っ赤。しかも目が据わって、大変なことになっていた。

「はいはい。その辺にしようね。色々と話が伸びて、話が終わらないパターンになっているが」

「いやだいいやだい。話はまだ終わらない。でもって、黒竜とか、噂立つかなーってやりすぎたなとか思ったら、噂が立ちすぎて冒険者はやってくるわ、コンラートがやってくるわ。私が何をやったんだよ。仕事の効率化を図っただけだよ。それが何よ、噂が立って、近くの大きな町の住人が不安がってって、何も被害は出していないのよ。そりゃまあ、びっくりさせたかもしれない。でもね、でもね、モンスター退治したりとか結構やったのよ。それを見られたら、まあうん・・・・・・やりすぎたかもぉ。あとは大魔王っぽいのとかとか女神を呼んで収拾収めて村おこし――」

「そこははいはいちょっとやりすぎちゃったね。人化の術で村人と交渉してあとは適当にやればよかったね。お話は終わりだなーあーうん」

「うん、そうだね。吐く。ここから吐くリバ」

「そこに吐こう。うん、そこなら大丈夫」


「微笑ましいやり取りね。お姉ちゃん」


 僕をお姉ちゃんとか言う芽衣子の発言とか、目の前の酔っ払いの酒乱を酒で押さえ込む状況はむしろカオスだとか、思うことは色々あるけど、ぐっと僕は言葉を飲み込む。

 どうやら、芽衣子や僕を利用して村おこしとかしようとしていたとか、もう色々と最悪なことを企んででいたとか、呆れるしかないけど。

 ここで僕が状況を収拾しようとしてもわけがわからなくなるだけだという事はわかる。

 まずはここから逃げ出して、よく考えてから状況を考えてみたほうがいい。視点を変えて、冷静に考えたほうがいい。KOOLになったほうがいい。

 そうだ、KOOLに。

 OK。僕の頭はKOOLになる。

 頭の中をよく整理し、男の魔術師に会うことが出来る。そこで僕のことをきちんとアピールする。

 それだけで僕の願いは叶う。このとても恥ずかしい魔女っ娘スタイルからおさらば出来るかもしれないチャンスがすぐそこに迫っている。

 KOOLになれ。僕。

 そして、ここから逃げ出して酔っ払いの介抱とか任される前にどこかに逃げて。


「瑞樹おねえちゃん、凄くパニックってないかな。多分英語間違えるほどに」

「僕の考えていることを読まないでくれるかな!」

「お兄ちゃんの考えていることなんて結構簡単にわかるよ。結構顔に出てるし」

「マジで!」

「うん、マジ。本気とかいて、マジ。男の魔術師マジシャンになれるかもよ。同じマジだし」


 変な風が吹いた。


「そ、そうだね」

「ちなみに親父ギャグかましているから、ツッコンでくれないと私泣いちゃうから」


 なら、言わないで下さい。僕も何も言えないから。


「ま、まあ、そんな感じの王子様。あれはアンリから聞いたんだけど、リア充って言葉が本当によく似合う男よ。弱点はあるけれども」

 それは本当に大切なことらしく酷く真面目な顔をして、右手の人差し指をルディアは立てる。


「弱点とは?」

 ごくりと、僕は唾を飲み込む。


「男アレルギー」

 

 何か、色々と才能はあるのにすべてを台無しにしている弱点だった。

 というか、


「僕は男の魔術師と出会えないってことだろうか」

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