【1分読み】『いちゃラブホラー』彼とあたし

 朝、初めて泊まった彼の部屋。

 彼の腕の中で夢見心地だったあたしは、窓の外の声で目を覚ました。


 初夏の気持ちの良い朝。開け放たれた窓からの優しい風がカーテンを膨らませている。


 日曜の朝。正面の戸建てのお家から、まだ幼い子どもの声が聞こえてきた。

「パパー、パパー」とお父さんを呼んでいる甘えた声。まだ言葉が出てこない年齢なのか、ずっとパパ、パパと呼んでいるのがとても可愛らしかった。


 隣を見ると彼も起きていた。


「おはよー」


 そう言ってキスをした。

 とっても幸せ。外の子どもの声を聞いてると、彼と一緒になった未来を想像してしまう。

 子ども好きの彼だ。良いお父さんになるだろう。


「ねぇ、前の家の子どもさん。可愛らしいね」


 私が笑いかけると、彼は首を傾げた。


「子ども? 前の家に確かに男の子はいたけど、二年前に事故で亡くなったから、今は子どもなんていないはずだけど」


 それに、と彼は続けた。


「俺には声なんて聞こえないけどなぁ?」


「う、嘘でしょ? 」


 急に背筋が寒くなる。そんなあたしを抱き締めて彼は言った。


「嘘だよ」


 むきー!と叫んであたしは彼の肩に噛み付いた。



 終

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