Ep.43 貴族嫌いのエクソシストⅠ

 数日後、クローチェはクレールの慌てた声で目を覚ました。ただでさえうるさい彼は更にうるさく喚き散らす。


「なんだよ……朝から」


「クローチェ様! 早く起きてください!」


 ベッドから引き擦りおろされ、無理やり立たされた。エルンストも手伝ってようやくクローチェは歩き出す。どうやら連れて行かれるのは教会の正門。


 段々目が覚めてきた。


「なんだ、悪魔でも来たか? あの黒髪ボザボサ執事またか」


 我ながらこの悪口は的を射ていた。クレールが笑いを堪えられずに吹き出した。


 エルンストは呆れたようにため息をついたが――。


「違います、クローチェ様。……本部から使者ということなのですが、是非クローチェを呼べと。向こうは『教会総統』と名乗っているんですがなにぶん若いものですから」


「若い?」


「ええ、十八歳と言っています、若い青年です。声だけしか聞いていませんが、そんな若い人が教会総統など、嘘に決まっています。そもそも教会総統がわざわざ来るなど、隣国から遥々来るようなもの。私は返そうと思ったのですが向こうは聞かないのです。顔を見せろと言ってもこの場では見せられないから、『中に入れろ』の一点張りですし、連れているのはたったの三人。タチの悪いイタヅラでしょう」


「若い教会総統……」


 クローチェは急に足のスピードを速めた。


「ちょっと、クローチェ様!」


 エルンストの言葉を聞かず走り切る。


 もしかしてもしかすると――。


「着いた」


 教会本部の使者は門の前にいた。


 黒いたてがみの馬が二頭、白い馬が一頭。白い馬の後ろには客車がある。黒い馬が白い馬を囲むように立っていた。男二人と女が一人。腰には剣を指していて、みな同じ黒い軍服に身を包んでいる。クローチェはそれを一目見て察する。


「お前らか? 教会からの使者とは」


 彼らが身に着けているのはノービリス軍の専用軍服。隣国の軍隊が一介の教会に顔を出す機会はなかなか無い。


「お前がクローチェか?」


 迎えに来させたのはこっちなのに、横暴な態度。


「俺はここの教会統括、クローチェ。俺の部下はお前たちのことをイタヅラと疑っている。その態度を改めていただければ、こちらもそれ相応の対処をしよう」


 向こうは俺の言葉に警戒の体制を取る。


「それに客車の偉いお方は、顔も見せてはくれないのか。更にイタヅラだと疑わずにはいられない」


 やれやれと大袈裟に呆れた態度を示すと更に向こうは武器を持ち上げた。決定だ、向こうには敵意しかないらしい。出て行ってもらおうか、そう言いかけた時、客車が急に開いた。


「だから俺は初めから馬車ではなく、馬に乗ってここに来たかったのだ。俺は自分の身は自分で守れるよ、そんなに警戒しなくても良い」


 中から現れたのは確かに若い青年だった。


 短く切り揃えられた黒髪、柔和で優しそうな少し幼い面影を残す黒い瞳。周りの部下と同じデザインの軍服に身を包んだ細身の体。色だけ違うその軍服は太陽を照り返すほど真っ白で塵一つついていない。それがよく彼に映えていた。


「殿下、ですが」


「大丈夫だよ」


 部下は不安そうに心配するが、当の本人はへらへらとしている。ぴょん、と後ろ髪が飛び出ているのが見えた。


「殿下、寝癖がついています」


「え? また?」


 さっきのとは違う部下が隣から声をかけた。若い女の人だ。


「クローチェ様、早いです……ハァ」


「やっと追いつきましたよ」


 クレールとエルンストがやっと追いついた。走ってきたからだろう。息が荒い。

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