第1話:梅雨と私
梅雨時の住宅街はやけに湿っぽく、
道にはぽつぽつと小さな水たまりがあり、鉛色の空がよく映ってる。
周りには青と紫の紫陽花が道を挟むようにして咲いていて、
そんな紫陽花にも昨夜の雨からか水が滴っていた。
周囲の風景を全部切っていくように
錆びた自転車をキーキー漕いでいく。
天気予報曰く、今日は曇のち雨らしい。
生温く湿ったなんとも言えない気持ち悪い風が頬を撫でていくように過ぎていく。
まだ登校時間にも余裕があったが少し漕ぐスピードを速めるために信号のとこで一旦止まって、ギアを一段階上げた。
カチンと鳴り、自転車はキーキーと鳴り出すスピードが上がる。
別に焦っている訳でもない。というより
学校にいる時間が長くなるだけなのに私は速く漕いだ。
自分でわかってはいるけど気分がそれを押さえ込む。
ある程度漕いでは立ちあがり漕ぐのを一旦やめる。
立ち漕ぎしてまで求めるものは何も無いけれど
風がさっきよりずっと気持ちよく感じる。
緩やかな傾斜の坂を勢いで上って、右に曲がる。
そうすると決して綺麗とは言えないけれど
小さいながらも校舎が見えてくる。
その小さい、まるでおもちゃのような小ささの校舎が進むにつれてどんどん大きくなっていく。
そして坂を登りきった後、スピードを少し落としてから校舎裏の駐輪場を目指した。
薄暗いじめじめとしたここの駐輪場はいつも空いている。
ここの高校に通う生徒は大体バスか歩きでの通学が多い。
むしろ自転車が珍しいレベルで、今日は三十台あるかないかだった。
全校生徒が六百人もいる中でこれしか自転車がないと考えると、このだだっ広い駐輪場に対して悲しささえ感じる。
スタンドを下ろし、鍵をかける。
そしてコツコツとローファーの先を鳴らす。
何だか今日はいつもより少し気分が違う。
だけどこれから始まるのはいつも通りのつまらない日常で。
上履きを履いた後、いつもは下駄箱付近の階段から上がるが、
今日は珍しく職員室を通り、すぐそばの階段を上がった。
いつもとは違い目の前に教室があるのは少し新鮮だった。
からからとドアを開け、目線を下げる。
人と目を合わせるのがいつしか苦手になっていてこれが癖になっていた。
席は教室の端っこ。その席になりたかった理由は隣が居ないから。
出来るだけ、人と話すのは避けたい。たったそれだけの理由。
いつも通りに座ろうとしたところで
私は思わずぎょっとした。
いつもは私の隣の席は何も無いはずなのに
そのスペースに真新しい机と椅子が置いてあったからだ。
徐々に教室の人が増えていくにつれ、周りが騒ぎ出す。
そして無機質なチャイムと集まったクラスメイトのどよめきが重なった。
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