第3話 僕の人形は舞踏会に間に合う
「聞いてない聞いてない聞いてない」
壊れた人形のように僕は叫んでいた。
というか、そうでもしないと自分を保っていないと言うのが真実だった。
黒い鱗に覆われたトカゲの様な姿。その背には蝙蝠のような皮膜に覆われた2枚の翼。
だが、サイズはショベルカーを一回り大きくしたようなサイズで僕なんて一口で食べてしまいそうな巨体だった。
一言で言えば、歩いて飛ぶ小さな要塞。
『ふむ、何を考えている。小さき蛮族もの共』
それでいて、人間程度の知性を持っている黒竜。
考える要塞。
僕は酷い罠にかけられたのではないだろうかと思ってしまう。
「ルルルディアさん、僕いきなりこんなところ連れてこられてもどうしようもないのですよ」
「いやー私の呼んだ女神様だし、異世界の魔術でちょいちょいと何とかなると思っているのですヨ」
「ちゃうわー! 僕は女神様じゃなくて、魔女の卵だし。期待されたって困るわけだし。魔術使えるったって、そんなことできるかどうかは知らんわけだし」
「え、ちょっと・・・・・・それって罠」
「何を言っているんだ今更」
色々とつっこみたいが、今のところ目の前の黒竜を何とかしなくてはならないのだ。
『お前らは何を言っているのだ』
「ええええっと、そのあのえーっと」
「こここ声ふふふふううう震えええているよ。女神様」
ルディア、あんたの方が震えている。ちょっと落ち着け。
パニックに陥っている人間がいればもう一人は冷静になれるというのは本当だっただろうか。
「ひーひーふー」
お約束のラーマーズ法はやめてください。
何て馬鹿エルフ《ルディア》をみていたら頭が冷えてきた。
山をくりぬいた洞穴の奥、そこには黒竜が貯めた黄金に輝く宝物。その中にはさっきも見たゴーレムも鎮座していた。
銀色に輝いていて特注、貴族の持ち物であったような感じのする高級感のする巨躯が宝の山を守るように座っている。
あれなら、使えるような気がした。
「ふぉっふおっ、魔女っ娘よ、やはり、運命には勝てぬのかのう」
うん、やる気うせるよ。
白髭つけた芽衣子さん。しかも何か白いローブつけて怪しそうにしているけど、声で丸わかりです。
「おおっ、何かよくわからないが怪しい爺さんが現れたぞ」
ガザックさん、傭兵の皆さんそれだけ興奮して頂いてもあれはただの小娘。僕より一つ年下の16歳。知能もそんなに良くないお馬鹿さんですぞ。
しかも何か怪しそうな顔を髭で隠しているけれども色々とバレバレな感じなのに。
『何という賢者のような姿』
黒竜あんたもか。
僕泣いてもいいかな。
ノリ良すぎて、色々とツッコミが追いつかないし、どうにかしてくれないかな。これ、僕がいなかったら、収拾つかないような気がするのは気のせいじゃないよな。
「しかし、それは仮の姿! 私は」
バッと芽衣子が姿を隠していたローブを脱いだ。
するとそこには申し訳程度に黒い蝶のような仮面をつけた黒ゴス風の装飾過多な厨2風ドレスに身を包み、黒い日傘を差した痛い芽衣子の姿が――
「まあ、お姉ちゃんもそんなに変わらないよね」
「そこで僕の心を読まないでくれるかな!」
しかも色々と空気呼んでよ。今、結構いいところだよ。
「だって、顔に書いてあるから」
「そうだネ! その顔、物凄くわかりやすい。私がお酒の見たいって顔をしているくらい」
『うむ、とてもわかりやすい』
素に戻ってフルボッコとかやめてくれないかな。
あと、黒竜さん色々とキャラおかしくないか。
「まあいいや――私はそこの女神の永遠のライバル、大魔王!」
『だが、何故ライバルを助けるようなことを言うのだ?』
「笑止! 私があの女神を倒すのだ。お前のような小者にやられるなどあってはならぬ!」
『何だと、我を小者だと? 小さき蛮族よ! まずは貴様から葬ってやる!」
黒竜が咆哮を上げる。
背筋を凍らせるような恐怖を感じさせる威圧を込められた力ある声に、身が縮こまるような感覚が僕に押し寄せてくる。
しかし、芽衣子は口元に笑みを浮かべ、その咆哮にはびくともしない。
黒竜は一瞬面白いという様に動きを止め、さらに口から竜らしく炎を吐き出した。その色は自然らしからぬ黒々としたもの。
「面白い」
芽衣子こと、大魔王はバッと持っていた装飾過多な黒い日傘を差して、黒炎を止めた。
「すごい。あの大魔王って、凄いんですね」
「多分あれは格好をつけているだけ。傘でうまく隠れているけど、口元が相当ひくついているだろうし。頭の中は多分どうしようとか考えている最中」
「わかるの?」
「そりゃまあ、3年くらいお世話になっている下宿の先のアパートの一人娘ですから。ある程度は」
その間に色々と振り回されたなあ。
しかもあの強そうな黒竜の黒炎を防ぐくらいの本人の魔術の才能があった。
そして、魔女である僕の母さんの手ほどきを受けて、気付けば魔女としての才能を開花させた。
であれば、よかったものの、気付けば大魔王とかわけのわからない事を名乗って僕という魔女っ娘のライバルとか言い張って、町では大迷惑をかける。
まあ、被害はそんなに無かったから、町の皆は今のルディアや傭兵たちと同じような反応をしていたような気がする。
思い出すだけで眩暈がする。
「まあいい。今がチャンスだ」
「いやまあ、あの大魔王さんと黒竜が戦っている間に汚いと」
「そんなことを行っている暇は無い」
僕はルディアを黙らせるとそろりそろりとさっき見つけたゴーレムの近くによる。
ずんぐりむっくりした寸胴鍋を組み合わせたような不細工な銀でできた彫像に見えるその姿。
そいつに僕は右手で触れる。
「一体何を。ゴーレムは動力源の魔石に魔力を入れないと動かないわ。しかもこれは特注品のようだから、魔石も相当良いものじゃないと動かない。多分黒竜に魔石はくりぬかれているだろうし」
確かに魔石らしきものがあった額にはくぼみのようなものがあった。
その下の顔はマスクをつけた人形にしか見えなかった。
「有能な女神様なんでしょ。僕は」
「確かにそうだけど、魔石がないとゴーレムは」
「そんなものは僕の魔術で代用できる」
それこそが僕が魔女であることを証明させる力。
そして、男の姿では使えないある意味コンプレックスの元。
ステッキをゴーレムの額に向け、白い魔力をぶっ放す。
「踊ってください。私の人形。踊って踊って、舞踏会で華麗なるステップを舞い踊りましょう。私の相手をして下さいな」
「人形師、これこそ、私のライバルの力。人型をした人形を操る力。さあ、力を見せてみよ!」
芽衣子がそんなことをほざいている。
僕は知っている。
半泣きでべそをかいているのを。
色々と引っ込みがつかなくなって、それっぽいことを言って誤魔化していることを。
「やれやれ。僕はいつも芽衣子の尻拭いだ」
「ちょっ、動いて。あれ、ゴーレムの顔が女の子みたい。しかも、スリムに」
あと、この力使いたくない理由がある。
大抵僕の魔術で力を与えて動けるようにすると、何故か女の子みたいな姿になってしまう。
今もゴーレムの姿は銀色の女性の彫像のような姿で、スカートをはいた様な姿になっている。
まあ、今はどうでもいいことだ。
「さあ、舞踏会の準備はよろしいでしょうか。黒竜様」
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