第232話:求められすぎる、覚悟。❶
[星暦1554年11月10日。王都キャメロット。選挙大戦準決勝。黙示録騎士団[ホーム]VS聖槍騎士団[アウエイ]。」
「さあ、これにて千秋楽であるな。」
「ええ。」
凜が開始戦に立つと慶次が声をかける。
かつて慶次は「傾奇者」と呼ばれていた。
芸事を好みそれに金や時を費やすものを『数寄者』といい、それを超えて没頭する者を『傾奇者』と称したといわれている。
いわゆる桃山時代、天下の鄒勢は決し、武によって名を挙げようとする者たちにとっては不遇の時代に差し掛かっていた。
もちろん、庶民にとって戦乱が終わることは良いことであった。そして、動乱の時代に取り残された者たちもいた。それは、己の武芸によって立身出世を夢見る若者たちの中で、行き場を失い、篭ったエネルギーははけ口を求めて渦巻いていた。
芸事に情熱を燃やす若者もいれば剣術など個々の武術で名を挙げようとする者もいた。さらに名だけ挙げようと奇怪な格好や行動に走る者たちもいた。
そんな中で慶次も言わば「無骨を囲って」いたのである。得意分野で出世する夢を絶たれた世界。だからこそ、慶次にとってはこの時代には同じものを見出し、もっと面白いものにも見えたのだ。
慶次はさらに言った。
「天下は今や二分されるだろう。凜殿。貴殿が王権を盾に自説を押し通されるか。それともテイラー卿が自我を押し通されるか、民草の耳目はそこに集められておるのだ。」
慶次はかつてできの悪い叔父であった「犬千代」に自分が継ぐはずだった家督を奪われた日を思い出していた。あの屈辱、そして失望。彼が慶次より優れていたのはたった一つ、「人の顔色をうかがう」能力だけであった。よってテイラーの失望と怒りは慶次にとって十分に理解できるものであった。
リックに近づいたのも、当初は凜という人間を見てみたかったからでもある。凜はどう見ても「凡人」にしか見えなかった。そして、まごう事なき凡人である。今回、慶次は一度手合わせをして凜の価値を図ろうとしていた。
「慶次さんは『こちら側』で戦うおつもりはないのですか?」
凜は開始線に立つ慶次におもむろに尋ねた。慶次はにやりとした。
「ほう、ここで誘いをかけるとはなかなかの戦上手。ただそれがしは勝ち馬に乗るのがどうにも不得手でな。どうしても、自分が不利に追い込まれれば追い込まれるほど心が沸き立つのものよ。」
二人は互いに螺旋を描きながら戦闘開始高度まで上昇を始める。
「では、前田殿、あなたはリックの妹が貴卿の騎士団に拐われたのをご存知でしたか?」
凜の問いに慶次が表情を変える。
「なに?どの妹御じゃ。」
「ロレーナです。」
一瞬、慶次の動きが止まる。
「真か?」
凜は問いには応えず、
「ええ。ご心配には及びません。先程『手の者』によって取り戻させていただきましたがね。なぜ、ロレーナをすぐに狙えたんでしょうね?」
慶次は問いの意味を咀嚼するのに少し時間を要した。
「なるほど。それがしはいいように使われた、と言いいたいのだな?」
慶次は笑う。
「左様でござるか。ではそれがしが仕官するに値するのは誰なのか、見てやろう。」
「第一天・
慶次のパワーが増す。
「三式・
慶次の繰り出す槍を凜は次々とかいくぐる。凜とてここ5年の「騎士」生活でかなり戦闘能力は向上しているのだ。
(ほう、これはなかなか。)
「第三天・夜摩天」
慶次が技スキルを宣告するとフィールドを薄闇が覆い、暗さを増す。
(なんだ、これは?)
地面から裸の美女たちが出現する。そして、フィールドは頭がクラクラするようなフェロモン臭で満たされる。
(18禁
その美女は凜の好みの女性に誂えられているのだ。
(どうですか?凜、童貞の身体には毒でしょう?)
ゼルのささやきに
「おいおいゼル、いったいお前はどっちの味方なんだ?残念ながら俺には効かない。このネタは⋯⋯」
最後はゴニョゴニョと歯切れが悪い。
「やった事があるんですね。その、
マーリンがつぶやいた。そう、凜たち
(ここでは終わらんよ。)
裸の女性の一部がメグやリーナと言った凜の知己の女性に姿を変える。ちなみにテレビでは不適切な表現であるためモザイクがかけられる。ただ、まだ彩色されてはいないのでぎりぎりセーフではある。
「い、いやだ。」
自分の姿に気がついたリーナが恥ずかしさに顔を覆う。
「ウチ、そんなに垂れてへんで。もっとピッチピチのプルンプルンのバインバインや!」
反対にロゼは抗議の声を上げる。
やがて無色の女性に色が差され始める。観客席が騒ついてきた。
「これはアカンやつだな。技・
凜はたまらず「
「ふう。何という恐ろしい攻撃だ。」
リックが前かがみになりながらつぶやく。
「そう、人は快楽に弱い。痛みよりもな。」
慶次の攻撃は続く。
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