第5話:相合傘

 一つの傘の中で今朝知り合った人と

肩を寄せ合うだなんてきっと昨日の私は想像もつかなかっただろう。

 割と幅が広い、四人は並べて入れそうな畦道を私達は歩いていた。


 私が自転車を押して歩いて、そんな私の横で傘をさしている彼の左肩は随分濡れていて、

ワイシャツからその部分だけ肌が透けていた。

 でも彼はそんなことなんか気にもとめずに私の方ばかりに傘をさしてくれていた。


「ねえ。昴くん……肩」


 と私が口を開くと、彼はやっと気づいたかのようなフリをしてあははと笑う。

「女の子を濡らす訳にもいかないでしょー。

 俺だって男なんだよ? 」

 そしてその後に、昴くんなんて初めて呼ばれたなあと付け加えてまたふにゃりと笑った。

 彼は最初の堅いイメージとはずっと真反対でずっと柔らかい表情をする人だった。


 前髪が濡れているからか目元が見えやすく、その隙間から彼の瞳を見つめてみる。

 凄く透き通った、物事を見据えているかのような透明感を持った黒い瞳は私の心をぐっと掴んだ。


 彼は童話の中に出てくる王子様みたいに、綺麗で輝いていて。そんな彼に少し壁を感じている自分もいた。

 しばらく見つめていると彼は目線をこちらに向けて首をかしげる。


「俺、なんか変? 」


 予想していた通りの質問に私は思わず笑ってしまい

「うん。すっごく変だよ」

 そう悪戯心で彼に顔を向けずに返してみて様子を伺ってみると、膨れっ面をしている彼と目が合う。その姿がなんだか可愛くて私がまた笑うと彼もつられてしまって二人で笑いあっていた。

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