第227話:オレ流すぎる、騎士道。❶

[星暦1554年11月10日。王都キャメロット。選挙大戦準決勝。黙示録騎士団[ホーム]VS聖槍騎士団[アウエイ]。」


 準決勝。第一セットは地上戦デュエルである。


 互いに1勝1敗で迎え、中堅で出場したリックは奇しくも慶次と対戦することとなった。

 誘拐犯からの次の指示は「なるべく自然に負けること」であった。正直悔しいが、まだ幼い妹が、親から引き離されて寂しく、怖い思いをしているとなるとリックは居ても立っても居られない気分であった。


「自然に負ける?簡単なことです。私が憑依ポゼッセオしなければいいだけのことです。」

このゼルの宣告にリックはがっくりとする。

「すると自然に俺が負ける、⋯⋯ってひどくない?」


ゼルは困ったような顔を浮かべた。

「でも現実はもっと残酷です。今、ナベちゃんがロレーナの行方を必死に捜してくれています。でもさすがにプロですね。なかなか尻尾をつかませてはくれないようです。」


 普通の犯罪者は大抵「義眼ラティーナシステム」に頼って犯罪を犯す。一般市民の目撃情報はシステムに一時的に保管されているため、それを抽出し、併せていけば。簡単にに足がつくのだ。しかし、足がつかない、ということは、犯人グループが自前の連絡システムを構築していることになる。


「海賊⋯⋯ってこと?」

「いいえ。おそらくは黙示録騎士団の息がかかった組織でしょう。手口が鮮やかすぎますから。」


リックは開始戦で慶次と相向かう。

「ご両親はご健勝か?弟妹たちは達者か?

屈託ない表情で慶次が尋ねる。リックが肯定すると、それは重畳、と笑った。(この件、どうも慶次さんは知らないようですね?)

ゼルの問いにリックは黙って頷く。慶次とのこれまでの浅からぬ付き合いからして、幼女をさらうような姑息な真似はしないし、そんなことをしたら全力で阻止するだろう。リックにはその確信があった。


試合は残念ながら、いや、予想以上に一方的な結果で終わった。いつもの「巣の」リックの状態にすら、遠く及ばないものであったのだ。聖槍は早々に第一セットを落とした。


「すまん。」

いつもと違い素直に謝るリックの肩に凜は手をおいた。

「気にするな。たとえストレートで負けても代表決定戦には持ち込める。この前ホームでストレートで勝ったのはそれだけでかい。」



「凜、その⋯⋯。」

リックは、歩き始めた凜の背中に、妹が誘拐されたことを告げようかどうか迷った。でも、言えなかった。

「じゃあ、僕行くよ。次の空戦、先鋒だから。珍しくね。」


ダグアウトを出る凜を見ながらリックは尋ねた。

(ゼル、凜は事件のこと、知っているの?)

(さあ、私からはこの件にかんしては何も言っていませんよ。ただ、凜も君の様子がいつもと違っておかしいことには気づいているようですね。)


凜が浮かない顔をしているのを見てマーリンが話しかける。

「空戦もダメっぽいですね。」

先鋒と次鋒の凜とメグが勝ったもののそのあと二人が落とし、最後のジェシカも苦戦している。


「いや、試合そっちはまだいいんだ。問題は、ゼルどころかナベリウスも応答しないんだ。」

凜の答えにマーリンも眉をよせる。

「ほう、ナベちゃんもですか?もしかすると、ちょっと大事おおごとかもしれませんね。私、ちょっと席を外して来ますので、次の団体戦トゥルネイ、パスしますね。」


「リック。」

凜に呼び止められ、リックはビクッと身体を震わせた。

「マーリンに急用が出来てね、悪いけど次の団体戦トゥルネイ、キーパーを頼むね。」

突然の依頼にリックは

「え、闘技場を出たら失格になっちゃうよ。」

驚いて尋ねる。

「いや、出かけたのは中身だけだから。」

凜が指さしたベンチにマーリンは腰かけていた。しかし、まったく反応がない。

「ロゼとかに言わないでね。マーリンの顔に落書きでもしそうだし。」

凜は苦笑するリックを見ながらさらに言葉をつづけた。

「リック、僕たちは仲間だ。それだけは忘れないで欲しい。今、リックがどんな状況に立たされているのかは僕にはわからない。でも、なにを今しなければならないのか。今、問われているのはリック自身の『騎士道』だということは忘れないでね。」


「俺の騎士道⋯⋯。」

リックの脳裏に様々な出来事が浮かんだ。


 慶次と何度か会っているうちに、リックは彼の影響を大きく受けるようになっていたのだ。

「パンクス」と言われていたファッションである。騎士道的には、騎士団の服装・装備規定に従わない、という意味合いがあり、いわゆる「不良」「ちょいワル」的なものである。彼は修錬をサボるようになったのだ。

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