Ep.16 私が知らない彼の秘密

 デファンスはアンジェリカのニヤリと笑った顔を見ながら、心臓が高鳴るのを感じた。


「そ、相談って……」


「そうよ。私はだいぶ長生きしているからね、相談にも乗れるわよ」


「そ、それより! ロドルは大丈夫なんですか!?」


 デファンスは強引に話を変えた。


 オーナー、と名乗ったこの女の人は、多分ロドルが言っていた「ちょっと変わった魔女」ということだろう。確かに独特の雰囲気がする。アンジェリカは口をとんがらせており、案外子どもっぽい人だという事も分かった。


「……普通なら全治一年は取りたいんだけど、この子は人間じゃないし、多少の回復力はあると思うわ。ただね」


 デファンスはロドルをちらりと見る。


「これで動けるのが既にバケモノね」


 アンジェリカはロドルのシャツをペラリとめくった。


 そこには何重にも巻かれた血が滲んだ包帯と、上に貼られた魔法陣。血のような赤いインクで描かれた魔法陣は、不気味に鈍い真っ赤な光を発している。


「絶対にその魔法陣を触っちゃダメよ」


「いつの傷……」


「全く! また、止血だけして自然治癒に頼ったのね! 治癒魔法が使えないくせに!」


 アンジェリカは呆れ顔。ロドルって治癒魔法が使えないんだ、とデファンスはふと思った。


「とりあえず傷の状態を見ないと」


「え!? 見るんですか!」


「見なきゃどうすんのよ!」


 アンジェリカはロドルに巻かれた包帯に手をかけ、グッと引っ張った。


 見ているだけで痛そうだ。


「傷が開いたら死んじゃいますよ!?」


「大丈夫、大丈夫、この子は死なないし、これぐらいじゃ痛くもないでしょう」


 お腹がザックリと切れていたが、ロドルの顔を見ると穏やかに寝ている。死んでいるのではないかと心配になる。


「貴方は部屋から出てなさい」


「でも」


「やれることはもう無い。出て行きなさい」


 冷たく言い放つ。


 デファンスはナンシーに連れられて、店のカウンターに座った。任せたほうがいいんだろう。でも、なんで彼はこんなに酷い傷なのを黙っていたのだろう。


 それが一番嫌だった。

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